更新:2019/02/27

「1世帯当たり帰着便益」という???

 「リニア新幹線を考える相模原連絡会」のホームページに、「学習会での資料 ダウンロードできます」というのがあって、その中に、「リニアで得する人損する人 -数字でみる リニアと私たちの暮らし-」の「2016.11.20上岡直見さん講演資料 」というファイル。

 「Q10」の「リニア開業で地域の経済が活性化するのではないですか?」という質問の答えは:

途中県ではリニア開業による地域経済活性化を期待する声がありますが、「中央新幹線小委員会」の試算資料9によっても、便益の発生・生産額の増加は東京・名古屋・大阪圏が中心であり途中県に帰属する経済効果はわずかです。図は「空間的応用一般均衡モデルによる経済効果分析」を適用して、地域(ブロック)別の帰着便益・生産額変化を推定した結果(大阪開業時)です。結局、図にみられるように、便益の帰着・生産額変化は三大都市圏に帰属し、中間県の山梨・長野に帰属する割合はわずかです。山梨・長野にあるていど便益が帰属するようにも見えますが、これはもともとアクセスが良くなかったため計算上の改善が大きく評価された見かけ上のものです。また生産額が国内で三大都市圏、中でも東京圏にさらに集積することは、むしろ災害時に社会経済上の脆弱性を増すことになり、JR 東海が掲げている災害代替路の趣旨とも整合しません。
また沿線の自治体ではリニア事業に便乗した開発計画を検討しているケースがありますが、安易な期待は危険です。運輸政策審議会の「中央新幹線小委員会」での有識者コメントでは「過去の新幹線駅周辺の開発効果はみな期待はずれ。岐阜羽島・米原・三河安城などの駅前開発で成功例はないし、新横浜や新大阪でさえも地域の都市拠点になっていない。全国の事実に学び、駅が郊外地に設置された場合には、周辺での大規模区画整理や過度の都市機能整備は行うべきではない。中央新幹線を旧態依然の土地投機の具としてはならない10」と指摘されています。
9:http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tetsudo01_sg_000086.html
10:http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tetsudo01_sg_000077.html

 私もその通りと思います。で、「中央新幹線小委員会」の試算資料9というのは、国交省の交通政策審議会の中央新幹線小員会の第9回会合のページの費用対効果分析等の調査結果について(PDF形式:8.4MB) PDF 資料1(2/2)のことだと思います。こんな図表も使われています(下図)。



 この表で東京圏の世帯数は約1439万世帯、沿線他県(長野、山梨)は約105万世帯です(2000年国勢調査)。表の左の緑のグラフの数字を世帯数で割ってみて右の赤いグラフは、だいたい妥当な数字が出ていることがわかります。でも、長野・山梨で1世帯当たり所得が年間で7万5千円(南アルプスルート)も増えるなんて思ってはだめですよ? 所得と便益は多分違うんでしょうから。

 さて、(1)所得というのは、だいたい不平等なものでして、最近は格差が極端になりつつあるわけです。単純に世帯数で割ってみてもあまり意味はないと思うのです。東京圏で一番所得の多いクラスの世帯の収入と長野県や山梨県で同じく一番所得の多いクラスの世帯の収入って比べ物になると思いますか?また「一握りの」といわれる人々の世帯がどれほどあるのか? それらを無視して「これまで新幹線の沿線から離れていた沿線他県(山梨・長野)は、時間短縮の度合いが大きいため1世帯あたり便益が最も大きな値となって」といわれてもねと思いませんか?

 (2)リニアってのは金で時間を買える人が使うものといった人がいました。新幹線に自分のお金で乗ってる人は少ないとか聞いたこともあります。長野県、特に飯田近辺では、たぶん、東京へ出かける機会が多いのは、飯田市長、町村長、企業経営者、お役人、首都圏に本社のある企業の一部の社員とか、地元のある程度の大きさ以上の企業のある程度のクラス以上の社員などだと思います。それと逆方向ですが国会議員かな。そうそう、リニアができると、東京で開催される音楽会や展覧会に行くのに便利になるし、東京から有名な音楽家を呼べるかも知れないという文化愛好家も少数ながらいるでしょう。

 この2つのことからしても、この図の右側の「1世帯当たり帰着便益」って、一般地域住民にとっては、あまりにも意味が無さすぎる数字だと思うのです。一種のフェイクに近い説明じゃないかと。トリクルダウンは起きないというのが経済の常識だそうですから、リニアは千載一遇のチャンスなんていうかけ声はマユツバと思った方が良いと思います。「便益」を受ける人たちにとっては良いかも知れないですが、そうじゃない人にとっては、騒音がうるさいとか移転しなくちゃならないと迷惑なだけです。

 ついでにいうと、現状で東京名古屋方面へ高速バスの利用者がざっとで1500人なので(根拠)、この「便益」に関係あるのは、(2)でふれた人たちですね、この1500人だと考えると、時間短縮だけで、利用者が6800人になるとは思えません。経済原則に従えば運賃が安くならないと、一般大衆の乗客が増えることはないと思います。

『南信州』2017年6月16日、"県がリニア運賃を試算" によれば、リニアの飯田・品川間は7500円、高速バスが4200円。県が出した資料は、「リニア中央新幹線整備を地域振興に活かす伊那谷自治体会議」 の平成29年6月15日の 会議資料1(PDF:3,199KB) の5ページ。