中川村議会(9月10日)の桂川村議の半の沢の埋めてたに関する一般質問内容と宮下村長の答弁です。質問の間の「※」ではじまる部分は宮下村長の答弁。質問の関連個所に挟み込みました。

 宮下村長の答弁について、主な点は、他の専門家(たとえば京都大防災研究所の釜井俊孝教授など)の意見を聞いてから受け入れについて判断するということです。

 半の沢の土地の所有者は、中川村の他に個人が2名の3者。計画を実施するには3者の同意が必要。工事前に所有権を移管すべきという点についての村の回答はやや不明確に思われました。

 やや気になる点:桂川議員は代替案として「台形盛土による道路築造」を提案しています。あるやり方の危険性を指摘する場合、あるいは反対する場合、代替案を示せという要求は、そのやり方を強行しようとする側の要求だと思います。代替案があろうとなかろうとそのアイデアは危険でやってもらては困るなら、ダメとだけ言えば良い。これは、聖書の時代からの常識で、権力から遠い人たちの日常感覚にはピッタリくるはず。代替案を示すべきなのは、やろうとする側です。

 『静岡新聞』によれば、静岡県の実に当たり前の意見について、JR東海はきちんとした回答がまったくできていません。静岡県内のリニアの工事の着工の見通しは遠のくばかりです。名古屋市内や中津川では事故よって工事が中断しています。今回の宮下村長の発言は、こんな状況をきちんと理解した上での発言かちょっと疑問です。


 

(1)県が設置した技術検討委員会(第三者委員会)の結論は地域住民の安全を保証していない。

 県の技術検討委員会の結論はJRの意見を取り入れたままで収束したこととなっているが、この内容は決して下流域の安全を保証したものではなく、改めて村として検証するべきである。私は昨年11月に技術検討委員会あての意見書を提出し、JRの当初案について詳細な批判的論証を行い、専門家である委員にしかるべき判定をするように意見を述べてきた。この意見書にはJRの全面盛土案に対して私は台形盛土による道路築造を対案として提示しているが、技術検討委員会では私の対案については検討された形跡がない。

 JRが最終形として提出した設計案は、当初設計案に対する私の批判をかわすためにあれこれの変更をしているが、相変わらず全面盛土の形態を変えようとしていない。技術検討委員会の議論の中では私が主張したように、盛土内の地下水位が上昇することや、土木構造物の100%安全は誰も保証できないことを認めているにもかかわらず、小渋川隣接地で谷埋め盛土を強行しようという無謀なものであり、私は下流域の住民の安全のためにはこの計画は断じて容認できない。

※(宮下村長) 第三者委員会の目的はJR東海の設計案についての検討が目的なので桂川議員の台形盛り土案については検討しなかったと思う。

 技術的な問題をここで詳細に述べるつもりはないが、大きな問題点に絞って指摘しておく。JRは盛土内の地下水位上昇を認めておきながら、盛土の安定計算は相変わらずの二次元断面で行っているが、地下水位が上昇した際に盛土崩壊の主要な要因となっている盛土底面でのフリクションレス(摩擦抵抗力がなくなること)の現象について全く理解していないか、無視している。阪神淡路大震災をはじめ、地震時や豪雨時の盛土内間隙水圧が上昇した際に大規模盛土が滑動崩落する現象は、この盛土底面でのフリクションレスが要因となっている事はすでに明らかになっている。

※(宮下村長) 三次元解析のソフトウェアは対価を払えば誰もが利用できるようであるので、JR東海が三次元解析を行っていないと言い切れるものではないと思う。

 一方でJRの計画は私の批判を受けて、小渋川の氾濫による盛土の洗掘やウォッシュロードの地下排水管への流入を避けるため、底面をソイルセメントにより残土を固化することとしている。あたかも安全を重視したかのような計画であるが、小渋川の氾濫や逆流による影響を阻止しようとしただけで、盛土の安定性はさらに悪化していることを委員の専門家も無視してしまっている。盛土底面のフリクションレスによる滑動崩落は、盛土の高さに対して盛土の底面が鍋底型のように幅広になればなるほど危険度が増大する。したがって、谷埋め盛土で盛土の底面を上昇させるほど盛土の安定性は悪化することになる。あわせて、谷埋め盛土は緩傾斜ほど滑動崩落の割合が高くなることが報告されている。JRの計画では盛土の底面となる現地盤面は当然下流に向かって勾配が付いておりその角度は平均で約5.7度である。この勾配は阪神淡路大震災による盛土崩壊の統計では震度6弱以上の地震で滑動崩落する割合の高い傾斜となっており、極めて危険度の高い盛土と言わねばならない。残土をソイルセメントで固化した部分も現地盤面とは基盤排水層で分離しており、滑動崩落の危険性を免れないだけでなく、ソイルセメント上段勾配は約0.3度と逆に大変水がたまりやすくなっている。

・ウォッシュロード:河床砂礫よりも細かい粒径の土砂で構成されている流砂…(weblio辞書)

・ソイルセメント…:この場合、盛土の材料のトンネル残土にセメントを混ぜて固めること

 (2)JRの計画では住民が被災することを想定しているのに、住民にはそれを隠して説明している。

 技術検討委員会の結論では、JRは盛土の崩壊は軽微であるようなことを述べているが、そもそもその根拠となる計算自体が意図的である。さらに言えば、盛土完成後の管理計画には「長野県現場必携」を管理基準案として記載しているが、そこには盛土内地下水位が盛土高1/2以上、あるいは時間雨量20㎜以上、累積雨量100㎜以上になれば住民避難の連絡をすることになっているが、これこそ桂川が指摘したように「土木構造物に100%の安全はない」ことをJRが認めて住民避難の基準を示したことになる。この基準を運用するならば、土砂災害警戒情報が発表されるような状況あるいはそれ以下でも、その都度、渡場地区の低段の住民は避難を余儀なくされることになる。しかもその指示を出すのは村役場である。累積雨量100㎜以上などは昨年だけでも2度発生しており、盛土内地下水位が盛土高1/2以上なども含めて今後は頻繁に発生することも予想される。

 そもそも村がこの管理基準を認めるということは、わずかな確率であっても住民が被災する可能性を示した計画であることを認めることであり、これが現実に発生したときにはJRや県ではなく村も被災の責任を負わねばならなくなるはずである。盛土の崩壊による災害は人為的災害であり、住民と村は本来被害者である。被害者である村が村民から責任を追及され指弾されるような決定をするべきではない。

※(宮下村長) 橋梁の代わりの道路であり、豪雨の場合、一般的に言って、通行規制などの警告を出す必要はある。

 JRと県は8月23日に行われた村のリニア対策協議会ではこの管理基準については報告せずに隠蔽したままであったが、渡場地区の説明会では住民からこの管理計画を指摘されてJRは渋々この管理基準案の存在を認めているのである。

 住民にとっては最も重要な情報を隠したまま了解を取り付け、あとは責任を村に押しつけようとする態度は許されるものではない。

 盛土構造では「十分な安全」を装いながら、一方の管理計画ではいざという時に住民避難を呼びかける仕掛けを残しておくというのは、住民を欺く欺瞞的手法に他ならない。

 このような計画を受け入れることは、将来に重大な禍根を残すことであり、絶対にやめるべきであることを主張する。村としてこのようなJRの提案を受け入れるとは表明していないはずであるが、改めて村長の見解を問う。

 (3)盛土の専門家への意見聴取には対案も盛り込むべきである。

 昨年9月定例会で村長は技術検討委員会の結論が出ても、村として盛土の専門家に意見を求めてから最終判断をすると約束している。

 私は技術検討委員会には昨年11月7日付で専門家として意見書を提出しており、その中でJRの当初計画に対する問題点を述べながら、県道を盛土により築造するのであれば、台形盛土により内部に管理用通路と水路を設置すれば、流域の地下水がたまらない安全な盛土による道路築造ができると主張しているが、この提案については技術検討委員会では検討がなされていない。したがって、私の提案とJRの計画案をそろえて盛土の専門家に提出して判断を仰ぐべきと考えるがどうか。わが国の盛土の研究は京都大学防災研究所の研究成果により飛躍的に前進しており、平成18年の宅地造成規制法の改正にも大きな影響を与えている。JRの計画はこれらの成果に学んでいないだけでなく、単に残土処分量をできるだけ増やしたいだけの計画に他ならない。

 私は残土処分や谷埋め盛土を一般的に否定しているのではない。谷埋め盛土でも直近に河川、集落、道路、鉄道など盛土が崩壊した際に甚大な被害を及ぼす可能性がある場合には計画すべきではないと指摘しているのである。このことは技術検討委員会への意見書でも繰り返し述べている。

 前述の阪神淡路大震災における大規模盛土の滑動崩落現象や、全国の盛土の崩壊について京都大学防災研究所はその知見を蓄積しており、真に第三者的な立場での意見を求めるのであれば、私の対案も含めて当該研究所での検討結果を尊重すべきである。

 村としては前村長からの約束のとおり、県道のトンネル残土を利用して盛土による道路築造が目的であるから、完成後も地域住民に安心感を与える道路にすべきであるから、より安全な盛土を目指すべきと考えるがどうか。

※(宮下村長) 第三者委員会以外の専門家の意見を聞いてから判断するつもりだが、危険でないという結論が出た場合は計画は認めざるを得ない。

 (4)盛土の管理は県が永久に責任を持つことを工事前に確定させること。

 盛土の形態がどのようなものになるとしても、盛土全体の管理は村では行わないことを9月定例会で村長は明言しているが、このことをJRと県が最終的に履行するためには、盛土工事の着手前に予定地の土地の所有権をJRあるいは県に移転する必要があると考える。それは盛土工事の前提条件として土地所有権をJRあるいは県に移転しなければ、土地所有者は盛土の管理責任をいつ問われることになるかわからないからである。

 そもそも、半の沢の盛土の管理について、前村長が「未来永劫盛土を県が管理する」ことを約束したことから、この盛土の話が出発しているにもかかわらず、県は「そのような発言はしていない」と翻したままである。この件について県は盛土の設計ができてから検討することにしていたはずであるから、すでに1年以上経過していることになる。技術検討委員会へのJRと県の説明では盛土完了後10年間はJRが盛土管理を行い、その後の管理を県が引き継ぐとなっているが、盛土完了時にはすでに県道の道路指定がなされているので、村や個人の地権者は道路法による命令を避けるためにも、所有権を工事前に移管しておかなければならないのである。道路法による命令とは、指定された道路が損壊を受けるような事態になった際にその要因を除去するために、道路管理者である県知事が土地所有者に対して除去命令をすることであり、土地所有者は命令に従う義務が生じてしまうのである。村長はこのことを理解しているのか問いたい。

 また、技術検討委員会の資料を見ていると盛土上部の水路は村の管理であるかのような記述があるが、これもおかしな話で盛土上部に設置された水路は盛土構造の一部であって村の所有物ではないはずである。安全管理上も問題のある盛土上の水路の管理など村が引き受けるいわれはないはずであるが、このことについて委員会では村側は異議を出さなかったのか。あわせて、盛土の最上流に設置予定の土砂吐き工という名の堰堤の管理も含めて県が管理するように、この施設を含めたすべての盛土関連用地の所有権を工事着手前に移転すべきである。この堰堤は盛土と県道を防衛するための施設であり盛土構造の一部であるから、これを村が管理することになれば堰堤が土石流で突破されて県道が損傷し、人命が失われるようなことがあれば、村が重大な責任を負わねばならないことになる。もちろん日常的な管理責任も負うことになってしまう。

 このような問題が発生しないように、盛土と関連施設の管理はその一切をJRと県が負うように、工事着手前に確認すべきであり、土地所有権の移転はそのための絶対条件である。

 さらに盛土管理で言えば、JRは盛土工事完了後10年経過後に盛土が安定していれば引き継いだ県はモニタリングを中止すると述べているが、そもそも、盛土が安定しているかどうかを盛土の変位計データや水位観測データを10年後まで調べて判定するなどとは、およそ専門家なら馬鹿げていると考えるはずである。

 盛土の変位は時間とともに継続しており、10年経過したから大丈夫などというものではあり得ず、数十年あるいは百年以上の単位で経過観察すべきものである。

 また、盛土内の地下水位は排水状態が悪化すれば上昇することは当然であり、地下排水管の目づまり現象はむしろ時間経過とともに増大するのであるから、水位観測は永久に行う必要があり、10年経過で中止するなどとはJRも県も盛土崩壊のメカニズムを何も理解していない(知らないふりをしている)だけでなく、技術検討委員会の専門家と言われる人たちが、この指摘を何もしなかったこと自体が理解できない。むしろ地下排水管の目づまり現象は10年後以降の方が高まるはずであり、JRの提出した管理計画は盛土が危険な状況になってから水位観測を中止するという言語道断のものであり、村は絶対に受け入れるべきではない。

 県はこのような永久に近い管理をできない(あるいはやりたくない)と考えて、自らが引き継ぐ際にはモニタリングをしないこととしたのであれば、大変危険で無責任な管理計画と言わざるを得ない。

(宮下村長) 長野県は将来にわたって管理をすると言っていると思う。

 県が永久に盛土の管理でこのようなモニタリングをしたくないのであれば、桂川が対案として示した台形盛土による道路築造に転換すべきであり、村長として県にそのことを提言してはどうか。