境川PAそばの残土置場について

~ 山梨実験線の社会的実験結果 ~

 4月12日に、豊丘村であったJR東海の工事説明会の質疑応答のなかで、JR東海さんがやった残土埋め立てで最大のものはという質問に、160万立米の境川PAそばのものが最大という回答がありました。「境川PAそばの」というのは質問者の「境川PAのところの」という念押しに「ご指摘のとおりです」と古谷工事事務所長がやや小声で答えたもの。施工者の技術や責任という観点では誰がやったかは問題なので、JR東海ではなく、鉄建公団がやったのではという声もあるのですが、ともかくリニアの建設残土の埋め立てです。ネットで見かけたこの埋立地についての資料を集めてみました。

[1] 残土を活用して住宅地開発を目指す

 まず、『山梨日日新聞』、2009年12月1日の記事(武並オンラインより)

リニア、境川に残土搬入開始 11年度までに160万立法メートル 
 山梨リニア実験線延伸工事に伴い発生した残土について、独立行政法人鉄道・運輸機構は30日、笛吹市境川町の処理用地に搬入を始めた。2011年度まで、工事で排出された土砂約160万立方メートルを埋め立てる。
 同機構などによると、残土処理用地は県有地で広さ22ヘクタール。この日はトラックが実験線のトンネル掘削工事で出た残土を次々に持ち込んだ。今後、笛吹市境川町-大月市笹子町黒野田の実験線一般区間約16キロの建設現場から搬出された土砂を搬入する。
 処理用地をめぐっては、1990年から98年にかけて、県土地開発公社が先行取得。リニア実験線の建設残土で埋め立てた上で、宅地分譲することを計画していたが、実験線工事の延期で計画は暗礁に乗り上げた。県は2000年、借入金負担を抑制するため、約40億円の県費を投入して購入した。
 処理用地は搬入終了後、県に返還されるが、その後の利活用策は未定。県リニア交通課の担当者は「地元住民らと十分協議して検討したい」と述べるにとどめている。一方、峡東地域の3市でつくる駅誘致推進協議会はリニア中間駅の候補地に処理用地を挙げている。

 時間順に並べ直すと。

  1. 1990年から98年にかけて、県土地開発公社が先行取得。リニア実験線の建設残土で埋め立てた上で、宅地分譲することを計画
  2. 1995年、阪神淡路大震災
  3. 実験線工事の延期で計画は暗礁に乗り上げた
  4. 県土地開発公社の借入金負担を抑制するため、2000年に山梨県が約40億円でこの土地を購入
  5. 2009年11月末、山梨リニア実験線延伸工事に伴い発生した残土について、独立行政法人鉄道・運輸機構は30日、笛吹市境川町の処理用地に搬入を始める

 各県ではやりだった土地開発公社の見込み違いの不始末を結局県が面倒を見た。19年たってようやくリニア工事の残土の搬入が始まったという内容です。分かることは、一つは、公社とか県のリニアに対する見通しが甘かったこと、もう一つは、当時リニア計画の先行きは実はほとんど絶望的だったということ。夢中でいたのは「田舎の政治家」だけだったということ。

[2] リニア技術開発の行き詰まり

 境川PAそばの残土には直接関係ないですが、次は『山梨新報』(週刊)、2007年2月9日のコラム「直言:新知事への要望「沈み込んだ山梨」脱却の施策を 椎名慎太郎」から。

 「ほっとけない」のワンフレーズ選挙で横内正明新知事が誕生することになった。・・・私なりに新知事に要望したいことを挙げてみる。
・・・
 リニア実用化問題への対応にも注目したい。実用化への可能性が不透明なままに県費投入を続けていいのだろうか。そして、仮に実現した場合、在来線はどうなるのか。4年前の知事選の際に、4候補による討論会が開催され、筆者が司会をした。その折に、「新幹線が通れば必ず在来線は民営化ないしローカル線化されるが」という質問をしてみた。横内氏の解答は「そうはならない」というだけの根拠の見えないものだった。
 しかし、考えてみて欲しい。リニア新幹線が東京と甲府を結べば、乗客はかなりこちらに移る。いまでも平日は空席の目立つ中央線特急は、採算が取れなくなるはずだ。
 エネルギー問題を考え合わせても、この実験線は観光資源と、外国向けの技術開発施設と割り切るべきではないのか。そうだとすれば、県費を投入する必然性はあまりないことになる。

[3] 実験線残土の活用例

 次はJR東海の環境影響評価書(山梨県分)の一部。

 当社の山梨リニア実験線工事における建設発生土の利用実績としては、当事業内での再利用の他に、土地区画整理事業、宅地造成、農地整備、宅地化が可能な平坦地の造成、運動施設・防災施設の造成、採石場の跡埋め事業及び農地・林地の平坦化の造成等がある。山梨リニア実験線工事で発生した建設発生土の内、これらのように再利用及び有効利用されたものは9割程度になる。山梨リニア実験線における発生土の有効利用の事例を図18-3-2に示す。(もとのページ全体)

 残土を有効活用した例として、都留市大平で谷を埋めて農地ができたと書いています。が、最大規模の埋め立てだった笛吹市の境川PAそばの埋立地については触れていません。比較的小規模な利用例はあったとしても、リニアのトンネルから出てくるような膨大な量の残土を有効に活用できる事業は10年そこらの短い期間では普通はあり得ないのでは?

[4] ゴミの上にゴミを重ねる

 次は『山梨建設新聞』の2014年6月24日の記事(「日本工業経済新聞社」のページより)。

境川残土処理場、リニア工事の作業ヤードに
 リニア実験線の延伸工事による発生土で埋め立てた境川残土処理場(笛吹市)の活用策について、横内正明知事は19日の県議会への知事所信表明で、JR東海からリニア中央新幹線建設に伴う作業ヤードとして、また県市町村総合事務組合から一般廃棄物最終処分場建設工事に伴う発生土の仮置き場として、それぞれ活用したいとの申し出があったことを説明し、申し出を受け入れる方向で検討したいと述べた。
・・・

ここにほぼ同じ内容の『山梨日日新聞』の2014年6月6日の記事のコピーがあります。一部引用:

山梨リニア実験線延伸工事の残土で埋め立てられた笛吹市境川町の県有地について、県は来年度から2026年度までの間、リニア中央新幹線工事の資材置き場などとする計画をまとめた。県が5日、地元住民の代表に説明した。現地は当初、宅地として分譲する計画だったが、頓挫した経緯があり、27年度以降の活用策は今後、検討する。
県などによると、県有地はJR東海が27年の開業を目指すリニア中央新幹線の工事用資材置き場、作業用敷地として利用する計画。同市境川町寺尾に 整備する一般廃棄物最終処分場の工事現場で生じる残土の一部の仮置き場としても使う。運び入れた残土は廃棄物の覆土工事で使うため、再び処分場に戻す。

 境川PAそばの埋立地は結局は、いまのところ、有効な利用方法はないのが現状のようです。なぜ、もともとの住宅造成という計画が出ないかといえば、活断層帯にあるこの埋立地に住宅は無理なことを山梨県は理解しているからです。土地開発公社が谷間の土地の取得を始めたのが1990年だそうですから、阪神大震災より前の話です。阪神大震災では盛土で造成した住宅地などが崩壊する被害が多数あったそうです。山梨県が2000年に購入した上に埋め立てさせたというのも理解に苦しむのですが・・・。谷そのままなら、なんらかの価値があったかもしれないのに、わざわざ手間をかけて利用できない土地を造ってしまったといえないでしょうか。

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 リニア山梨実験線はリニアの技術について実験するためのものだったはずですが、リニアの建設工事が環境や社会に及ぼす影響まで「実験」できたといえるのではないでしょうか。実験線では水枯れ、異常出水、騒音、日照被害など環境や生活環境への悪影響があるという「実験結果」も示されているし、トンネル残土の処分が簡単なことではないという社会・経済的に不都合な「実験結果」もでていると思います。

(2017/04/27、2017/04/30 一部加筆、2017/05/01 補足)