更新:2018/08/31

夏休み特集 5:ちゃんと曲がれなきゃ

 まだまだ暑いです。汗かいて工作するのも、もう勘弁ということで、今回は机上の空論です。

 自動車には車輪がついています。車体に直接ついているわけじゃなくて、バネを使ってつけています。鉄道の車両も、車輪と台車の間にはバネがついています。実はバネだけじゃなくて、アブソーバとかダンパーというものが一緒についています。バネはそのままでは振動し続けるので、振動を抑えるための役目です。

 次は自動車のアブソーバについてのビデオです。アブソーバを外したときと付いているときの走り方の違いが、1分40秒付近から出てきます。

 アブソーバがないと、地面の凸部分(バンプ)を越えたあとしばらく車が上下に揺れています。アブソーバがあると上下の動きはすぐおさまります。

 次のビデオは、ちょっと古くさくて、しかも英語なんですが、サスペンションの中でダンパー(アブソーバ)が重要な役割をしていることが、見ればわかると思います。日本語の動画でこういうのを知っている方は教えてください。(⇒ こちらまで)

 さて、超電導リニアなんですが、上の2つの動画で言えば、アブソーバを外した状態で走っているのと同じような状態で走っているんじゃないかと思うのです。だって、バネのような性質の反発力で支えているのですから。だから、試乗会で「揺れ」を気にする人が結構多いのではないかと思うのです。

 超電導リニアは浮いているのですから、今さら地上との間にアブソーバやダンパーを入れることはできないですね。

 ドイツではジーメンス社が超電導浮上方式の開発をしていました。1977年頃、開発する方式をドイツ国内で統一する検討をして、超電導方式は採用しませんでした。その理由:

 常電導方式が選ばれた理由は、超電導磁石を用いたリニアモーターカーの研究で明らかになった、経済的・技術的デメリットが原因であった。
 最近の超電導技術は進歩してきているが、以下のような欠点が解決されていない。
 当時の結論は1987年に再度見直され、1977年の選択は間違っていなかったことが確認された。

⇒ 大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』、37ページ

 日本では日本航空が成田空港から東京都内へのアクセスのために磁気浮上方式の列車を開発しようとしました。HSST です。後に、開発が名鉄に移って、リニモになりました。日本航空が開発をはじめるときに、いろいろな方式を検討したなかで、やはり超電導方式は選びませんでした。その理由は:

ヘリウムの冷却,液化にかなり大きなパワーを必要とするし,また高価なヘリウムの散逸を防ぐことに技術的困難が予想される.その他強力な磁場が人体に及ぼす影響とか,高速における動安定など今後解明せねばならぬ多くの点があると思われる.

HSSTの開発について [PDF]

 黄色い文字の部分、超電導リニアが磁石の反発力を利用していることに原因があると思いませんか。

 BBCが制作したドキュメンタリーの一部を抜き出したのが次のビデオ。新幹線で振動(ハンチング・オシレーション、蛇行動)をどうやって抑えたかの説明の部分を抜き出したもので、元は、The Japanese Bullet Train Engineering Connections - BBC Documentary 。これも英語なんですが、絵を見れば分かるんじゃないですかという意味で紹介します。ただし、アブソーバの説明が簡単すぎるかな。

 高速列車を、できるだけ直線を走らせたい理由の一つがこのビデオの説明している、車輪の形の工夫にあるような気もします。車輪のレールと触れる面の形が平らになるほど急なカーブでは無理が出てくるはずですから。リニアがほとんど直線しか走らないとすれば、この点は在来の鉄道より優れていると言えるわけじゃないですよね。

 では、トランスラピッド(上海リニア)はどうなのということなのですが。トランスラピッドは、ガイドウェイに設置されたレールに対して常に1㎝のスキマができるように電磁石に流す電流を電子回路をつかって制御しています。スキマが常に一定ということは、ある意味ではね()、スキマがゼロ、つまり鉄のレールの上を鉄の車輪で走るのと同じだと思うのです。とすれば、従来の鉄道が車輪と台車の間にバネとダンパーを使うように、台車と電磁石の間にバネとダンパーを利用することもできるわけです。トランスラピッドはそれをやっています。これは揺れに関することです。

 さてカーブの問題。トランスラピッドなど常電導の特徴は急なカーブに強いという点。日本では意外に無視されている点だと思うのです。なぜかという理由とかメカニズムは考えなくても、実験線や営業路線を見れば分かるはずです。次に示すのは、実験線や路線の地図です。カーブのきつさはカーブの「半径」で示しています。例えば、8㎞より4㎞の方がきついカーブです。

 まず、超電導リニアの実験線。ほとんど直線だけです。


 次は、上海リニア(トランスラピッド)の実験線と上海の路線図。


ドイツ西部、エムスランドに建設されたトランスラピッドの実験線。北のループは半径約1.7㎞、南は1㎞。北は時速300㎞、南は時速200㎞で走行したそうです。全長31.5kmの約5割以上が曲線部。ここでの最高速度記録は435km/h(1989年)。


画面クリックで拡大。上海の路線図。矢印の数字はカーブの半径。この路線で2003年11月に時速500㎞で走行しています。営業運転では430㎞。全長は約30㎞。

 次の写真は、参考として、ドイツ、エルランゲンのジーメンスの研究所に造られた超電導方式のテストコース。ここで、車上1次方式、地上1次方式の2種類の車体の試験をしたそうです。


直径約280m、円周約900m。半径では約140m。


名古屋のリニモの路線の一部。リニモは最高速度が約100㎞/hと遅いのですが、「はなみずき通」駅と「杁ヶ池公園(いりがいけ)」駅のあいだに半径100m以下の急なカーブが2つあります。「津島軽便写真館」さんのサイトの「HSST大江実験線」にHSSTの大江実験線の平面図があります。一番緩いのが半径1500m、次に緩いのが半径300mと100m、一番急なカーブは半径25mです。70パーミルという勾配もあります。「常電導」の場合、どんなカーブでも浮上したまま走行します。

 トランスラピッドは1㎝しか浮いていないのに、時速500㎞で走っても大丈夫と考えれば、大したものです。逆に超電導リニアは10㎝浮かせてやっと安心なのかなっていう程度。カーブもちょうきゅうにまわれんような超電導リニアなんて必要ですか?

 おじさんの夏休み自由研究はこれでひとまず終わりにします。

背景はJR東海カラーの「のうぜんかずら」。JR東海はオレンジ色の価値を下げます。


(2018/09/02 補足)

※ こういうことです。

 トランスラピッドの場合、浮上する高さ、それからガイドウェイとの左右のスキマの長さについて、「わずかな変化」があると電磁石に流す電流を変化させて元に戻す仕組みになっています。「わずかな変化」というのが、高く(長く)なるほうも、低く(短く)なるほうも、1~2㎜だそうです。

 超電導リニアは、10㎝浮いているのですが、積載量などによって最大で4㎝までは沈みます。左右についても、遠心力そのほかの力の作用で最大で4㎝ずつずれます。

 変化する量だけを比べると、超電導リニアの4㎝に対してトランスラピッドは2㎜です。20倍ほど違います。さらに、超電導リニアが外力に対して釣り合う位置までずれるのに対して、トランスラピッドは外力に抵抗するような仕組みです。

 トランスラピッドの場合、レール面と電磁石の走行する面は平行と見なせるのでは、という意味です。

(2018/09/05 補足) 超電導リニアの計画路線では品川駅を出たところに半径900m、名古屋駅手前に半径2000m、駅先に半径900m、2000mのカーブがあります(4つとも、おそらく車輪走行部分)。これら以外のすべてのカーブは半径8000m以上です。


品川駅付近(工事実施計画申請書より)


名古屋駅付近(〃)