更新:2019/06/28、改訂 2019/06/29

リニアを見据えた「新施設」

 6月22日に「リニア時代に向けた新施設の整備に関する『基本的考え方』(案)に対する住民説明会」がありました(『信毎』6月23日『南信州』6月24日)。新施設というのは、アリーナやコンベンションのことです。

 すでに新聞でアリーナについては、鉄骨造りで安上がりに建設しても赤字になると報道されていました(『南信州』4月14日)。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが試算した例:


当日配布資料より

 使用料収入が3500万円なのですが、会場を借りる場合の料金はどのくらいなのかと思いました。イベントの主催者が利用しようと思うような料金でなければ利用してもらえないと思います。試算の想定する図面に比較例として「アリーナ立川立飛」(定員3275人)がのっています。


当日配布資料より

 アリーナ立川立飛の利用料金は以下のようになっています。
Aコート/Bコート/Cコート
午前
(09:00-12:00)
4320円/時
午後
(12:00-16:00)
6480円/時
夕方
(16:00-21:00)
8640円/時
土日祝日10800円/時

 「土日祝日」を123日として1年中フルに利用があったとして、計算すると、年間の利用料金収入は 1億740万円になります。イベントスケジュールというページに1年間の行事が書いてあります。例えば今月(2019年6月)は全部で10日イベントがあります。ひと月のうち利用されているのは三分の一。年間通しても三分の一の日数の利用とすれば、1億740万円の三分の一で 3580万円。メインアリーナだけ比べれば「想定したアリーナ」とほとんど同じです。かたや人口が多い東京なので、使用料収入が3500万円という想定は過大ということはあるかも知れないけれど、過小ということはないと思います。

 B、C は、「使用料収入」がより大きくなる場合です。普通に考えると、利用日数が多くなる場合を想定しているわけです。「使用料収入」が6000万円で赤字はゼロ。A の 3500万円の約1.7倍。A が三分の一、33%の利用率(稼働率)だとすれば、約57%の利用でとんとん。東京都立川市の人口は約18万、飯田下伊那の人口は約16万。立川市にあるアリーナ立川立飛より飯田のアリーナの方が稼働率が高くなることがあるとは思えません。

 利用料金を変更せずに稼働率をあげるために、イベントを主催するスポーツ団体などに公的に利用料の補助をしたりすれば財政に影響が出てきます。

 一番安上がりに建設しても最低で年2500万円の赤字なのですから、止めた方がよいに決まっています。スポーツ振興のためとかそのほかお金以外の価値のある目的(※)があるとはいっても、それらは、なにもアリーナを造らなくてもできることじゃないかと思います。

※ 6月27日開催の検討委員会についての『信毎』28日の記事によれば、"リニア開業に向け"「『暮らしの質』を高めることが若者の回帰、移住や定住の促進につながる」として、スポーツ、芸術、文化などの多目的利用を想定している。"。製品の目先のデザインを良くすれば消費者に物を買ってもらえるという発想に近いと思います。『暮らしの質』とか、人がその地域に住みたいと思う動機について、広域連合はきちんと考えているのか疑問です。

 新聞報道でも書かれましたが、広域連合の事務局も「どんな施設ができるか、できないかも含めて方向性を出したい」(『信毎』6月23日)と言っています。お役人なのでことばを選んで話していますが、会場で聞いたかぎり、広域連合の事務局の人たちも内心は無理と思っているという印象を受けました。連合長や連合の議員がきちんとした判断が出来るかどうかが心配です。

 6月27日開催の検討委員会についての『信毎』28日の記事によれば、検討委員会では、施設の規模、財源、建設地、開設時期などを議論し、建設の可否も判断することになっています。委員からは「それぞれどんなメリット、デメリットがあるのか」といった質問があったそうです。「あれば良いなと思う程度の施設」について赤字はデメリットです。そんなことは質問しなくても誰でもわかるはず。こんな質問をする委員さんたちで、きちんとした検討ができるか心配です。

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