更新:2020/06/08

あらためて、リニア中央新幹線を見直す

 静岡県でリニアが2027年に開業できるかどうかの瀬戸際の今月。あらためて、リニア中央新幹線を見直すために2つの文書をもう一度紹介します。どちらもネットで読めるので是非一読を。

"リニア新幹線の整備促進の課題―トンネル工事が抱える開 業遅延リスク―"

 「国立国会図書館 調査及び立法考査局」が出している『レファレンス(The Reference)』の 813号 (2018年10月20日) に掲載された、"リニア新幹線の整備促進の課題 ―トンネル工事が抱える開業遅延リスク―" 。

 表題のトンネルについてだけでなく全般にわたって問題点をコンパクトにまとめてあります。上越新幹線の中山トンネルで、山の中でルートを変更したという部分がハイライトだと思います。静岡県の大井川の減水問題で国交省の設けた有識者会議でも、大東憲二大同大教授が北陸新幹線の新北陸トンネルの深山トンネル(*)の例をあげて、「認可ルートの変更」の例もあると言及しています。

* 深山トンネルは新北陸トンネルの敦賀寄りに隣接する約800mのトンネル。⇒ 日本自然保護協会 > "中池見湿地の北陸新幹線ルート変更までの道のりと今後の課題"。⇒ 鉄道・運輸機構 > 北陸新幹線北陸新幹線、中池見湿地付近深山トンネル等工事に係る 環境管理計画 要約版。⇒ 『福井新聞』2019年2月7日 "北陸新幹線、湿地のトンネル着工 ラムサール条約登録、地下水に配慮"

 超電導リニアでは、ガイドウェイの構造上、ルート変更にどうしても必要なカーブを設けることがほぼ不可能です。高速で浮上走行する部分では半径8000mよりキツイカーブを設置できません。より小さな半径にするには、時速150㎞/h以下の車輪走行で走るしかない。

 客観的には、大井川の問題で超電導リニアは実現可能性がないことがはっきりしてきたと言えると思います。静岡県に大きな犠牲を強いても、南アルプストンネルは前代未聞の難工事。いわば大博打。国交省は、静岡県を「統合型リゾート」に指定した上でリニア工事を認可する必要があったのであろうと思います。そのバクチに安倍さんは3兆円も突っ込んじゃったのです。

"リニア新幹線 夢か、悪夢か"

 『日経ビジネス』の2018年8月20日号の特集記事がネットで公開されています。"リニア新幹線 夢か、悪夢か"。以下の6つの記事に分かれています。担当された記者さんの渾身のレポート。

 3つ目の "時速500km、無人運転って大丈夫?" で リニア開発本部長の寺井元昭・JR東海常務執行役員 は次のようなことを言っています。

  1. 超電導の一般的な応用の例はMRIだが、静かで、振動のないところで使う。乗り物では真逆の環境で使わなくてはならない。
  2. 超電導の技術が実用化のレベルに達しないと絶対無理。超電導がきちんと使えるか、安定的に使えるかということが必須条件。
  3. ドイツは超電導のリニアモーターの開発を手がけたが、超電導磁石が完成できないと非常に難しいというのがあって、早い段階で諦めた

 寺井さんの言っていることは多分ウソはないと思うんですが:

新幹線で超電導技術を使うためには、長い開発期間が必要でしたね。90年からスタートしたけれど…

とか、

97年12月には目標の時速550kmを達成して、そのとき「これは何とか使えるようになるかな」という自信が出てきました

とか、いっている年代をそのまま読めばそのままだと思うのです。この時期に、「超電導をあきらめた」ドイツは実用的な磁気浮上式列車を完成させていたのです。列車に超電導磁石を使うという思い付きは、あまり筋の良いものじゃなかったと言えるのではないか。そんなことは基礎的な研究の段階で気が付かなければいけないことじゃないか。

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 もう一つ、液体ヘリウムの入手が難しくなってきているのに、液体ヘリウムを使わないですむ高温超電導の開発状況について寺井さんは何も触れていません。これはだれもが注目していることです。

ヘリウムについては、この特集では、ここここ でふれてます。前者は、先日亡くなったJR東日本元会長の松田昌士さんの、「歴代のリニア開発のトップと付き合ってきたが、みんな『リニアはダメだ』って言うんだ。やろうと言うのは、みんな事務屋なんだよ」。高価なヘリウムを使い、大量の電力を消費する。トンネルを時速500kmで飛ばすと、ボルト一つ外れても大惨事になる。 というコメント。後者は、ヘリウムでなくてはできないという寺井さんの説明。