更新:2018/11/07

「リニア新幹線の整備促進の課題―トンネル工事が抱える開業遅延リスク―」


 国立国会図書館の発行する「レファレンス(The Reference)」(No.813、2018年10月20日)に、「リニア新幹線の整備促進の課題―トンネル工事が抱える開業遅延リスク―」という文書がのっています。

 おもな論点は以下。

 最近出版された、小林寛則、山崎 宏之著『鉄道とトンネル 日本をつらぬく技術発展の系譜』(ミネルヴァ書房、2018年04月20日)が紹介されています。その中から、次のような指摘を紹介しています。

中山トンネルの工事が難航したのは、事前の地質調査をないがしろにしたためですが、その背景には、わずか5 年間という無理な工程を押し付けられたことがあります。また、スピードを最優先するあまり、地形を無視してトンネル内の線形を直線にしようとしたことも、仇となりました。(『鉄道とトンネル』p258-259)

 JR東海は2027年の名古屋までの開業に固執しています。中川村では残土運搬のための県道改良工事のなかで四徳渡トンネルの工事で大鹿村側の出口付近で斜面崩落事故がありました。原因はトンネル工事業者が斜面崩落の危険をを避けるために工事方法の変更を提案したにもかかわらず、完成を急ぐJR東海が変更を認めなかったからとみられます。

 もともと超電導リニアは、平たく言えば、カーブが苦手。日本の国土で地形を無視せざるを得ない直線のルートを主張することは本来無茶です。

 『鉄道とトンネル』には次のような指摘もあります。

 曲線半径2500メートル以上、勾配15パーミル以下という新幹線鉄道構造規則の基準に適合した線型にしようとすれば、市街地は地下にトンネルを掘る以外に、山間部は山の中にトンネルを掘る以外に、ルートを確保するのは、事実上不可能です。
 こうして、トンネルへの依存度が高くなっている新幹線ですが、万一、大地震や大規模な地殻変動で、トンネルに変状や崩壊が発生すれば、復旧までに長い時間を要するというリスクがあります。また、高速で走行する新幹線では、トンネル内で一片のコンクリートがはがれ落ちたとしても、大事故につながる恐れがあります。

 ごくまともな指摘だと思いますが、いまだにトンネルは地震に強いから心配ないという人がいますね。事実としては、丹那トンネルとか魚沼トンネルなど、地震でトンネルが壊れた例はあるのですが。また、清内路トンネルのように施工が悪ければ完成後短期間で補修工事を行わなければならないこともあります。

 南アルプスは、変動が続いている若い山地です。付加体の地層がねじれた部分をリニアのトンネルは貫きます。トンネル業者も掘ってみないと分からないなんて言っています。それを2027年の開業に間にあうようにというのは全くの机上の空論に思えるのです。大鹿の釜沢で数年前に行われた水平ボーリングの位置は本トンネルとは小河内沢を挟んで反対側です。事前の地質調査は十分に行われたのでしょうか。