更新:2020/04/22

本当にリニアはできるだろうか?

なんで、JR東海は2027年名古屋開業にこだわるの?

 1月14日に、飯田市内の南信消費生活センターで、「リニア中央新幹線事業に係る関係市町村長 とJR東海 との意見交換会」という会合がありました。その時の配布資料に長野県内のリニア工事の工期の予定が出ていました。工区と工期と進捗状況の部分を取り出してみました。

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 赤い星印を付けたのは、工期のおしまいが2026年になるもの。注目は、「①南アルプストンネル(長野工区)」。工期のおしまいは、2026年の11月30日(工事期間は10年と約9カ月)。トンネルの完成だけなのか、ガイドウェイの設置や、電気工事まで含むのかどうか分かりませんが。列車が走れる状態にこぎつけたとして、2027年度内、2028年の3月31日を開業として、慣らし運転期間は1年と4カ月です。

 長野工区はすでに工事が始まっていますが、たぶん工事がより困難な、隣の静岡工区は、大井川の減水問題で静岡県との協議が進まず着工の見通しすらありません。表には、「(参考)」として出ています。工期は約10年。おそらく2021年3月までに着工はできないでしょうから、2021年4月に工事を開始したとして10年先は2031年4月。もはやあり得ませんが、今年4月に始めたとしても2030年4月。2027年開業はどう考えても無理。

 オリンピックも延期になりました。新型コロナの流行の社会と経済への影響がどれほどになるか。工事の先行きも分かりません。

 鉄道・運輸機構が4月1日に、工事及び役務の発注見通しを公表しました。その中に、中間駅の西側から始まる「風越山トンネル」のシールド工事区間(3330m)の発注見通しがあります(工事発注見通し一覧表(Excel:17KB))。その工期は「80か月(6年と8カ月)」。入札又は契約の予定時期は20年度第4四半期です。

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 仮に、2021年1月から工事を始めても、風越トンネルの完成は、順調に行って2027年7月終ころ。2027年の開業はとても無理です。それからガイドウェイを設置して、試験運転をしてということになれば、結局いつになったらできるでしょうか…。静岡県だけが足を引っ張っているんじゃないことは明らか。計画自体に無理があった。中間駅の地元の住民は、多分他の理由もあって、「どうもリニアはできんぞ」と思い始めていますが、これはあたっていると思います。

 長野県内で発生するトンネル残土974万立米の処分の問題。現時点で処分場として工事が済んだのは3万立米のみ、そのほか公共事業とリニア関連工事での活用を含め「確定」したものが17万5千立米といわれています。逆に地域住民の声で没になった量が640万立米。大井川の減水問題に並ぶリニア計画の抱える大きな困難。

 2027年の開業を少し伸ばしてもというわけにいかない事情がJR東海さんにはあるのかも知れません。最近、ニュースに現れる金子社長さんの表情は社長に就任された当時の元気さはありません。

「トランスラピッド」に負けた「超電導リニア」

 さて、ここで、JR東海と国交省が必死でこだわる、「超電導リニア」の「価値」を考えてみようと思います。

 「超電導リニア」の技術的な課題、目標は、「時速500㎞で運行できる列車」です。時速500kmまで安定して加速するのは磁気浮上方式以外は考えられないと思います。当然、推進には、リニアモーターを使わなくてはなりません。

 世界を見渡すと「時速500㎞で運行できる列車」で、すでに実用化されて営業路線を走っているのが、上海のトランスラピッド。営業開始は2004年の1月。慣らし運転期間中の2003年11月に時速501㎞で走っていました。

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営業運行の磁気浮上鉄道の世界記録が2003年11月12日に達成された。試運転段階の上海トランスラピッドの5両編成の列車は龍陽路駅と浦東空港駅の30㎞の区間で最高速度・毎時501km(毎時311マイル)を記録した。毎時430㎞で走行する別の車両とすれ違った。

 トランスラピッドが営業に向けた試験車両を完成させたのが1983年でした。1980年代後半までには、実用化に向けた技術を完成させて、世界に向け売り込みも始めていました。

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TR-06型、1983年製造、192人乗り、1988年に412.6km/h
トランスラピッドの1985年の広報映像

 1987年4月に国鉄はJRグループへと分割民営化されました。その1987年12月には、JR東海の葛西敬之さんはドイツのトランスラピッドの実験線に視察に行っています。1987年当時、日本の超電導リニアはまだ宮崎実験線の時代です。今から見ると、「時速500㎞で運行できる列車」の開発競争において、1987年時点ですでに日本の超電導リニアは負けていたと思うのです。

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宮崎実験線時代の試験車両
MLU001、32人乗り、405km/h(1987年)

 現在の超電導リニアのエルゼロ系やその改良型とトランスラピッドを比較して、どちらが良いか。

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リニア中央新幹線の改良型の試験車両
『NHK NEWS WEB』2020年3月25日リニア新幹線 改良型試験車両完成 報道公開

 最近公開されたエルゼロ系の改良型でようやく車内で使用する電力の誘導集電方式の実用化の試験が始まるそうです。当たり前ですが、トランスラピッドはもっと前に電磁誘導による非接触集電を装備していました。

"上海マグレブ 世界初の高速磁気浮上式鉄道営業線",小野田滋,「電学誌」,125巻5号,2005年

 開発が困難な超電導磁石こだわったために、日本の独自技術にこだわったために、乗客の乗降りが不便、定員が少ない、などなどいろいろな欠点が目立つし、カーブが曲がれない、ヘリウムの枯渇が心配など、トランスラピッドに比べると、問題点が多すぎるのです。すでに30年以上も前に完成したトランスラピッドの技術と比べて、どう考えても、優れている点はないのです。まあ、記録としてのスピードの時速603㎞くらいなのですが、去年の5月に中国の鉄道車両製造の「中国中車(CRRC)」の青島の研究所でトランスラピッド方式で時速600㎞で運行する試作車が公開されています。

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時速600㎞/hで走行可能な磁気浮上式列車の試作品(プロトタイプ)が山東省の青島で発表

 工事が困難なことも、もともと、超電導リニアがカーブが曲がれないためにルートの選択で自由度がほとんどないことが原因だと思います。南アルプスを貫くしかない。そこに大井川の減水問題で静岡県が立ちはだかった。

 時間の流れの中で客観的に判断すれば、「時速500㎞で運行できる列車」という課題の正解は、「トランスラピッド」だったと思うのです。

 しかし、そのトランスラピッドは、開発をしたドイツでは敷設されず、中国でも上海浦東空港から上海市郊外の龍陽路駅までの1区間だけで、それ以上の進展はありませんでした。中国ではこの間に、鉄道方式の高速鉄道が約28000㎞に、ヨーロッパでは時速250㎞が最新の高速列車の最高速度に落ち着いてきています。つまり、高速の磁気浮上式鉄道に出る幕はない。

『日経』2018年9月22日 "鉄道車両も環境シフト 独シーメンスや仏アルストム 蓄電池駆動や水素燃料"

 できもしないもの、つくる価値のないもの、そんなもののために、大切な土地や、生活環境や自然環境を無駄にする意味は何もないと思います。建設資金も国民がJR東海に支払う運賃や財政投融資つまり税金を原資としているのですから、お金の面でも無駄遣いはやめてもらいたい。

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関連ページ:カーブと直線 ~ 写真版リニア開発史磁気浮上式鉄道年表