更新:2019/10/08

「リニア鉄道館」へいってきました

~ 遠心力が働いても、車体は安全に中央に戻ります。 ~
「磁気ばね」…その役割を果たすのが、浮上・案内コイル

名古屋の金城埠頭にある、JR東海さんの「リニア鉄道館」へいってきました。


名古屋駅からあおなみ線で24分、終点の金城埠頭駅を降りてすぐにあります。


入ってすぐは、最高速度を記録した車体の展示。左から、C62、新幹線試験電車300X、超電導リニアMLX01-1。暗いのにフラッシュ撮影禁止になっていました。


MLX01-1 の超電導磁石(台車)。


台車の前のほう。


台車の後ろのほう。台車は多少首をふるので車体との間を柔軟性のある材料でおおっています。500㎞/hものスピードを出すのにリベットの頭がとび出しています。おおい部分には、なんかシワがよったりダブダブしたりしています。あまり美しくないです。


客室はちょっと狭いです。実験車両なので車体が丸いので余計に狭く感じます。本来は4列ですが、片側を外してあります。シートに座らないようにと注意書きがあります。


シートの幅は2列分が107㎝。窓はタテ約39cmヨコ28㎝。


客室最後部。左に「1」と書いてあるところから後ろは磁気シールドがある部分。つまりこの下に超電導磁石を付けた台車があります。後部車両につながる通路が真ん中にあります。


後部からみた磁気シールドのある部分。上の写真で通路の見えている部分の反対側が見えています。


車体外側から同じ部分を見ると。赤い線から後ろに台車。磁気シールドは最後の窓の少し後ろから。

ガイドウェイと車体の隙間は何センチ?


緊急時にガイドウェイに接触するストッパー車輪


ストッパー車輪は台車から35㎜突出


低速走行時に使う補助車輪を出し入れする窓


台車(超電導磁石)とストッパー車輪


台車の出っ張り部分とガイドウェイの模型の隙間は80~85㎜程度。浮上は10㎝でも横方向の隙間は、こんなものなのでしょうか。以前、JR東海に質問したのですが、機密事項で教えられないとのことでした。横ブレの許容量は『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』によれば、40mm、ストッパー車輪の突出が35㎜なので、40 + 35 = 75。測定に誤差があるかもしれませんが、また展示物なのですが、本物もこんなものなのかなと思います。浮上は10㎝でも横方向は 7~8㎝でしょうか。10㎝浮上だから地震に強いなんて言えるのでしょうか?

超電導リニア展示室


超電導リニア展示室のスペースは意外に狭いです。左は、500㎞/hの世界が体験ができるミニシアター。他の運転台シミュレーターは列ができていましたが、ここはそれほど人気はないようでした。見ませんでしたが。


右から左が順路のようです。説明の順序と項目は以下のようになっていました。

1.~ なぜ進むの? なぜ浮くの? ~
 ガイドウェイと車体の秘密


ガイドウェイの構造や車体との関係を示す模型。模型は、MLX01-01?。

2.なぜ進むの?
 推進コイルの秘密


赤丸で囲んだところの説明文は:リニアを走らせてみよう! 右のボタンから順番にタイミングよく押していくと、リニアが進むよ。

3.なぜ浮くの? 1
 浮上・案内コイルの秘密


パネルの解説。

 実はこの実験装置が見たくて出かけたのです。


手前のハンドルを回すと、リニアの車体の模型を挟んだ2枚の円盤が回転します。円盤はガイドウェイを模したものです。本当は長いガイドウェイを円盤で代用しています。車体がガイドウェイの中を走るのと同じ状態を再現しています。ハンドルと円盤は直接つながっていません。ハンドルが回されたことを検知すると、モーターが円盤を回すような仕組みになっているようでした。壊れにくいかも知れないですが、直接回しているという感じがしないのは残念。


左右の円盤には「8の字型」に巻いたコイルがついています。実際のガイドウェイの浮上・案内用コイルにあたります。このコイルは上と下で巻く向きが逆になっていて、巻きはじめと巻き終わりが接続してあります。外から電気を流すことも、電気を取り出すこともできません。発生する磁力が弱いので、テコとオモリで車体の重量を軽くする工夫がしてあります。


2枚の円盤に挟まれた車体の模型。


円盤が回転していない状態。コイルと車体の磁石の位置関係に注目。8の字コイルの下側の中心より、車体の磁石の中心がやや上になっています。


回転していないときは車体の先端の高さは10㎜。


回転すると、20㎜まで浮き上がっていますね。

 さてこの実験装置では、走り出すと浮き上がることになります。しかし、実物はちょっと違う。


写真の赤枠は8の字コイルの上下のコイルの真ん中と、車体側の磁石の中心が重なる位置を示しています。実物では、走り出すときは赤枠の位置に車体側の磁石が来るように補助輪で支えています。スピードが約150㎞/hになると補助輪を引っ込める。すると、磁石がたとえば緑色の枠の位置まで下がって浮きます。車体の重量と浮上させる力の釣り合う位置です。

4.なぜ浮くの? 2
 速さと浮く力の関係の秘密


コイルに対して磁石が動くとコイルに発生する電気が変化することを示すためのものと思います。また磁石を動かす速さでも変ることを示すものだと思います。車体が8の字コイルの後ろを通過すると下の電流計の針が動きます。ただし、車体の磁石と8の字コイルの位置関係が円盤装置とは違っています。


手前のレーバーと車体の模型が連動しています。この実験は、8の字コイルじゃなくて、普通の円形のコイルを使った方が理解しやすいと思うのです。とくに、「拡大して見ると」の部分がかえってわかりづらくしているようです。

この実験装置は、電気が流れるとコイルが磁石になる じゃなくて 「磁石が近づいたり遠ざかるとコイルに電気が流れる」 ことを説明するものだと思えます。この装置の右上の説明文は、こんな感じ。コイルと磁石の運動については、8の字型コイルじゃなくて、一番単純なコイルで説明した方が理解しやすいと思いました。

5.なぜ曲がれるの?
 安定走行の秘密


パネルの解説。

 最少半径、つまりもっとも急なカーブの半径が8000mの超電導リニア。これは間近で見ればほとんど直線。「なぜ曲がれるの?」というほどのこともないとは思うのですが。これは動画で説明しています。


レバーと動画(下の写真)の動きが連動しています。



さて、この解説と動画を見て、(1)カーブでも列車は遠心力に抗してガイドウェイの中心を走ると思いますか、それとも (2)カーブをすぎて遠心力が働かなくなると中心に戻ると思いますか? 「磁気バネ」と説明しています。バネは力が働いている間は変形し続けます。リニアの場合は、例えば半径8000mのカーブであれば、例えば時速400㎞/hで走ったときにガイドウェイの中心を走るようにガイドウェイ全体をカーブの内側に傾けて建設します。そのカーブでは時速400㎞/hより速いときは外側に、遅いときは内側にずれて列車は走るはずです。JR東海とともに超電導リニアを研究開発してきた「鉄道総合技術研究所」の出版した『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』(2006年12月、119ページ)にはそう書いてあります(台車~地上間の左右変位)。

 「リニア鉄道館」のサイトに「楽しく学べる!学校教材」というページがあって、その中に中学生向けの教材「超電導リニアのひみつ」があります。その 11ページ。


 さて、(1)カーブでも列車は遠心力に抗してガイドウェイの中心を走ると思いますか、それとも (2)カーブをすぎて遠心力が働かなくなると中心に戻ると思いますか? どちらでしょうか?

6.安全のために/なぜ超電導なの?

 目玉の超電導技術についての解説はこれだけでした。「リニア鉄道館」という名前からすると、ちょっとがっかりした人もいるかもしれません。超電導状態のマイスナー効果やピン止め効果などによる、不思議な浮上現象の説明はありません。JR東海の優等生的な側面のあらわれかと思います。もちろんこれが当たり前で、山梨リニア見学センターでやっている超電導コースターのショーの方が本質を外れているのです。浮上原理の肝心な部分は「3. なぜ浮くの? 1 浮上・案内コイルの秘密」なのです。


 超電導リニアの台車の模型も、超電導磁石の展示もない。なにか、リニアに対して実のところは冷淡な感じの展示にも思えました。

鉄道の案内の原理

 鉄道の車輪がレールに沿って走る(転がる)原理の説明。


手前が新幹線の車輪、後ろに蒸気機関車の車輪。鉄道の車輪は車軸と一体構造。デフ(差動ギア)のある自動車とちがい、左右の車輪が一緒に回転します。矢印のレールに接触する部分(踏面=とうめん)に注目。外側に向かって傾斜がついています。車輪がレールに沿って走るのはこの傾斜があるからです。


それを説明する実験なのですが…。青いのが実際の車輪と同じ形になっていて、最後までうまく転がるはずなのですが、形の違う赤(ツツミ型)や黄色(円筒型)と同じ位置で脱線してしまいます。


3度目に上手く行ったと思ったら写真を撮った直後に脱線しました。大宮の鉄道博物館(JR東日本)や京都鉄道博物館(JR西日本)の装置では上手くいっているのに。リニア鉄道館のものは、多分、踏面の幅が狭く、踏面の傾斜がキツイこと、車輪が軽いためじゃないかと思います。リニア計画と同じで詰めが甘いというのか、脇が甘いのか。(京都のは、途中で黄色が脱線しますが、JR東海よりは安定してます。フランジのついた青いのもフランジはほとんど接触していない。)

 鉄道の車輪は、中心から右へ寄ると左へ戻ろうと、逆に左へ寄ると右に戻ろうとします。つまり左右にふれながらレールに沿って走ります。踏面の傾斜で左右の車輪の直径を実質的に変化させるからです。磁気バネで支えられた超電導リニアも、右へよれば左へ戻す、逆に左によれば右へ戻すことで走っているようです。このような走り方は、高速になると振動によって事故を引き起こす可能性があります(参考:松平精の零戦から新幹線まで)。


これは、新幹線100系(1985年~、左)と300系新幹線(1992年~、右)のモーターの比較。100系はサイリスタ連続位相制御・直流モーター、重量が800kgで出力230kwで16両編成で48台使用(11040kw、38.4t)、300系はVVVFインバータ制御・三相交流モーター、重量400㎏で出力300kwで16両編成で40台使用(12000kw、16t)。新幹線では、改良された制御方式とモーターを使って性能が向上しましたが、モーターを地上の大きなインフラとして建設するリニアではモーターを改良して性能を上げるのは容易ではありません。

      ☆       ☆       ☆

 リニア鉄道館の展示とか説明の仕方は、科学館とか博物館的な説明とは、ちょっと違ったものになっているようです。

 リニアの仕組みについて、普通に知られていると思われる、小中学校の理科の常識的な知識から説き起こす説明が不足していると思いました。大人にとっては復習になりますが。言い換えると、「磁力」と「電流」と「運動」の3つの関係の基礎的な説明が必要だと思いました。

 超電導リニアの展示の順路のはじめに、小学生向け(?)のワークシート(A4サイズ、1枚両面印刷)があって、自由に持ち帰ることができるようになっていました。実は、このワークシートの表面には、1.磁石同士の反発力や吸引力、2.コイルに電気を流すと電磁石になること、3.短絡したコイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすると磁石の動きに逆らう向きの磁石になること、この3つについてふれています。


 こういう説明を展示で示すところから始めないと、いきなり8の字型のコイルを見せられても、本当に超電導リニアの浮上や案内の仕組みが理解できるか疑問です。そうしないと、「ヌルフラックス」を利用した側壁浮上方式を採用した、日本のアイデアの利点が理解がしにくいだろうと思いました。

 一方、不用意に「磁気ばね」というコトバを持ち出すことで、「ゆらゆら揺れながら走る」不安定な乗り物という印象を与える可能性があると思います。不用意にとは、JR東海さんとしてはという意味です。超電導方式では、高速走行時の安定性に不安があるとか、あらゆる運転条件で乗り心地を快適にし得る技術的な見込みがないといった指摘が以前からありました(*)。

(*) ドイツが超電導を採用しなかった理由の一つ:すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない(大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』、37ページ)。HSSTを開発した日本航空が超電導を採用しなかった理由の一つ:高速における動安定など今後解明せねばならぬ多くの点があると思われる(中村信二『HSSTの開発について』)