[ 南信リニア通信 ]

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リニアってどんなもの?

 「リニアってどんなもの?」という題なのですが、報告の中心は、超電導リニアと同じように、超高速で走る上海リニア、トランスラピッドと比べてどうなんだろうかということが中心になります。

 この2人の人物を御存知ですか。アメリカ人で、名前は、パウエルさんとダンビーさん。何をした人たちでしょうか。

 2人の手元を拡大します。これはリニアモーターカーですね。実は、超電導リニアのアイデアを最初に考えたのがこの2人なのです。1967年に学会に論文を発表しています。(⇒ Brookhaven National Laboratory : Our History of Discovery) (2019/10/30 追記:左の車体は、1988年にJR東海がデザインを発表した MLU00X1 。実物大模型が奈良岐阜などで展示されました。)

 これが彼らの考案したリニアモーターカーの簡単なスケッチ。

 このコイルは巻き始めと巻き終わりが結んであって、短絡してあってとも言いますが、電流が流れるとコイルの中だけでぐるぐるとまわるようになっています。こういうコイルをループコイルというそうです。記号ではこんなふうに書きます。このコイルに、磁石を近づけると、N極を近づけるとしますよ、すると、このコイルのこちら側にN極が出来ます。こんなふうに、近づいた極と同じ極が、磁石の近づいた側にできます。同極ができるのですから、磁石とコイルの間に反発力が生じます。この反発力で列車を浮かそうというのがパウエルさんとダンビーさんのアイデアです。

 彼らのスケッチを分かりやすく書くと。超電導磁石が車体の下側にあって、線路というのか軌道の側には、ループコイルが敷いてあります。列車が走ると超電導磁石が近づいてループコイルとの間に反発力が生じて列車は浮き上がります。この仕組みについてパウエルさんとダンビーさんは1968年に特許を取っています。

 今日の報告ではカーブの問題がカギになるので、ちょっと、前もって説明しておきたいのは、カーブのきつさ、ゆるさの表現についてです。カーブというのは、円の一部とみなせます。そこでカーブの曲がり具合、きつさ、ゆるさを円の半径で表します。アール、イコール、なんメートルという表現です。数字が大きな程、ゆるいカーブになります。もうひとつ、曲がっている部分をながく走るほど、進行方向が大きく変わるという点が重要です。90度進行方向を変えるには、円周の4分の一走らなければなりません。半径8㎞のカーブなら約12.5㎞にもなります。

 では、超電導リニアの仕組みです。これがガイドウェイで、深さと言うか、側壁、横の壁の高さが約1.3m、幅が3.3m程の溝の中を列車が走ります。列車の高さが3.1mしかないので、なんか圧迫感がありますね。ガイドウェイの側壁に推進用と浮上・案内用の2種類のコイルがあります。両側についています。超電導磁石は車体のほうに積んであります。

 超電導磁石は、車体の台車と呼ばれる部分、この灰色の部分の両側側面についています。台車は、飯田線の電車なんかはこんなふうに各車両に2つづつ。3両編成なら6つですが、リニアの場合は、先頭車両の前のほうに1つ、最後尾の車両の後ろのほうに1つ、あとは連結部分に一つです。3両編成なら4つです。16両編成なら17の台車になります。新幹線16両なら32の台車がありますから、ぐっと少ない数です。

 これが、超電導磁石。台車の両側側面についています。超電導コイルって書いてあるのは、-263度の極低温で電気抵抗がゼロになるニオブチタン合金の電線を巻いたものです。1.35mの間隔で4つの超電導コイルがあります。周囲を液体ヘリウムで満たして極低温を保っています。さらに温度が上昇しないように、その外側に真空の部分があって、さらに液体窒素を使用する冷凍機で冷やすような仕組みになっています。かなり複雑な構造です。


(※印の画像はJR東海事業説明会資料より)

 推進の仕組みです。ガイドウェイの推進用コイルに電気を流して、個々のコイルのNSを変化させます。その変化につれて、車体の超電導磁石が反発力で押されたり、吸引力で引っ張られたりしながら、走るというわけです。この図解は、JR東海が事業説明会で配布した資料にあったものです。実はちょっと変なところがありまして。超電導コイルの間隔と推進用コイルの間隔が同じになっているのがお分かりですか。実物では、超電導コイルが1.35m間隔、推進用コイルが1.8m間隔で、4対3の割合です。向かい合うと少しずつズレがあるはずなのです。この図のように両方の間隔、ピッチが等しいと列車は走らないのではないかと思います。なんでこんな図解を使ったのかわかりません。

 浮上原理は、基本は最初に説明したとおりなんですが、JR東海の説明は、こうです。図の左側ですが、超電導磁石のN極がが近づいた瞬間、浮上案内用コイルの下半分はNになり上半分がSになる。下から反発力、上から引っ張る力が働くので、全体では上向きの力になるはずです。その上向きの力と車体の重さが釣り合う位置で浮上するという説明です。ただし、スピードが150㎞/h以下の場合は、浮力が十分でないので、低速走行時には車輪を使います。その車輪がこの部分を通ります。

 浮上案内コイルの少し詳しい解説です。浮上・案内コイルは上下2段になっていて、ちょうど8の字になるような巻き方、上下で巻く方向が逆になっています。超電導磁石が、例えばN極が、8の字の中心と同じ高さで近づくと、灰色で示した場合ですが、上下ともにN極が生じますが、超電導磁石と浮上案内コイルの上と下の部分との距離は等しく、生じる磁力は等しく、コイルに流れる電流も同じ大きさ、電圧も同じです。電流の流れが上下で逆方向なので、結局電流は流れず、磁力も生じない状態になります。この状態だと、走行抵抗がありません。ところが中心より少し下を通過する場合は、黄色の場合では、距離の近い下のNのほうが上より磁力が強くなります。下の方が電流も多いので、上に流れ込んで、これは逆流するので、上半分にはS極が生じることになります。この方式は日本の国鉄が開発したもののようです。(2019/10/29 追記 ヌルフラックス方式と呼ぶようです。)

 浮上させる力と、車体の重さが釣り合うということは、秤に物をのせた時、上皿が下がって針が止まるのと同じといえます。リニアの浮上力はバネの力と性質が似ているといえます。

 これがリニアの台車です。超電導磁石が両側の側面にあります。黒い丸のが低速の時に使う車輪です。横方向の支える力も低速時には不十分なので横方向を支える車輪もあります。黄色の台車の枠部分はアルミニウム製です。

(訂正 2021/10/17) 図中、「案内ストッパ車輪」を「アルミニウム製」としましたが、材質はステンレスです。

 次は案内の原理、ようするに、左右どちらに車体が寄っても、元にもどす力がバネのようにに働くのでカーブも曲がることができるといっています。JR東海が運営している名古屋・金城埠頭の「リニア鉄道館」では「磁気ばね」というコトバを使っています。

 念のためですが、カーブ直前を上から見た図解です。直線からカーブに突入しようとするとき列車は直線を走ってきた勢いがあるので、図でわかる通り、車体の前方は、この図では進行方向右に寄ることになります。すると側壁から左へ戻そうとする力が働くので列車の向きは左へと向っていきます。

 つまり、超電導リニアは左右も上下もばねが支えているのと同じなのです。バネは伸び縮みするので、そのゆとりを考えると10㎝位は確保しておかないと路面や側面に接触してしまうということなのではないかと思うのです。

 ちょっと余談になります。山梨見学センターでは、こんな実験をして見せています。超電導コースターというらしいです。ジェットコースターのようなもので、コースにはネオジウム磁石が敷き詰めてあります。下部に超電導物質を取り付けた発布スチロール製のリニアの模型がこのコースを浮いた状態で走り回るという実演です。実験の最後、説明の一番最後に担当者が、本物のリニアの走行の原理はこのコースターとは全然違いますと説明しています。これだけの実演を見せて、最後に原理は違うっていわれても、超電導って、なにか不思議な力があるんだ、素晴らしいものだ、と思い込む人がいても仕方ないんじゃないでしょうか。この実験は今宮神社の上にある風越こどもの森公園のおもしろ科学工房でもやっています。超電導は不思議な力をもっている、だから超電導リニアは素晴らしいという印象を受けるお子さんもいるかも知れませんね。飯田のコースターは、飯田信金が寄付したそうです。100万円ほどしたそうです。

 さて、超電導リニアがどんなふうに開発されてきたかということなんですが、新幹線のできる2年前の1962年から旧国鉄の鉄道技術研究所は磁気浮上式鉄道の研究を始めていたということで、この時期はまだ超電導じゃなくて、永久磁石とか電磁石を使って、常電導って言いますね、それらを使う方向で研究していたんじゃないかと思うのですが、その時期の詳しいことはよくわかりません。

 冒頭で説明したとおり、アメリカで1967年に超電導リニアのアイデアが発表されると、1970年から国鉄が超電導方式の研究を始めています。アメリカの技術をパクったなんていう人もいますが、この言い方はちょっと何ですね。同じ年に、全幹法ができています。全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するもので、地域の振興に役立つもの、幹線鉄道のネットワークを形成するに足るなどのことがうたってあります。ネットワークを形成するに足るかどうか。リニアの走行方式が従来の鉄道と全く違うことはネットワークを作るうえで大きなマイナスだといえます。この時代、1977年に宮崎実験線ができていますね。

 1973年の、全幹法の基本計画路線に中央新幹線があがっています。ルートは、東京から甲府、名古屋、奈良を経由して大阪まで、ですから、民営化後でいえば、これはJR東、JR東海、JR西にわたる範囲になります。

 国鉄の分割・民営化が1987年。リニアを研究していた鉄道技術研究所はJR総研(鉄道総合技術研究所)になり、リニアについての研究成果はもちろん、他の鉄道技術についての研究成果も、JRグループの共有財産ということになりました。

 JR東海は民営化したその年に社内に「リニア対策本部」を設置しています。つまり、JR東海では東海道新幹線の比重が80%にもなるので、東海道新幹線と同じように、首都圏と大阪圏を結ぶ中央新幹線は、東海道新幹線の代替路線になるので、そこにJR東日本や、西日本が参入するのは面白くないということだったのか、まあ、2つの路線の一体的経営を目指そうとしたのでしょう。翌年、1988年9月に、JR東海はリニア実験線の建設に1000億円程度の拠出する考えを発表しています。つまり唾を付けた。実際には山梨実験線の総経費3200億円の中の建設費1500億円を含む2000億円を負担しています。山梨実験線は将来の営業路線の一部になるという計画でした。

 1989年には、JR東、JR東海、JR西の三者は協議をして、JR東海が中央新幹線の経営主体になることについて合意しています。他の2社は技術的にみてまだ時期尚早と判断したのだろうと思います。たとえば、JR東日本元会長の松田昌士氏は「歴代のリニア開発のトップと付き合ってきたが、みんな『リニアはダメだ』って言うんだ。」と語ったそうです(『日経ビジネス』2018年8月20日号)。

 すこし飛ばしますが、1996年に、JR東海・JR総研・鉄建公団よって山梨実験線が開設され、JR総研とJR東海が共同で技術開発することになりました。2006年9月に誕生した第一次安倍内閣は、長期戦略指針の「イノベーション25~夢ある未来の実現のために」の中間報告にリニア中央新幹線を盛り込みました。そして、2007年12月、JR東海は南アルプスルートで2025年までに自力で建設すると宣言します。

 2009年 7月、国交省の実用技術評価委員会が「超高速大量輸送システムとして運用面も含めた実用化の技術の確立の見通しが得られた」と評価しますが、この実用技術評価委員会は、JR東海のプレゼンテーションなどは公開されていますが、議論の議事録は公開されていません。

 2010年になると、3月に、国交大臣が交通政策審議会鉄道部会に「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定について」諮問して、中央新幹線小委員会の設置されます。ところが、4月には、JR東海は、景気低迷と新幹線収入の減少を理由として、2014年に建設着手、開業を2027年に変更しています。

 中央新幹線小委員会は20回の会合を経て、2011年の4月に、答申案に対するパブリックコメントの集計結果を公表します。パブリックコメントでは、約73%(888件中648件)が「中央新幹線整備に反対、計画を中止又は再検討すべき」との意見でした。この間3月11日に東日本大震災と福島原発事故があったので当然の結果だと思います。しかし、パブリックコメントの結果は考慮されず、5月に答申されると、大畠章宏国交大臣がJR東海に建設を指示をしました。こんな時期にJR東海の会長、葛西敬之さんは、5月24日、産経新聞に「原発継続しか活路はない」という寄稿をして、ちょっと話題になっています。(2019/10/29 追記: 葛西さんの文章について、どんな内容だったのか質問が出ました。コピーをここに載せました。)

 さて、リニアの建設主体、経営主体について諮問を受けて始まった交通政策審議会鉄道部会の中央新幹線小員会の第1回目に委員が良い質問をしています。同じように、高速で走る磁気浮上式鉄道として上海のリニアがあります。というか、当時すでに営業運転をしていました。上海リニアは、トランスラピッドと言いますが、トランスラピッドと超電導リニアとの技術的な違いはなにか、それから、トランスラピッドを日本で採用するとすればなにか支障があるのかという質問です。

 国交省の潮崎技術開発室長は次のように答えました。まず、「一番の違いは浮上する高さ。揺れなどを考慮すると高速走行では常電導で1㎝浮上のトランスラピッドより、超電導磁気浮上方式の10㎝浮上が適している。」、そして、「500㎞/hを目指す場合、常電導の1㎝浮上は不適切で、超電導の方が高速安定性が高い。地震が起きたときも含めて安定的に走るためには10㎝の浮上高さが必要。トランスラピッドは、現在のところ営業最高速度430㎞/h走っているが、500㎞/hは実現できていない。」

 これは、トランスラピッドを最終的に開発していたトランスラピッド・インターナショナルのホームページなのですが、なんと、潮崎さんの説明の7年も前のことなんですが、2003年11月12日に試運転段階の上海で501km/hで走ったというニュースが出ています。潮崎さんは、トランスラピッドは500㎞/hは実現できていないといっています。つまり委員に間違った情報を提供しています。

10㎝と1㎝の違いを潮崎さんは強調しています。では、トランスラピッドのもう少し詳しい仕組みを開発の歴史を追いながら説明したいと思います。

 ドイツではジーメンスの技術者だった、ヘルマン・ケンパーという人が1922年ころから磁気浮上式鉄道の研究を始めていました。彼は1935年に、ドイツ特許庁から磁気浮上式鉄道についての特許権を与えられます。ケンパーは磁気浮上鉄道の父と呼ばれています。ケンパーは、電磁石で鉄の玉を隙間を空けて空中に浮かすという実験を行っています。これが電源で、ここにちょっとした電子回路があって、すきまの大きさの変化を電気信号にかえて、信号が電子回路に入ると、電磁石に流れる電流が変化します。隙間が大きくなると、電流を増やして引っ張る力を強くします。近づき過ぎると今度は電流を弱めます。だいたいこんな仕組みです。この電子回路は、当時は真空管を使用していました。真空管の信頼性は低いので実用化は無理でした。その後、ご存じのように戦争になってケンパーの研究は中断します。


(☆印の画像は、『磁気浮上式鉄道の時代が来る?…』より)

 1969年、当時は西ドイツ政府が鉄道の近代化のための「高性能・高速鉄道」(HSB)計画の研究を民間企業やドイツ連邦鉄道に委託します。これを受けて、クラウス・マッハイ、メッサ―シュミット・ベルコウ・ブロムは普通の電磁石をつかった、常電導と呼ばれますが、電磁石の吸引力を利用した方式の開発を始めました。すでにトランジスタは発見されていて、性能の良い半導体が利用できるようになってきたという背景もあったと思います。 これはクラスマッハイ社のトランスラピッド 04型。もちろん常電導方式です。1973年から実験を始めて、1977年に約250㎞/hを達成しています。トランスラピッドという名前はもとはクラウスマッハイ社がつけたものです。ミュンヘンの実験線を走っている様子です。線路がS字型にカーブしています。

 ドイツのメーカーでもジーメンス社は、じつは超電導方式について研究をしていました。エルランゲンという所のジーメンス社の研究所の敷地内に半径約140mの環状、円形のテストコースを建設して、2種類の車体で実験をしています。1972年から1976年頃にかけてです。両方式を開発していたドイツですが1977年に開発する方式を統一することになります。結局、常電導のトラスラピッド方式になったのですが、その判断を下した理由は現在の日本の超電導リニア方式の仕組みの特徴がなぜそうなっているのか理解する参考になると思います。

 常電導を選んだ理由として、超電導の渦電流効果や低速度のブレーキ効果の問題。浮上、着地システムというのは低速走行用の車輪が必要なことです。もちろん超電導磁石を冷やすための装置も必要で、それらを列車に積まなければならないこと。常電導では不要です。超電導磁石の強力な磁力の人体への影響も上げています。そして、「すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない」と。これは、磁気バネで支えているということに関連するのではないかと思います。日本では日本航空が磁気浮上鉄道の開発をしていたの覚えている方がいるかもしれません。後に名鉄が開発を引き継いでリニモを完成させました。日本航空も常電導を選んでいます。その理由として、ほかに、高速における動安定が不明とか、早く実現できるだろうという利点も上げていますね。

 これは、1983年に製造されたトランスラピッドの06型。1980年に建設の始まったドイツ西部のエムスランドの実験線を走っているところです。これは、1980年代半ば過ぎ頃に制作された宣伝用の映像の一コマです。すでに、上海リニアに近い規模の車体になっています。このころ、世界各国に売り込みを初めていて、日本では三菱商事と伊藤忠商事が窓口でした。1987年の12月には、JR東海の葛西敬之氏がエムスランドの実験線へ視察に行っています。

 ドイツは中国への売り込みに成功して、上海空港と上海郊外の龍陽路間に上海トランスラピッド(SMT)を2004年1月に開業させました。さきほどいったように、開業直前の2003年11月には、高速すれ違い実験で一方の列車が時速501㎞/hで走行しています。上海ではトランスラピッド 08型を採用しています。すでに15年間、もうじき16年になりますが、毎日毎日、営業運転をしています。現路線の運行最高速度は430㎞/hです。

 トランスラピッドはエレクトロニクスを活用してガイドウェイと車体の隙間を常に1㎝に保っています。これはトランスラピッドを正面から見たところです。これがガイドウェイ。モノレールによく似た構造です。ここ(A)に電磁石があって、この部分(B)の鉄のレールに吸い付こうとします。電磁石はこの(C)腕の先にあるので車体が浮上します。横方向(D)にも電磁石があって左右の隙間も一定に保ちます。そして、どんなスピードでも、常に1cmの隙間を保って、浮いています。

 横から見たところです。超電導リニアは連接台車方式ですが、トランスラピッドは床下の全長にわたって浮上用磁石がついています。1両当たり、台車4つ、各台車に6個の磁石からなるユニットが4つあり、サスペンションで台車に取り付けてあります。浮上用の電磁石は1両あたり片側だけで、06型の場合で96個ありました。荷重を分散することで力の弱い常電導でも浮上できるわけです。電磁石は超電導磁石よりはるかに工業的には歴史があって慣れた技術で信頼性がはるかに高いうえに、数が多いので冗長性も高いはずです。浮上用の電源はバッテリーを使用、誘導集電方式で充電しています。車庫への引き込み線では架線を使っています。

 超電導リニアは10㎝浮上と言われているんですが、左右の隙間も10㎝でしょうか? 2014年に山梨見学センターで保存されている実験車両の台車のそばにガイドウェイの実物大の模型が置いてあったので、測ってみたら、7㎝でした。

 これは、名古屋のリニア鉄道館で測っているところ。約8.3cmでした。じつは、下市田のガイドウェイ組立保管ヤードの説明会のとき、JR東海に質問してみたのです。その場で回答できず持ちかえって、後日、技術分門に聞いたところ機密事項ということで回答できないとの返事が町役場総務課を通してありました。つまり公式には、10㎝ではなく不明なのです。

 しかし、このグラフ、これはカーブを走るとき、速度が異なると中心からどれぐらいずれた状態で走るかについての実験結果を示しています。鉄道総合研究所が出版した『ここまで来た!リニアモーターカー』という本にありました。縦軸はカーブの中心線からの外側、内側へのズレる量を示しています。ヨコ軸は列車の速度です。斜めの線は計算ではこうなるという、予測です。小さな点で示しているのが、実測値です。時速400㎞/hの時に中心を走っているのがわかります。これより速い550㎞/hでは約1㎝外側にずれた状態で走りました。遅い方は、135㎞/hでは、約1.5cm内側にずれています。カーブは路面を傾けてあるので、内側にずれ落ちる力が働くことと、速度が速いときより、列車を支える力が弱くなるからです。

 それはそれとして、このグラフの右上の方に、限度40㎜って書いてありますね。これは左右にずれる限度が40㎜という意味だろうと思います。

 これは緊急時にガイドウェイとの衝突を防ぐストッパー車輪と呼ばれるものです。これは常に出た状態になっています。この飛び出している量が、測って見たら3.5cmでした。さっき説明した限度40㎜とこれをたすと7.5cmです。リニア見学館とリニア鉄道館で測ったのが、7㎝から8.3cmなのですから、左右の隙間は7.5cmと推測できます。なぜこんなことが機密事項なのかわかりませんね。

 トランスラピッドとリニアの比較です。最高速度は、505㎞/hと500㎞/hですから、ほぼ同じと考えてよいと思います。どのくらいの半径のカーブを走れるかという点は、リニアは半径8㎞だとJR東海は言っています。計画路線の平面図を調べると、品川駅と名古屋駅のすぐそばに、半径900m、半径2000mのカーブがありますが、ここは車輪で低速で走る部分です。それ以外の場所、本線上で高速の浮上走行をする部分では、やはり半径8㎞が一番きついカーブになっています。一方、トランスラピッドは、これは多分6型か7型の数字だと思いますが、カーブの半径ごとに制限速度が示してあります。半径6㎞で500㎞/hになっていますね。これだけ比べてもカーブに強いトランスラピッドなのですが、スピードの制限があったとしても、常に浮上した状態で半径400mまで通過できるという性能です。

 登坂力、坂道を上る能力は、1000m走って40mの高低差をのぼるリニアに対して、トランスラピッドは100mです。トランスラピッドは、カーブに強く登坂力も大きいので普通の鉄道に比べてトンネルをすくなくできるとアピールするシーンが宣伝ビデオにありました。どちらが地形が複雑な日本むきでしょうか?

 消費電力は、トランスラピッドの方が少ないです。

 超電導リニアがどんなカーブで実験を重ねてきたか見てみたいと思います。これが国分寺にある旧国鉄の研究所、現在は鉄道総合技術研究所の構内のテストコース。全長480mの直線です。

 宮崎実験線。ほとんど直線です。

 山梨実験線。最少のカーブが8㎞。ここもほぼ直線。

 対して、トランスラピッドのエムスランドの実験線。両端にループのある約31.5kmの実験線です。南のループは、半径1000m、北のループは半径約1.7㎞。

 これは上海の路線。国際空港から龍陽路まで。一番きついカーブが半径1250m。主要な3つのカーブはそれぞれ約90度進行方向を変えています。なぜか?

 グーグルマップの上海の航空写真。トランスラピッドのルート自体は分かりにくいのですが、この辺を通っています。結局、既存の土地の利用を邪魔しないようにルート選びをしたように見えます。リニアなら空港から龍陽路まで一直線で敷設しようとしたはずです。リニアのルート設定で路線を敷設したとしてもトランスラピッドは走れるでしょう。しかし、逆に、この上海のルートの設定で超電導リニアは走れないと思います。

 カーブ関連で、ガイドウェイのパネルを下市田と阿島でつくる予定です。これは長さが12.6m 、高さは1.3m程度です。本体部分、灰色の部分はコンクリート製です。型枠にコンクリートを入れて作るはずです。カーブ用のパネルは、出来上がりは直線でしょうか、それとも曲線。どちらでしょうか? 半径8kmの円の長さの円周上の12.6mの部分と直線の差がどれほどあるのかということ。それを考えると、直線で製作するしかないと思います。直線でカーブを造るにはどうしたら良いか?

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(2019/10/29 画像追加)

 これは、ご存じの方もいると思いますが、こどものおもちゃプラレールというものです。その直線レールなのですが、これでカーブを造ってみましょう。普通につなぐと直線になります。これをこうやって曲げるとカーブが出来ますね。つなぎ目の外側の部分に隙間ができています。リニアのガイドウェイのパネルもこうやって隙間を調整して設置するのだろうと思います。高速特性を生かすために直線のルートを選んだのか、直線しか走れないので言い訳を正当な目的化しているのか、ともかく、カーブを走ることをきちんと実験してきた跡が見えません。

 伊那谷ルート、木曽ルート、南アルプスルートが地図に書き込んであります。これは第4回中央新幹線小員会で、村井知事がプレゼンテーションで用いた図解の一つ。特に、伊那谷ルート、は諏訪湖の付近で約120度方向を変えなければなりませんが、半径8㎞のカーブではほとんどぎりぎりいっぱい。さらに飯田から中津川へ抜けるにも90度曲がる必要があります。飯田のカーブは車輪走行しないとならないかもしれません。技術的に到底無理なルートだったのではないかと思います。

 クエンチというのは、超電導磁石が突然に磁力を失う現象です。宮崎実験線の時代はしばしばクエンチが起きていました。山梨に移ってからは、1度起こりかけたことがあったそうです。しかしクエンチの可能性がゼロというわけではないようで、対策も考えているようです。例えば直線で片側の超電導磁石でクエンチが起きた場合、すぐに反対側の超電導磁石を強制的にクエンチさせる。左右のバランスをとって、前後の台車で車体の目方を支えて、緊急停止するということなのです。しかし、前後の台車の超電導磁石に余計な負荷がかかることになります。また、クエンチがカーブで起きたら左右のバランスを取る間もなくガイドウェイに接触していまいますね。カーブをできるだけ短くしていることはクエンチの可能性を考えてのことかもしれません。複雑な構造、クエンチの可能性など、鉄道の車輪にとって代わるには信頼性の点で大いに不安があると思います。よってカーブはできるだけ避けたいはずです。

 南アルプスルートについても、ほぼまっすぐなのですが、トンネルが実際に思い通りに掘れるとは限りません。たとえば、上越新幹線の中山トンネル。このトンネルは、図のように当初計画では半径6000mのゆるいカーブで260㎞/hで列車は走行する予定でした。ところが途中で異常出水にあって、少しだけ方向を変えました。しかしまだ出水が続くことがあって、その時点で、地質調査を綿密に行った結果、出水する地質の悪い部分が図のような状態とわかり、再度方向を変更。結局、山の中でルートを迂回させたので、カーブの半径が1500mと新幹線の規格よりきつくなって、この部分は現在も時速160㎞に減速して運転しています。静岡県内の南アルプスのトンネル内で中山トンネルのような事態になっても、直線しか走れないリニアでは、地質の良くない場所の手前でルートを迂回させるわけにいきません。それよりずっと手前から掘削し直すことになると思います。そんなことはできないことだと思います。中山トンネルがこのような事態に陥った原因はルート決定前の地質調査がほとんど不十分だったためと言われます。静岡県では大井川の減水問題を巡る論議のなかで、JR東海が事前に十分な調査を行っていなかったことが明らかになってきています。

 超電導磁石の強力な磁界のために余計な装備や施設が必要になっています。超電導磁石の強力な磁界の人体への影響を抑えるため、第一に、台車付近には残席がありません。よって、定員が新幹線より約3割ほど少なくなりました。座席数が少ないため各車両のドアは1か所だけで乗降りに時間がかかるはずです。磁気シールドで客室を囲っています。磁気シールドは車重をふやすことになります。

 乗客の乗降りについても磁界を避ける工夫が必要です。飛行機のボーディングブリッジに似た乗降装置が必要です。複雑な仕組みですから、故障が起きる可能性があって、そうなると、全体のダイヤに大きな影響が出る可能性があります。

 トランスラピッドでは、普通の鉄道同様にプラットホームに横付けした列車にそのまま乗降りが出来ます。

 なにか中央新幹線をトランスラピッドでやれば良いといっているよう聞こえたかも知れません。じつは、ドイツ自身は国内で、ハンブルグ・ベルリン間で敷設する計画が決まっていましたが、需要予測が過大だったこと、従来の鉄道に乗り入れができないこと、鉄道より建設コストがかかるなどの理由から、中止になりました。2000年のことです。中国でも上海市内への延伸計画や杭州との路線計画が中止になっています。建設コストの割合に収益が期待できないこと、市民の反対などが原因のようです。

 ヨーロッパでは500㎞/hもの速度の高速鉄道はもういらないという雰囲気があるのだと思います。消費電力の比較をしてみると、同じ時速300㎞/hの時の電力消費は、明らかに従来方式の高速鉄道である新幹線の方が省エネです。最高速度が速いこと以外に、浮上式鉄道が従来の鉄道より優れている点はほとんどありません。最高速度さえ少し我慢をすれば、従来の鉄道で十分なのです。実際、この数年、ベルリンで2年に1度開催される国際鉄道見本市、イノトランスでは高速鉄道車両への関心が薄れてきています。

 これは、2016年のイノトランスに出品された、スイスのシュタッドラー社のEC250型、最高速度は250㎞/m。

 これも、2016年に出品された、ポーランドのPesa社のPesaDart43WE型、これも最高速度250km/h。

 こちらは、イノトランスへの出品はなかったものの、ドイツの最新型の高速列車 ICE4。これも最高速度は250km/h。

 同じころ日立製作所がイギリスに輸出したクラス800型。これは最高速度が225km/hでした。

 2018年のイノトランスでは、開会のあいさつで、フランスの鉄道車両製造のアルストム社の最高経営責任者のアンリ・プパール=ラファルジュ氏が「もはや最高速度などは誰も口にしない。どれほどクリーンな電車を出せるかが重要だ」と強調、これを伝えた『日経新聞』記事は、「鉄道車両も環境性能が競争軸の一つになってきた」と書いています。

 唐突に変な絵が出てきました。たとえば、パースキラヤへ行って買物をするときに、ショッピングカートを使いますね。カゴを下げて買物するより楽だからじゃないですか。それから、江戸時代はカゴですが、2人で担いで1人を運んでいました。明治になってできた人力車は、1人で1人運べます。楽だから、エネルギーの消費が少ないからですね。飯田で走っている人力車は1人で2人載せてひっぱっていますよ。そのへんからだって、浮上式鉄道にはちょっと無理があるんじゃないかなという見当はつくと思うのです。車輪の発明は古代メソポタミア、5千5百年まえにさかのぼるといわれています。

 超電導リニアの技術的な問題点の一つはカーブの問題。ほとんど直線でしか実験を積んできていないという事実です。曲がりなりにも乗り物であれば、カーブの走行性能は無視できないというのがドイツの磁気浮上式鉄道の開発方針でした。日本の超電導の開発の仕方にはなにかセンスの悪い所があって、それが後のほうになっても修正されないままきている、そんな感じがします。

 配布資料の中の阿部修治さんの講演の要約は、リニアの技術には発想にセンスの良くない部分があるので、さまざまの点で無理を重ねているという指摘が説明してあります。是非、読んでください。

 御静聴ありがとうございました。