「文化的景観」とは何なのか

 飯田市歴史研究所がやっている飯田アカデミアという講座の第74回目、「魅力ある風景を未来へ 〜文化的景観の見方、守り方、使い方〜」を聞いてきました。講師の鈴木地平さんは文化庁の記念物課世界文化遺産室付技官という肩書きの方です。大学では地理学を勉強されました。飯田ははじめてとのこと。(講座案内チラシの表)

文化的景観とは

 前半は、「文化的景観」とは何なのかという話。レジメからいくつか言葉を抜き出すと:

人々は、その土地その土地の条件・環境に適応して(あるいは利用して)、地域に固有の土地利用(≒景観)を育んで来ました。
(2004年の文化財保護法の改正)(文化的景観とは)地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの
文化的景観=地域の土地がら・生きざま・暮らしぶりを表した土地利用のあり方のこと

 全国で47件の重要文化財的景観があるそうです(文化庁:文化的景観)。たとえば姥捨の棚田については「水源となる大池から更級川へと繋がる水系を軸として、用水や田越の給水手法が網の目のように張り巡らされ、近世から近現代に至るまで継続的に営まれてきた農業の土地利用の在り方を示す独特の文化的景観。」と解釈するわけです。

 で、「自然的特性、歴史的特性、生活・生業上の特性から文化的景観を評価する」ので「ありふれた普通」が実は「ただならぬ普通」で価値があると見るのだそうです。これらは「美しい景観」かといえば、必ずしもそうではなく、「イイ景観」なのだそうです。

 保存調査を実施するときに何を調査するかというと:

 こういう見方=「文化的景観メガネ」で地域を見直してみることが必要。

 ではその価値をどう捉えるかというと:「文化的景観は構成要素や景観単位の単なる総和」ではなくて「景観単位・構成要素の相互の有機的関係を把握」する必要があるそうです。それには、「1.景観の重層性、2.景観の象徴性、3.景観の場所性、4.景観の一体性を意識することが有効」とのこと。

「文化的景観を活かしたまちづくり」

 後半が肝心、「リニアを見据えたまちづくりを」と考える人たちにとってはこれが第一の関心事だと思います。でも、そういう考え方は「前半」で、実は、否定されてるんですけれど。「飯田に文化的景観はなりたつのか?」という副題が重要。

 誤解しないように断っておきますが、講師の鈴木さんはリニアについては全く何も触れていません。完全に原理論的な話に終始されていました。だから、あとは自分達で考えてねということ。

 最後に、短時間でしたが、グループに分かれて、飯田地方にどんな文化的景観があるのか話し合いました。出されものをあげると:

 同じ市内でもいろいろな文化的景観が成り立つ。「飯田の文化的景観もこれからどんどん発見されていったらいいなあというのが今日のまとめ」だから文化的景観メガネが大切。(文化財と認めることを)「きっかけ」と考えて、文化的景観を使って地域の持続性を考える。生活・生業が価値があるので、文化財になったから制限を受けるというのは本末転倒。文化財になったからいろいろできるようになったというのを目指すべき。というのが鈴木講師の締めくくりでした。

アセスメントの「景観」とは

 最後に講師に出された質問。環境アセスメントで取り上げられている「景観」と「文化的景観」の違いはあるいは、共通点は?

 講師の答えは: 景観という言葉はいろいろな意味で使われている。狭い意味では、見た目、見てくれということから、今日話した地域性とか風土とか土地利用とかの広い意味まである。学問分野ごとにも違う。環境アセスメントや今話題の世界遺産の分野では、ランドスケープインパクトなという話もあるが、色がどうだとか高さがどうだとか、あるいは小菅では妙高が見える風景を横切る電線がどうかというように、見た目、ビジュアルとしてどうなのかという意味で使われていることが多いかなあと思う。文化的景観からすればなければないにこしたことはないが、より大きな問題として、耕作放棄地はどうしようとか、後継者不足をどうしようかということも同じ景観という言葉を使ってやっているということかなあと思っている。

 ここからは感想。「文化的景観」というキャッチフレーズで表現さえる地域・地区を、リニア開通を「見据えて」活かすという考え方、「文化的景観」を守ろうという考え方、あるいはそのほかあるとは、思いますが、飯田下伊那において「文化的景観」という見方で地域を広く調査して取りまとめたことがあったのか、なかったのか、これまでなかったから、こんな講座をやってるのではないかと思いました。同じように、土砂災害対策とか動植物についての調査、考古学的な調査など地元の地域の特性をよく調べ広く住民に知らしめるということが行われ、住民の全体の理解と同意ができた後でなければ、リニアのように、突然に、爆撃機でもって一直線に爆撃していくような計画は受け入れられるものではないと思います。

 また、リニアのアセスメントの景観は「見た目、見てくれ」であることは事実だと思います。そして「見た目、見てくれ」であれば写真一葉でゴマカスことも可能であって、JR東海のアセスメントの景観の評価は、ゴマカシに近いといえます。

 大事にすべき文化的景観として、風越山と丘の上の街の景観を上げた方がいましたが、それは基本的に江戸時代までの中世的な産業社会構造のなかから出てきたものだと思います。それは丘の上以外の周辺の村々があってこそだと思います。「景観」はもともとはドイツ語のラントシャフトで、それは中世の農業地域と自治都市を含むひとまとまりの領域を意味するもので、実はそれが持続可能な社会のあり方に適しているから大事すべきということだと思います。田園と「都市」に代表されるドイツの風景はそういうものなのではないかと思います。

(2015/06/09)