住民を代表した意見とは
(長野県環境部による公聴会・飯田会場 11月23日)

 11月23日、飯田市の長野県合同庁舎で県環境部によるJR東海が公表したリニア中央新幹線の環境影響評価準備書に関する公聴会がありました。非常に天気のよい日で、段丘の上にある合同庁舎の窓からは雪をかぶった赤石山脈や紅葉の伊那山地、竜東の河岸段丘などが見渡せました。


 公聴会で意見を述べる人を公述人といいます。事前の申込の手続きが必要ですが、テーマについて意見を述べたいと思う人は誰でもなれます。15人の申込に対して15人すべてに後述の機会を与えられました。傍聴は自由で50人程度。会場内では環境部の担当官一人が聞き取り、もう1名が各自15分の発言時間を管理するという形です。当たり前ですが環境部は録音をとっているはずですし、そうでないとこころもとない。以下のニュース記事の引用をみればわかりますね。公述人15人のうち8人が大鹿村からの参加でしたが、全体として事業による生態系や生活環境の破壊についての心配が、そしてJR東海が出した準備書の不備についての批判が述べられました。そんな中で、中日新聞の長野県版によれば、飯田市上郷地区の住民は、「この地域にリニアが来てほしくて誘致を進めてきた。一年でも早い開業を望む」としたうえで、「駅、路線ができることで隣組が分断され、日常生活が崩される恐れがある」と述べたと伝えています。開業を望むという発言はこの方一人でした。

 いま(午前6時27分)NHK第一ラジオのニュースが、きのうの公聴会のニュースを伝えました。この上郷地区の住民の発言を伝えています。「駅の予定地周辺には井戸水を使っている人も多いが、こうした水源は調査対象になっていないので、調査をして保全策を示してほしい」と述べたといっています。しかし、「開業を望む」という発言をしたひとがいたとは伝えていません。「開業を望む」といった方があったのは事実ですが、15人中の1名ですから、中日もNHKもどちらが間違っているというような問題はないと思います。

 問題は、この上郷の住民が、地区の自治会を代表して意見を述べた点だと思います。水の問題に重点があったと、私は記憶しています。これは、リニアに賛成でも反対でも心配することですから、住民を代表してという看板には偽りなしと思います。しかし、じっさいにルートの位置が具体化した現在では、開業を望むという部分は本当に住民の総意を代表しているかは疑問です。以前から開業を望んでいたのだから、住民の代表者は自動的に開業を望まなければならないということはないはずです。住民の間には賛否両者あるけれど、どちらにしても水の問題は考慮して欲しいといういい方もできます。あるいは、環境部は「環境保全の見地から意見を」聞きたいというのですから、そして相手はJR東海ではないのですから、開業を望む立場からの発言であることをはっきり述べる必要はないはずです。この、もちろんこの方に限ったことではないのですが、こういう自治会代表者や地方自治体の首長の民主主義的な感覚をうたがいます。討論の場ではないし、反論を意図したものではないのですが、公述人の一人は、この地域では、リニアに反対という意見が言いにくい一種ファシズムのような状況があるといっていました。

 冷静に考えると、経済的にも、日本全体の鉄道網の構築の観点からも、防災対策上もリニアには何の利点もありません。むしろ、将来的に国家財政に負担を与える可能性、運賃値上げによって消費者の負担を増加させる可能性もある。技術的にも洗練された技術、スマートな技術でもありません。エネルギーの浪費でもあります。そして、工事により非常に深刻な自然破壊の可能性が極めて高い。

 リニアについて本当に正しい情報を知れば、自分が立ち退かなければならないという立場にたたされたとき、自分はリニアに反対してこなかったのだから、ましていくらかの期待をもっていたのだから、賛成してきたのだから、住民の総意、悲願なのだから反対はできないと考える義務があるでしょうか。あるいは国家的プロジェクト、国策なのだから、一個の住民としてそのように考えなければならないことなのでしょうか。国土交通大臣による工事の認可はまだなされていません。

(2013/11/24)