トンネル残土は伊那谷には置けない

 6月28日と29日にかけて新聞に「大規模盛り土造成地」についての記事がのりました。「大規模盛り土造成地」は危険だから各市区町村はそういう場所を住民に公表して注意を促すように指示したのに公表しているのは約半数の市区町村だけという内容です。市区町村の言い訳は土地の値段が下がるからなどだそうです。

 谷埋めの場合、面積で3千平方メートルを大規模盛り土造成地といっているようです。平均の深さ10mで盛ったとして3万m3、50mでも15万m3。現在、JR東海が検討中の寺沢川上流の松川町生田中山の予定地は、トンネル残土の置場の候補地としては一番小さい方ですが、30万m3。白紙状態(※)になった豊丘村の本山生産森林組合の山林内の候補地は面積で約8ヘクタール(130万m3)と「大規模盛り土造成地」の基準よりはるかに残土置場の方が大きいです。阪神大震災で崩れた西宮市仁川百合野町地区の場合は移動した土塊が約10万立米で34人が犠牲に。山体崩壊ですが三六災害の大西山は約320万m3(東京ドーム2.5杯分)が崩落して42名の犠牲者を出しました。

※ 本山生産森林組合はこれまで県のかかわる事業などでも土地関係の契約について、今回と同じようなことをやって来たのですが、なんで今回に限って県の林務課が指摘したのか? これまで行われた関連する事業は事業自体は「まとも」なものだったが、今回の130万m3の谷埋め盛り土はいくら何でも無謀と林務課は考えたのかも知れません。とすれば、県や国の職員の一部にはリニア関連の谷埋め残土の問題を問題視している人が少なからずいるということではないかと思います。そして、彼らは、リニア計画の実現が極めて難しいという見通しも持っているのではないかとも思います。

 『朝日』の30面の記事でコメントを書いている京大防災研究所の釜井教授たちの調査では、崩れやすいのは4~8度程度のゆるい傾斜の広い谷だそうです。こういう情報は、昨年JR東海が残土置場としての使用を撤回させた源道地の2つの沢の下流の住民や、寺沢川下流域の松川町生田の福与区の住民も学習会を開き既に前から知っていました。

 記事からわかることは、谷に盛り土をするのは危険なこと、現在盛土造成された場所はほとんどが危険なことを、国土交通省は以前から知っていたし、全国の市区町村も知っていたということ。当然、長野県も。

 リニア新幹線が、大量のトンネル残土を発生させること、処分先がほとんどないことは、計画段階で分かっていたはずです。2014年、当時の石原伸晃環境大臣は新聞に「掘削によって発生する土砂は莫大で、最終処分や仮置き場も決まっていない。ここがポイントだ」(『日経』2014/6/3付)と述べています。そして、国交省に対する意見の中で「本事業は、その事業規模の大きさから、本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷が生じることは否めない。」、「技術の発展の歴史を俯瞰すれば、環境の保全を内部化しない技術に未来はない」(環境省)といっています(新幹線を除く従来の鉄道建設はトンネル残土や切土などの建設残土を築堤ほか路線の建設工事の中でほとんど使い切っていた)。

 つまり、国土交通省はリニア工事で排出される残土は本来危険な谷埋め盛り土にせざるを得ないことを承知のうえで、工事実施計画に認可を与えたことになる。全幹法や鉄道事業法にトンネル残土について定めがないとしても、残土の処理方法についてほとんどを谷埋め盛り土とせざるを得ないのですから、その谷埋め盛り土については国土交通省として危険であるとわかっていたのですから、工事に当たってトンネル残土を谷や沢に処分しないという条件を付けるべきでしたが、そんな条件は付けていません。しかし、住民の意見を聞けといってはいますから、源道地の場合はそれを遵守した? 住民が気が付かないならやっちゃえば良いなのか?

 つまり、国交大臣のリニア工事の認可は国交大臣の職責として違法性が極めて高いといわざるを得ない。

谷埋め盛り土造成地は使えない ~ 山梨実験線で実証済み

 6月29日の『信毎』は下條村の金田村長たちが木祖村の谷埋め盛り土を視察に行ったと書いています。金田村長は「過去の地震で崩れた経過はなく、土を固める『転圧』をしっかり行えば安全に維持できるという印象を受けた」と語ったそうです。下條村では国道151号線沿いの道の駅のある谷の続き(火沢=ひさわ)に約100万立米の残土を置いて、宅地にしたり、事業所を誘致するというアイデアが前伊藤村長の時代からありました。その関連での視察。

 この沢には断層が通っています。沢の出口は阿智川です。出口のすぐ上流の阿智川に断層の証拠があります。川の流れが急に曲がってずれています。


赤線の延長上に道の駅から続く沢がある


 JR東海によれば、リニア関連で最大の谷埋め盛り土は160万立米、場所は山梨県笛吹市の中央自動車道境川PAの南側の2つの谷。もともと山梨県の土地開発公社がリニア工事の残土をあてこんで谷を埋め大きな平たん部を造り人口1000人規模の宅地造成を計画して、2つの谷を約40億円で買収。1990年頃のことです。しかし、残土が入手できなかったため、遊んでいた土地を山梨県が買い取って、その後に残土を埋めて造成したもの。しかしこの間、阪神大震災があり、この場所には曽根丘陵断層があって、宅地にするわけにいかず。現在は、近くのゴミの最終処分場の覆土の仮置場やリニア工事の資材置き場として使われているそうです。リニア山梨実験線ではトンネル残土の処理地がどうもうまくいかないという実験結果も得られたと国土交通省は認めるべきです。もちろん、JR東海も谷や沢に残土を盛土する不合理を良く知っているはずです。


 残土置場は土地収用法の対象ではありません。JR東海と地権者さんとの自由契約で話を決めるべきことです。JR東海、国交省、長野県、関係市町村が候補地の地権者を納得させるにはどうしたら良いか、どう騙したらよいか、どう情報操作したら良いか、昨年、3回ほど彼らは集まっていろいろ謀議したようです。共謀罪法案が通る前に。

 谷を埋めて造成した土地はあまり活用方法がないというのが常識になりつつあるのだと思います。『朝日』の記事の釜井教授によれば、安全にする方法もないではない。それは山間地で地滑り対策としてやっているような集水井戸を設置したり、地下水位の監視井戸で恒久的に監視し続けること、鉄の杭をスパイクのように打ち込むなどですが(※)、残土処分地にそれだけの金がかけれますか。始めから危険なものを作って対策をするということで、よほどの利益が見込まれない限りは、やらない方が良いはず。

※ これらは、豊丘村や福与地区の残土問題の学習会の中で学んだ話です。



合原、集水井戸

 下條村の合原というところには地滑り対策の集水井戸がいくつもあります。こんなところが滑るんですかというような場所なんですが、金田村長さんの言うように「しっかり転圧かける」だけでなく、合原とおなじようなことをやらなければ、道の駅の下は安全とは言えないと思います。そこまでやったとしても、これから造ってもそんなところに人が住宅を建てるでしょうか?

(2017/07/17)