『週刊 ダイヤモンド』6月20日号

 特集のタイトルは、「陸 vs 海 vs 空 乗り物 王者決定戦」:

鉄道、船、航空機 ― 。陸海空を操る(「あやつる」、ママ)乗りものには、ニッポンのすごい技術が凝縮されている。最近は、米中のIT企業も乗りもの業界にご執心。乗りものを取り巻く技術の方向性は多様化しつつある。。本特集では、そんな技術を余すところなく紹介。ページをめくれば、乗りものに夢中になっていた少年時代へタイムスリップできるかもしれない。・・・ (『週刊 ダイヤモンド』6月20日号 p29)

 という特集なのですが、リニアについてはとりたてて書いてありません。完成していないからということもあるでしょう。後ろの方の「世界最強の乗りもの」(p56〜57)というページの「世界一 速い」に「鉄道●日本 超伝導リニアMLX01 時速581km JR東海が実用化を進めているリニアモーターカー」と「量産模型●日本 リニアライナー超伝導リニアL0系 時速500km (*スケール時速 実際の速度は時速6〜7km) 本物のリニアよりも一足先に商品化。時速650km相当(実物の1/100)で走る」が並べて小さな写真で紹介してあります。

 リニアの実験線での最高速は603kmなのに随分古い記録を持ち出しています。『週刊 ダイヤモンド』の編集部は、リニアに注目していないのかもしれません。タカラトミーのオモチャとしっしょにされてはJR東海さんも気の毒。

 その前のページ「すでに実現していた未来 速度にこだわり過ぎた人々」では、リニアで失敗例としてよく引き合いに出されるコンコルドとテクノスーパーライナーが取り上げられています。

 また新幹線の500系も。90年代半ばに時速320kmで運行できるようにと開発されましたが、高速で走る目的のために、製造コストが高いこと窮屈なことから長続きはしませんでした。500系は、このページによれば、「東海道新幹線区間では他ののぞみ用車両(300系以降の各系列)と同じく270km/hまでしか出せず、車体傾斜システムを持つN700系(最高速度は同じく270km)の方が東京駅〜新大阪駅間を500系より5分速く走れ」たそうです。高速のために全ての技術的な障壁を2地点を直線で結ぶことで解決しようというリニア中央新幹線の発想は、あまりに幼稚だと思いませんか。

 コンコルドについては、「速さという長所を帳消しにしてしまう短所が多かった。・・・何より、通常の旅客機の3倍ともいわれる燃料を消費するため、航空会社が採用をちゅうちょした」と書いています。リニアもJR東海の説明によれば新幹線の3倍の電力を必要とするそうです。開発の当事者のJR東海以外には本気で導入しようとする国や事業者はいないと思います。船のテクノスーパーライナーも燃費が問題で一度も就航することはありませんでした。「経済性や環境対応と速度を両立させるのはいつの時代にも至難の業」と結んでいます。

 この特集を読んで分かったのですが、日本の新幹線はたしかに世界で最高速度で営業運転をしている鉄道の一つです。フランスのTGV、ドイツのICE、と新幹線が時速320kmで世界一です。しかし、それはJR東海の東海道新幹線ではありません。320km/hはJR東日本の東北新幹線の「はやぶさ」です。東海道新幹線は285km/hではるかに遅い。意外に、そんなところに、JR東海の葛西名誉会長がリニアにこだわる理由があるかもしれません。だとしたら、とんでもないことです。

(2015/07/22)

 忘れていました。「数字で会社を読む」(p98)という記事がJR東海について書いています。

 売上高と新幹線からの収入を見ると、JR東海は新幹線への依存度が飛びぬけて高いようです。むしろ、新幹線以外何もない状態に近い。

売上高運輸事業収入(%)新幹線収入(%)
JR東日本2兆7561億円1兆9072億円※(69%)5212億円(19%)
JR東海1兆6722億円1兆2432億円(74%)1兆1434億円(68%)
JR西日本1兆3503億円7970億円(59%)3759億円(28%)

※ 売上高から非鉄道事業8489億円を引いた数字

 だから、地震に備えて代替ルートを作るのだろうけれど、建設には莫大な費用がかかるので、新幹線への高い依存は将来にむかって弱点になりかねないと書いています。

 しかし、リニアのルート予定地も東南海地震の震源域に入っているわけですから、JR東海の考え方はおかしいです。大規模地震に被災した場合の対策を1社のみで行うというのは無理な話だと思います。

 JR東日本は東日本大震災で被災した気仙沼線と大船渡線について不通区間の復旧を事実上断念したようです。1100億円かかるそうですが国は黒字企業に補助金は出せないという立場(『朝日』7月22日)。見直されることになりましたが、一方で新国立競技場に2500億円もの費用をかけようとしてきたのです。なにかおかしいです。