リニアに悪いことはない、こんないいことはない ― 市川宏雄講演会

 まえに書いた市川宏雄氏の講演会(※)を聞きました。内容は、本人もいっていましたが、ほぼ『リニアが日本を改造する本当の理由』と同じでした。稼ぎ頭の東京が一番大事で地方は常に東京に目を向けておればなんとかなる。当然、JR東海でさえアセスのなかで認めている環境への悪影響については何も触れませんでした。

※ 9月3日、於:豊丘村保健センター

 主催は下伊那北部総合事務組合です。下伊那郡北部の大鹿村、松川町、高森町、豊丘村、喬木村で作っている事務組合です。講演会の参加者は自治体の首長、議員、役場職員、自治会役員などで、広報では一般向けと思われたのですが一般参加者はごく少数のようでした。つまり、ほとんどは動員された聴衆です。最初に主催者による話がありました。話をしたのは喬木村の村長の市瀬(いちのせ)直史氏です。要約すると:

まず南木曽町、広島市などで災害があって重大な被害の生じたが、住民の生命と財産を守るのは首長、議員、役場職員)の第一の責務であるので、今一度地域の安全について考えていきたい。・・・当地はどこよりも早く昭和48年に中央新幹線建設促進期成同盟会を結成した。補正を加えた環境影響評価書とともに工事認可申請が出された。沿線自治体では工事による残土の発生、工事による生活に直接に影響を与える環境の変化、美しい自然景観の土地が本当に保たれるのか、開通後にストロー効果でこの地域がもっと経済的に疲弊してしまうのではないか、など住民からさまざまな声を聞いている。その解決については自治体は喫緊の課題として取り組んでいかなければならない。一方、主要都市圏を結ぶリニア新幹線のもたらす圧倒的な暮らしや経済活動に関わる影響は大きくこの地域を変えていくに違いない。この地域の明るい将来展望のために光の部分も陰の部分も真摯に取り組んで結果として地域全体が住民にとって豊かで夢のある将来像が描けるよう力をあわせて取り組んでいかなければならない。市川先生は著書の中で、リニア中間駅のなかで最もおおばけする可能性がある地域はこの伊那谷としるしている。本日の講演はこの地域の将来の地域づくりの参考になるのではないかと思う。・・・

 さて、講師の紹介に続いて講演に移ると市川宏雄氏が開口一番にいったことは:

先ほど市瀬(いちせ)村長がいいことも悪いこともあるとおっしゃったのですが、私は悪いことはないと思う。こんないいことはないと思っています。こんないいことはない、こんないいことはないことをどうやって利用するかというのがこれからの大きな課題です・・・

 この言葉に、なにか異様なものを感じました。講演が終わると質問の時間がありましたが質問は出ませんでした。最後に豊丘村村長の下平喜隆氏が講師へのお礼の挨拶をしました。要点は:

・・・喬木村長がいわゆるストロー現象のことをいったが、3年ほどまえ、リニアが決まっていよいよのとき、飯田高校に県会議員が来てリニアができたら飯田はどうするのだといった話があった。参加した高校生全員が反対したということで皆驚いたことがあった(参考)。伊那谷というところはもともと反体制が強いので、首長が大賛成だそれゆけといえば叩かれる。私自身は大賛成ですが。だから市瀬村長はいろんな角度からの声も説明しながら言っているので、ということだ。80%以上が購読する『信濃毎日』はいまだにリニアの記事を環境に悪い、工事をどうやってやるか、残土が大量にでて運搬車が非常に多数通るなどで大変なのだと、いよいよここまで来て、まだ具体的にリニアを生かしてこの地域を発展させていくのかという記事は一回もでていない。私はウィンウィンのリニアのタイプなので批判されているが、住民の不安をしっかり取り除きながら、リニアが通ることによって伊那谷の未来の可能性をしっかり信じながら将来に向けてしっかり勉強していくことが必要と感じた。私達は広範囲の発展の仕方を考えるが、そのなかで先生はまず何が起きるかというなかで、第三次産業の観光を利用しながらまずその入り口から動き出すのが現実的という具体的な提案をいただいた。まったくそのとおりと思った。今日の聴衆は役場職員、議員が中心であり、もちろん企業にやってもらわなければならないが、地域の合意形成について私どもがしっかりと雰囲気を前手に向けて役場が盛り上がっていかないと住民が盛り上がらない。そういう意味で、今日の話を中心にしてしっかりとわれわれもこれから頑張っていきたいと思う。・・・・

 豊丘村の村長さんは、最初の喬木村村長の挨拶についてああいう反応をする市川氏に気を使っていいわけみたいなことをいったのですが、市川さんて随分と威張った方なのだと思いました。もっとも豊丘村長さんは市川さんが受け入れやすい言い方で批判の強さを伝えようとしたのかも知れませんが。

 まるで、リニア・ファシズム。東京の御用学者はこうやって、自治体の職員や首長や議員を洗脳しようとしているわけだ。

 しかし、悪いことがあるというのは、建設推進派だって事実としてわかっているし、役場職員はもちろんわかっているはず。そして高校生に反対論が強いというのはその親達も批判的でしょうから、住民のなかに批判的な見方は相当に強いと判断するのがまともな首長だと思います。

 席は自治体別に設定してあって喬木、豊丘が前方、松川は前から後まで、やっぱりというか大鹿村の20名ほどは一番後ろでした(市川さんに噛み付くようなお行儀の悪い人はいないはずなのに)。高森も後でした(こちらにはいるかもね)。

 住民を守るということを考えるとしたら、この時期に呼ぶべき講師としてはリニアに反対の橋山禮次郎さん以外にいないと思いました。役場が公平な立場で業務を行うべきと考えれば「勉強」するということは反対意見を聞かなくてはならないはず。直接立ち退き対象になる人達に対して正しい情報を与えていないことになります。リニアが大いに意義のあるものなら立ち退いても良いが、そうでないなら土地は譲れないという判断を出来なくするので。強制執行があるとしても基本的に契約は自由であって、周囲がとやかく言うべきものではないのに、「雰囲気」をつろうなどという話はもってのほかだと思います。まるで戦前と同じじゃありませんか。リニア・ファシズムです。しかしファシズムはいずれそして意外に早くにひっくり返ります。

(2014/09/03)(2014/09/04 加筆)

補足 2014/09/06

 市川さんは翌日、名古屋で講演会をしています。名古屋の講演については『中日』(9月5日)が伝えています。しかし、9月3日の講演会については、参加人数が多かったのに、9月6日までの『南信州』、『信濃毎日』、『中日』は記事をのせていません。ちょっと驚いたことには、そのかわりなのかどうか分かりませんが、『南信州』が共産党の調査団が大鹿村を訪れたことを伝えています(9月5日、「リニア沿線の課題探る 共産党辰巳参議 飯伊地域中心に視察」)。