更新:2019/11/07、2019/11/09 一部語句追加、2019/11/11 補足1補足2

リニアの開業時期、もともとは2000年

 Youtube で面白いビデオを見つけました。

超電導リニアは日本独自のアイデア?!

image
京谷好泰さん

 1989年3月21日に放送された、「鈴木健二の体験タイムトンネル 〜陸蒸気から2000年リニアエクスプレスまで〜」という番組。スポンサーはJR東海。54分あたりから、リニアの開発の中心にいた京谷好泰さんが出演しています。京谷さんが、超電導磁石を磁気浮上式鉄道に応用するアイデアを思いついたように紹介されています。また、「リニアモーターカーに超電導という技術を結び付けたのは日本独自のアイデアです。これによって重い車体が10㎝も浮き上がります。磁石を冷やすためにセ氏マイナス269度の液体ヘリウムを使っています。」とナレーションが説明しています。

 ビデオに登場する、実物大の模型は、1988年にJR東海がデザインを発表した MLU00X1。

image

 次の写真は、米、ニューヨーク州のブルックヘブン国立研究所の研究員だった、ジェームズ・パウエル氏(左)とゴードン・ダンビー氏(右)。

image

 パウエル氏が手にしている写真(赤丸)は、MLU00X1 です。

image

 実は、「リニアモーターカーに超電導という技術を結び付けたのは」このパウエル氏とダンビー氏で、それは、国鉄が超電導の研究を開始する1970年より前の、1966年でした。1968年には特許を取っています。彼らは、超電導を浮上式鉄道に応用するアイデアについて、1991年に高速鉄道協会から表彰されています。この写真はその時のものだろうと思います。

 超電導を磁気浮上式鉄道に応用するアイデアがアメリカ人の発案ということを知らなければ、別にどうということない番組ですが、当時だって、本当の発案者を知っている人だっていたはずです。第一にJR東海や京谷さんは知っていたはずです。今だったらかなり問題になりそうな番組だと思います。

 リニアをJR東海と共に研究している鉄道総合技術研究所が2006年に出版した『ここまで来た!リニアモーターカー』では:

超電導磁石を用いた磁気による浮上・案内の方式は、1966年にアメリカのブルックヘブン国立研究所のJ・R・パウエルとG・R・ダンビーの二人が米国機械学会に発表し(リニアシンクロナスモーターによる推進の組み合わせは1969年に発表)、その後、各種模型による実験がなされたが大きな進展はなかった。当時の国鉄は、このパウエルとダンビーの方式に着目し、超電導リニアの開発を進めることとした(p156~p157)

と、明確に書いています。これも、リニアにまつわる不都合な真実かも?

参考ページ

地震に強い?日本のリニア

 58分過ぎから、他の方式の磁気浮上式鉄道の紹介があります。最初がイギリス、バーミンガムのピープルムーバ。次に日本航空のHSST。最後にトランスラピッドが出てきます。その部分のナレーション:

常電導方式の本命、西ドイツが誇るトランスラピッド。1㎝浮上しながら、エムスランドにある31.5kmの実験線で常に300㎞/h以上のスピードで走行します。最高時速は412.6km/h。世界一。今のところ日本のリニアモータカーより12㎞/h速い良きライバルでもあります。トランスラピッドは90年代初頭からの実用化に向け、今最後の調整に入っています。

 続く鈴木健二さんのコトバ:

この西ドイツのトランスラピッドというのがかなり研究が進んでいるようでございますね。そうすると、その進んだ研究を日本に取り入れるというわけにはいかないんでございますか?

 京谷好泰さんは次のように答えています。

image
[ トランスラピッドの定員の後ろのカッコ内は「両」です。なお、この表については疑問があります。(補足:2019/11/08)]
西独トランスラピッドと、それから日本の超電導方式を比較した図がございますが、この車で見ていただくとおわかりのように、こちら(トランスラピッド)のほうは、だいたい重量が50トンございまして、こちら(超電導リニア)18トンから27トン、ま人数が少し少ないにしてもはるかに軽いわけですね。だから、軽くできるということが一つ。それからもうひとつ、ここ(トランスラピッドの浮上時の隙間を指して)の浮いている隙間です。いつも問題になるのは、高速で走る、500㎞/hで走るようなものと、それと地上の施設との間の隙間、これがいくら開いているかというこということは大変重要なことになります。これが西独のトランスラピッドでは1㎝ですし、それから日本の超電導方式ですとこれは10cmあります。これだけの隙間が大きく違う。これは、このやはり超電導を使っているから、そういう車が軽くもできるし、それから隙間を大きくもできるというので、この超電導方式というものが開発の今焦点になっているわけであります。

 鈴木健二さん:

なるほどねー。結局ですね、こういう方式を取り入れますと、 全体的な利点というのは、どういうところになりますか?

 京谷さん:

image
上から、「10㎝浮上(地震に強い)」、「10㎝浮上(保守が容易)」、「軽く小さい(建設費が安い)」、「速度の可能性(容易に速くできる)」
そのへんを、ひとつ、比較した表がありますので、ご覧ください。これが一つですね。10㎝浮いているということは地震に強いということになります。地震が起こっても少々ガイドウェイと言いますか線路が少々揺れても隙間が10㎝開いていますから 500㎞/hで走っていてもそれにぶつかるということはないですね。地震の相当大きな地震でも振幅が10㎝という振幅はそんなにありませんから。それから保守が容易だということは、やはり線路が少々狂っても、それでも10㎝浮いているから、狂いに比べればはるかに大きいですからね、だから線路のお守りの必要がないということ。まあそうしておけば、保守が容易であり、しかも安全確保をしているわけですね、だからそのための保守が容易なということは10㎝浮上の結果であります。それから、やはり車が軽くなってましたですね。そうしますとガイドウェイにかかる荷重が小さくて済みます。ということはそれだけ建設費が安くなります。車のほうは超電導を使って若干高く思われるかもしれませんけれども、線路のほうがずっと長いですから、1㎞の建設費が何億というという時にですね、これが安く済めば、大変違いになります。それから速度のほうもですね、これも超電導を使っていますので、しかも隙間が大きいもんですから、いくらでも出せるっていいますか、だからそれだけの可能性を十分持っているというか、将来性を持っています。だから後は、実際に安い、どの程度安くできるか、私はいつも言っているのは、公共輸送機関ですから、安くて今まで証明していきた安全性とかサービスをですね確保できるようにしようと、そういう確認をするための試験線を造ろうと、でそれが4~50キロの線であると。それができればですね、あとは実用化に移れると思います。

 鈴木

いつですか?

 京谷

もう、あと10年以内にできると思います。

 続いて、JR東海の浜松工場にある、実物大の模型の MLU00X1 の紹介場面になります。(この MLU00X1 は実物大の模型を製作しただけで実際の走行試験車両ではありません。とうじの最新式の実験車両は MLU002 です。こちらにに動画から落とした画像を載せました。)

image
案内役は昨年亡くなった浜尾朱美さん。

image
まず一般客席。

image
一般客席から前方を見たところ。

image
一般客席とグリーン席の間に空間があって、

image
グリーン席

image
その前方にサロン

image
最先端は2座席のみの貸し切り席。

 驚くことに、台車の上部にも座席があるようです。現在の実験車両エルゼロ系では超電導磁石の強磁場の影響から乗客を守るために台車付近には客席はありません。

 それはそれとして、この番組のなかで繰り返し出てくるコトバは「2000年開業」です。現在、2027年開業が怪しくなったてきたので、JR東海と国交省は焦って、静岡県の難波副知事を脅し上げることまでやっているようですが、もともとの目標が2000年ですでに27年も伸ばしたんですから、いまさら何やってるのってな感じがしますね。これもリニアの不都合な真実。

 おっと、忘れてました。京谷さんは、「500㎞/hで走るようなものと、それと地上の施設との間の隙間、これがいくら開いているかというこということは大変重要」といっています。それが10㎝だと。しかし、実際はリニアの車体とガイドウェイの隙間で一番狭い部分、それは左右なのですが、それは4㎝しかありません。また、京谷さんは、「相当大きな地震でも振幅が10㎝という振幅はそんなにありません」ともいっていますよ。それも4㎝を基準に考えないといけません。

 さらに、地震の振幅ってどのくらいあるか検索してみて下さい。何ガルという加速度については出ていますが、震度いくつなら何センチとか、関東大震災では何センチ揺れたなんて話は出てきませんよ。北伊豆地震で丹那トンネルが2m以上ずれたという話はありますが。的外れなデータを示して、さらにそのデータにウソがある。これもリニアの不都合な真実。

 それから、重量の問題、トランスラピッドは重いのにも関わらず、この当時、超電導リニアより高性能だった点について、言い訳がありません。また、軌道に加わる荷重は、超電導リニアは台車部分だけで重量をささえるので、限られた部分に荷重が集中します。一方トランスラピッドは車体底部の全体に荷重を分散させるので、走っているときに軌道に与える衝撃が少ないという特徴があって、だから、ガイドウェイや高架橋などを「ヤワ」にできるのが特長ともいわれます。実際問題として、トランスラピッドのガイドウェイはスレンダーと専門家は言っています。

 大きさは、客室の広さにも関係するわけで、「軽く小さい」から必ずしも良いわけじゃありません。軽四輪の高速バスなんて乗りたくないでしょ。

開発競争で常電導に負けた超電導方式

 トランスラピッドの紹介部分(トランスラピッド06型が登場)でわかるように、この時期すでに、トランスラピッドは世界各国に売り込みをしていたし、ループのある実験線で試験を積み重ねた実績もありました。一方、超電導リニアは山梨実験線もできる前の段階で、番組で紹介されている、当時最新の試験車両、MLU002 は、2年後の1991年10月に宮崎実験線で暴走したあげくに火災を起こして焼失しました。その程度の開発のレベルで2000年開業といっていたとは、驚きます。これもリニアの不都合な真実。

 さて、この1989年のテレビ番組の中の鈴木健二さんと京谷好泰さんの掛け合いは、国交省の交通政策審議会鉄道部会中央新幹線小員会の第1回目、2回目の2人の委員と国交省の潮崎技術開発室長とのトランスラピッドと超電導リニアの技術的な違いについてのやり取りとほとんど同じじゃないですか。鉄道事業についての監督官庁であるはずの国交省が、実はずっと昔から、JR東海の言いなりという、これもリニアの不都合な真実かも。

 ちなみに、鈴木健二さんも京谷好泰さんもご存命です。


MLU002

番組放映当時の最新の実験車両は、MLU002。同時期のトランスラピッドはトランスラピッド06型で、番組の中でも使われているトランスラピッドの映像は、Youtube にある Transrapid - Promotional Film of the German Maglev Train (1985) と同じビデオから引用されています。このビデオを見るとトランスラピッドのほうがはるかに進んでいたことがわかると思います。

image
MLU002

image
室内の様子

image
走行中


トランスラピッド06 と MLU002 の比較

番組の対照表の数字(参考:現在のL0系の数字)

西独トランスラピッド日本の超電導方式L0系
3.7m2.8m2.9m
高さ4.2m2.65m3.1m
重量50t18t/27t25t**
定員98名(両)70名24名*/68名**
L0系の*は先頭車両、**は中間車両

 番組に出てくる比較の表の超電導方式の数字には疑問があります。当時最新の MLU002 と一つ前の型 MLU001(3両編成) のデータとトランスラピッド06(2両編成) のデータを下の表にしました。番組で出てくるようなデータに該当する国鉄の実験車両は当時ありませんでした。特に定員の70人という数字は不思議です。一つ前の型 MLU001 の定員は3両編成で32人(空車重量30t)、MLU002(おそらく1両のみ) では 44人 です。トランスラピッド06の定員については2両編成の1両分の98人と、超電導リニアについては、現実にはあり得ない数字の70人を示して、「人数が少し少ないにしても」などと説明しているわけで、これはかなりおかしなことだと思います。実物大模型 MLU00X1 の定員としてもそれは架空のデータです。

 京谷さんが話すことなどあり得なかったでしょうが、トランスラピッドと超電導リニアの試験線の最少曲線半径は10倍も違います。編成の全長を比べれば、一方は実用化に近く、もう一方はまだまだ開発の初期段階という印象はぬぐえません。

トランスラピッド06※**MLU002MLU001***
運転開始1983年6月1987年3月1980年1月
車両の長さ54.2m22.0m28.8m
車両の幅3.7m3.0m3.0m
車両の高さ4.2m3.7m3.3m
空車重量102.4t17.0t30.0t
積載荷重20.0t2.6t2.4t
最大総重量122.4t19.6t32.4t
座席数196人*44人32人
最高速度412.6km/h(1988.1)394km/h(1989.12現在)405km/h(1987.1)
試験線の長さ31.5km7.0km7.0km
最少曲線半径1km10km10km

Ralf Roman Rossberg 著、須田忠治 訳『磁気浮上式鉄道の時代が来る?―世界の超電導・常電導・空気浮上技術』(電気車研究会、1990年6月) p109,p116 より
* 定員は192人 乗務員席が4
** 2両編成
*** 3両編成
※ 1989年1月から、トランスラピッド07 が試験走行を開始。

補足:日本は本質的に地盤が弱い

 面白いやり取りを、一つ、紹介するのを忘れていました。57分あたりです。

image
字幕=" 63歳。元国鉄浮上式鉄道技術開発推進本部長、現 テクノバ代表取締役社長。"
(鈴木) だいたいはじまりは、どうしてこういう技術を思いつかれたのですか?
(京谷) まず10㎝浮かそうと、とにかく日本のような国はですね、地震がありますしね、それから地盤が本質的に弱い土地なんですね。だから、かりに1㎝くらい浮かしますとですね、1㎝ぐらいならすぐにこうずれてくるんじゃないかと、だから、どうしても10㎝浮かさないと、それは将来の鉄道としては使えんだろうと、こう思ったもんですから、まず10㎝浮かすんだと。その10㎝浮かすためにはどうしても超電導磁石でないとだめだと、だから超電導磁気浮上列車というものを作ろうというふうに考えたんです。

 京谷さんは日本は地盤が弱いという知識があったことがわかります。ならば、山の中だってだって地質が良くないはず。線路を敷くには、地質条件や地形の条件の悪い所を避けていかないといけないはずです。つまり、超高速をいかすために最短距離の直線で線路を敷くという発想が無理なのです。10㎝浮かせたくらいで、解決できる問題ではないはず。乗り物はカーブがきちんと曲がれないと話にならないと思います。番組放映当時にトランスラピッドはループのある実験線で試験走行をしていました。一方宮崎実験線はほぼ直線でした。