もくじ


トランスラピッドvsリニア

「きっちり」と「ゆらゆら」

トランスラピッドは磁石の吸いつく力を利用。電磁石に流す電流をエレクトロニクス技術によってコントロール、吸いつく寸前、常に「きっちり」1㎝の隙間を残して列車を浮かせます。

リニアは磁石同士の反発力を利用。一方は超電導磁石、一方はガイドウェイの浮上用コイル。浮上用コイルは外から電気は流しませんが、超電導磁石が浮上用コイルの前を通過すると浮上用コイルに電流が流れて磁石になります。超電導磁石の磁力を打ち消す向きの磁力が生じるので、2つの間に反発力が働きます。超電導磁石の強さも、浮上用コイルの強さもコントロールできないので、バネの上に「ゆらゆら」浮いている感じです。

浮上量の違い・最低地上高


浮上量・隙間最低地上高
トランスラピッド1㎝ (隙間)15㎝
リニア10㎝ (浮上量 ※)10㎝

※ リニアの場合は構造上、上下方向で、浮上する量は10㎝でなくてもたとえば20㎝でも可能です。

⇒ガイドウェイの側面に8の字型に巻いた浮上・案内コイルを設置。車体側の超電導磁石は8の字の真ん中の位置を通過するので、コイルを設置する高さで浮上量は決まる。浮上量は磁石の強さとは直接には関係ない。

トランスラピッド社は、浮上するという他に「非接触技術」ともいっています。上下方向の隙間は8㎜~12㎜の間で制御されます。

腹をするかどうかというのが、最低地上高。トランスラピッド社は少しの雪なら平気なように15㎝の間隔にしたといっています。

ほぼ正確なトランスラピッドの構造図

新幹線小委員会で示された図面で1㎝となっている部分は実は15㎝。国土交通省はなぜこんな小細工をしたのでしょうか。

スキッド、浮上・推進磁石、案内磁石とガイドウェイとの3つの隙間はいずれも1㎝。

15㎝は最低地上高。

正面だけでなく側面も比較


①車体の本体部分、②サスペンション、③案内用電磁石、④浮上用電磁石、 ⑤ボギー(台車)

案内用と浮上用の電磁石は個々バネで台車に取り付けてある。台車は車体の本体にバネで取り付けてある(サスペンションを介して取り付けてある)。車体全長にわたって電磁石があり、それぞれ別々に制御することで、荷重の分散と、冗長性を図っている。


 超電導磁石は台車に直付け。台車は車体に空気バネで取り付けてあって、多少は首をふります。台車は先頭と最後の車両以外は次の車両との連結部にあります。従来の鉄道でもこのスタイルはあります。

 車体幅より台車が約15㎝とび出しています。従来の鉄道もトランスラピッドもレールの幅やガイドウェイの幅は車体より狭いのに、リニアでは車体の方が狭くなっています。

左右方向の隙間

トランスラピッドはメーカーが1㎝と公表しています。

左右の隙間について、ガイドウェイヤード説明会でJR東海さんに質問したら、高森町経営企画課を通じて、技術部門から機密事項と言われたので答えられないとのご返事がきました。

例えば、「リニアは筋の良い技術とはならない」と言っている阿部修治さんは左右は4㎝。ほかに10㎝といっている人もいます。JR東海は10㎝「浮上」とだけいっています。

山梨リニア見学センターの展示車両で確かめると・・・


リニアを研究している鉄道総合技術研究所編の『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』の曲線を通過するとき車体が左右にどれだけぶれるかを示した図。図の右上に「限度値:40㎜」と書いてあります。つまり、左右の隙間は4㎝なんでしょう。


地震で問題なのは10㎝じゃなくて4㎝じゃありませんか?

⇒左右のふらつきを考えると隙間の大きさは大きい方が良いのですが、磁力は距離の二乗に反比例します。したがって、いかに超電導磁石であっても、ガイドウェイ側壁の推進用コイル、浮上・案内用コイルとの隙間の距離をさらに大きくすることはできません。また、カーブでは直線より隙間は大きくする必要もあり、小さな半径の曲線は設置しにくいはずです。カーブでは路面は内側に傾斜をつけるので高速側だけでなく、低速側でもスピードの制限が生じるはずです。

10cm浮上の意味、バネで支えるリニア

千葉大学近藤圭一郎教授:車両を浮かせようとする電磁力と、車両を沈めようとする重力が自然にバランスする点で浮上高さ(ギャップ)が決まる。・・・この方式では、バランス点からずれると元に戻そうとする復元力が生じることが特徴である。すなわち、特に制御など行わずとも、ギャップの長さに関しては元から安定なシステムである。しかし、逆に言うと、積極的にギャップを制御することはできないため、浮上系の設計段階で、例えばバランス点から何cmずれるとどの程度の復元力が発生するといったような、磁気ばね特性を決める必要がある。・・・この磁気ばね特性を種々の要求から適切に設計すると、走行中に車両が軌道に当たらないようにするには10㎝程度のギャップが必要になると考えられる。(『鉄道ジャーナル』2017年4月号、p96 )

営業最高速度

トランスラピッド500㎞/h上海では430㎞
リニア500㎞/h

トランスラピッドの車両本体の設計速度は時速500km/h。上海では2003年11月12日に試験走行で501km/hを記録。

上海リニア(トランスラピッド方式)は「上海浦東空港」と「龍陽路」の間の約30㎞を結ぶ。駅は2つのみ。最高速度は430km/h。300㎞/hで運行する時間帯がある。トランスラピッドは敷設する路線によっては500㎞/h運転も可能。

トランスラピッドのガイドウェイ


(Wikipediaより)

トランスラピッドは跨座式ガイドウェイ

 跨座式は、台車がガイドウェイを抱え込んでいるので絶対脱線しないといわれます。

 国交省はリニアについては「ガイドウェイ構造を有する」と説明しているのに、トランスラピッドのガイドウェイについて何も説明していない。

 ガイドウェイの幅が車体より狭く、車体は開放空間を走るので空気抵抗の点で有利。

リニアのガイドウェイはU字溝型

リニアは車体の下半分がガイドウェイの中を走行。狭いすき間に台車がとび出しているので空気抵抗が大。騒音も出ます。

押さえがないので何かのはずみでF1のように空中にまいあがるかも。


青い矢印は空気の流れ

最少曲線半径(小回りがきくか)

トランスラピッド500㎞/h4500m
370km/h2000m
300km/h1700m
200km/h1000m
リニア500㎞/h8000m ※

※ JR東海の主張:時速500㎞/hという高速特性を活かすために路線は直線のルートを選んでいる。

参考:新幹線の最少曲線半径は東海道2500m、山陽新幹線4000m。ただし200~400mで低速走行する箇所もある。

登坂力

トランスラピッド1000m行くうちに 100m
リニア1000m行くうちに  40m

※ 中央東線から飯田線に入るルート沿いにリニアを建設する場合、茅野、岡谷、辰野にかけてのカーブは半径8000mではぎりぎりいっぱい。小回りが効き、登坂力もあるトランスラピッドなら現在の飯田駅に併設することも可能だったはず。地形になじみやすいのでトンネルを減らせる、がトランスラピッドの謳い文句。日本向き。

実験線の線型の比較


JR東海は「500㎞/hという高速特性を活かすため」に直線のルートを選んだと言ってるが、実は、リニアは曲線(カーブ)が苦手なのではないか。または、苦手だっていいじゃん速ければ、ということなのかも。

電力消費

時速300km/hで乗客1人を1㎞運ぶ場合
トランスラピッド34 Wh/座席・km
リニア54 Wh/座席・km

参考

ドイツの高速列車ICEは、 51 Wh/座席・㎞
日本の新幹線N700系 は、 28 Wh/座席・㎞

ドイツの高速列車 ICE3 が 40 Wh/平米・km にたいして、トランスラピッドが 41 Wh/平米・km という比較もある。(ICEの新旧の違い、単位の違い)

動力性能の比較


 カルマン・ガブリエリ線図では縦軸の値が小さいほど、エネルギー性能が良いといえます。「限界線」とは、1950年当時の一番優れた性能のものを結んだ線で、この線より下にあれば、1950年当時のものよりさらに性能が良くなっていると評価できます。大型タンカーや、貨物船、新幹線などの鉄道、大型旅客機が、そしてトランスラピッドも「限界線」より下にあります。ところが、JRリニアは、「限界線」より上にあり、エネルギー性能はリニアの方が劣ります。

紹介したカルマン・ガブリエリ線図は『リニア中央新幹線に未来はあるか』にあったもので、原図では「MAGLEV」と書いてあった部分を「トランスラピッド」と書き換えています。オランダのデルフト工科大学のJ.A.Melkertという方が書いた「スーパーバス:高速交通をより持続可能なものとするための航空宇宙技術の利用」という文献(PDF)の中に同様の図があって、「MAGLEV」の位置に「Transurapid 08」と書いてありました。("SUPERBUS: USING AEROSPACE TECHNOLOGY TO MAKE HIGH SPEED TRANSPORT MORE SUSTAINABLE",J.A. Melkert,Faculty of Aerospace Engineering, Delft University of Technology,The Netherlands)

武蔵野大学教授・阿部修治さんの指摘

 "スピードの追求には限りがないとよく言われるが、果たしてそうであろうか。 技術というものは一般に、成長期を経て成熟し、安定期を迎えるものである。高速道路は時速100km程度、高速鉄道は時速200~300km程度、航空機は時速900km程度で落ち着いている。レーシングカーが一般に普及することはなかったし、超音速旅客機が普及することもなかった。鉄道のスピードを絶えず上げ続けなければいけないと考えるのは、単に 成長神話に呪縛されているだけなのである。無理に背伸びする技術は特殊技術にとどまり、普及す ることはない。"
(岩波書店『科学』2013年11月p1295)

広い車体、大きな窓

トランスラピッドの車体の幅は3.7m。最大乗客数は1400人(12両編成)。リニアは車体の幅2.9m。最大乗客数は1000人(16両編成)。乗るならどっち?


参考: 在来線の電車より狭い車体幅。新幹線N700系電車の車体幅が 3.36m、飯田線の313系電車は 2.978m。

強磁界・電磁波の問題

トランスラピッドは電磁石に鉄心を使用しているため磁界の漏れが少ないし、もともと磁力も弱い。車内で地磁気以下。鉄心を使用しているのは、基本的に回転式モーターと同じ。

リニアで使用するのは空芯コイルのため磁界の漏れが大きい。車内で地磁気以上の変化する磁界がある。推進用コイルは一番外側にあって軌道外にも変動磁界が生じる

(2017/11/24 補足) リニアの車内で方位磁石の針の振れ方を撮影した動画を見つけました。⇒ 【実験】~リニアの走行中『方位磁石』の針はどういう動きをするのか~ 。車内のすごい走行音も聞けます。かなり揺れているのもわかります。

リニアの超電導磁石による強磁界の健康への影響は分かっていない。強力な力で鉄製品を引き付けるので物理的に危険性がある(点検や保線作業で置き忘れた鉄製工具の巻き込み事故など)。

リニアに鉄は禁物

北山敏和氏による吉原公一郎著『疑惑のリニア新幹線』の紹介文より

 リニアには鉄は禁物です。地上コイルを取り付けるボルトナット類はステンレス、コンクリートの鉄筋もステンレスです。
 もし保守作業者が鉄製の工具を置き忘れたら、リニアの超電導磁石がそれを高速の相対速度で吸いつけて、また地上物ともぶつかり、超電導磁石は壊れリニアは高速で落下します。片方の超電導磁石が壊れたらリニアは側壁にも激突します。
 嘘だと思うなら一度山梨実験センターで実験して見てください。
(北山敏和氏は元宮崎リニア実験線副所長)

注:リニアはドアごとに廊下を突き出して乗降りさせます。乗客持参の雨傘が吸い付けられないようにするためなのかも知れません。


図中、右下の囲みの中の説明文は以下のとおりです。

乗降装置について
超電導リニアは、ホームなどの建物が車両の走行に影響を与えないよう、通常、車両から約1.5m 離れています。したがって、乗降時には、ホームと車両ドア部分との間に渡り通路が必要となり、逆に列車の出発・到着時には、この通路はホーム側に引っ込まなくてはなりません。
山梨リニア実験線では、超電導磁石の磁界から乗客を守るため、プラットホームに、飛行場のボーディングブリッジのような乗降設備を設けてあります。この乗降設備により、磁界は遮蔽され、安全に車両に乗り降りできます。
乗降装置(伸縮方式)
通路自体が4層のボックスでできていて、乗降時にはジャバラ状に伸びる伸縮式のものとなっています。
(「山梨リニア見学センター:リニアの仕組み(乗降装置について)」 より)

一般に優劣は付けられない

 上海リニアと超電導リニア(マグレブ)は、鉄のレール・車輪システムでは実現が難しいとされる400㎞/h以上の超高速鉄道システムを実現する技術としては同様に位置付けられる。そして両者の違いは、原理的にはギャップの相違、技術的には常電導磁石と鉄心付きコイルの組み合わせと、超電導磁石と空心コイルの組み合わせの違いとして現れている。現時点では両者に本質的な優劣は見られないというのが筆者の見解である。
 一部に、上海リニアの方が先に実用化しているから、日本の超電導リニアよりは優れている、あるいは、上海リニアはギャップが小さく、地震が起きた際のダメージが大きいため技術的に劣っている、等の議論が聴かれる。しかし、これらの議論は全くナンセンスと言わざるを得ない。恐らく、日本の超電導リニアも技術的に十分に実用レベルにある(そうでなければ一般公募で旅客は乗せない)。
 地震時の軌道の不整に関しては、鉄のレール・車輪システムに比べれば、安全性の観点で許容度はずっと高い。超電導リニアの基本思想は、エレクトロニクス技術に頼る制御システムによらず安定な支持と案内を実現し、広いギャップでも超電導磁石を利用して必要な磁束を得るというものである。それに対して、上海リニアのベースであるドイツのトランスラピッド方式は、積極的にエレクトロニクス技術を活用してギャップ制御を行い、磁気回路的に短いギャップ長の優位性を利用するシステムと言える。どちらのシステムを採用するかは、適用する線区の距離、輸送需要、最高速度、保有技術、などを個々の場合について比較して決定するするしかないと考える。すなわち、一般に優劣は付けられないと考える。
(近藤圭一郎教授『鉄道ジャーナル』2017年4月、p98)

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