更新:2020/07/07

 長野県森林審議会保全部会の6月9日の会議の議事録が、森林審議会森林保全部会のページに掲載されています。 ⇒ 令和2年6月9日資料(PDF:530KB)


更新:2020/06/11

長野県森林審議会保全部会、6月9日 (2)

阿部県政のリニアへの傾斜角は危険領域に

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6月11日正午前に撮影。激しい雨で伊那山地の稜線が見えません。2つの尾根の間に流れる虻川上流約10㎞の本山、ジンガ洞に130万立米という長野県史上始まって以来の大量の残土をJR東海は捨てようと計画しています。残土置き場候補地は画面中央付近。残土の盛土が崩壊すれば、最悪の場合、尾根の間、天竜川合流付近の集落が被害を受けるはずです。


 6月9日、飯田市追手町の県南信消費者センターで長野県森林審議会保全部会がありました。リニア新幹線の伊那山地トンネルの坂島斜坑、戸中斜坑から出てくるトンネルズリを埋め立て処分する本山のジンガ洞の水源涵養保安林指定の解除を審議しました。5人の保全部会委員のうち3名が出席。午前中委員たちはジンガ洞の現地視察を行いました。午後の審議会は公開だったので傍聴をしてきました。十分な対策が取られているとして保安林の解除は適切とする答申をしました。答申を受けた県がこれから林野庁に申請書類を提出するか判断することになります。県への申請は5月12日。国への提出期限は2か月以内だと思います。審議会の議事録は、書類を林野庁に上げる前に公開するようです。会合は1時間27分で終了しました。

配布資料:

 事務局の諮問内容の説明によると、「1ヘクタール以上の保安林解除(国・地方公共団体が行う事業に係るもの等を除く)」に該当すること、解除は森林法第26条2項に基づくもので、公益上の理由で解除が必要な場合で、具体的な判断としては、土地収用法の適用申請が可能な事業で、「イ.国等以外の者が実施する事業のうち、別表3に掲げる事業に該当するもの」(配布資料1)のであり、「鉄道事業法」(*)に該当するとの説明でした。この後、事業の実現の確実性という観点からJR東海が計画の説明をしました。

* 事務局担当者が「鉄道事業法」というコトバを使っています。この場合問題はないのですが。国交省は、認可取り消し訴訟の中で、原告の安全性とか経営の安定など鉄道事業法に基づいて認可はなされるべきとの主張に、全幹法だけで認可できると反論しています。裁判所はこの点について、安全性などは重要な事なので、認可までの各段階で瑕疵があれば自動的に認可は違法という進め方ではどうかと提案をしていました。

 「別表3」というのは県担当者によれば『保安林林地開発許可業務必携 基本法令通知編』(森林科学研究所発行)という冊子の中にあるとのことでしたが、農林水産省のページ "保安林及び保安施設地区の指定、解除等の取扱いについて" にあると、フェースブックで紹介してくれた方がいました。

 「別表3」は、

[ 別表3 国等以外の者が実施する事業 ]

5. 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業

 なにか、どうにでも解釈できるような文ですが、残土を置くことは直接には、JR東海の需要で、供するのは、用地を買い取った場合はJR東海で、そうでない場合は本山地縁団体です。「一般の需要」には関係ない。鉄道事業そのものは一般の需要に応ずるものということは理解できるんですが、本山の残土置き場については、鉄道事業者のやることならなんでもよいという解釈になりそうで、なにかおかしい。「一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業」については、建設工事が終わった後は地主に返すような土地における造成工事がこの「事業」にあたると解釈できるとは思えません。

 ところで、鉄道建設の用地問題で話題にあがる、土地収用法をみると:

第一章 総則
第三条 土地を収用し、又は使用することができる公共の利益となる事業は、次の各号のいずれかに該当するものに関する事業でなければならない。
七 鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設
第三章 事業の認定等
第十七条 事業が次の各号のいずれかに掲げるものであるときは、国土交通大臣が事業の認定に関する処分を行う。
一 国又は都道府県が起業者である事業
二 事業を施行する土地(以下「起業地」という。)が二以上の都道府県の区域にわたる事業
三 一の都道府県の区域を超え、又は道の区域の全部にわたり利害の影響を及ぼす事業その他の事業で次に掲げるもの
ロ 鉄道事業法による鉄道事業者がその鉄道事業(当該事業に係る路線又はその路線及び当該鉄道事業者若しくは当該鉄道事業者がその路線に係る鉄道線路を譲渡し、若しくは使用させる鉄道事業者が運送を行う上でその路線と密接に関連する他の路線が一の都府県の区域内にとどまるものを除く。)の用に供する施設に関する事業
チ イからトまでに掲げる事業のために欠くことができない通路、橋、鉄道、軌道、索道、電線路、水路、池井、土石の捨場、材料の置場、職務上常駐を必要とする職員の詰所又は宿舎その他の施設に関する事業

 残土置き場は強制収用できないって思っている人が多いと思うんですが、できないことはない。本山のある豊丘村では、別の2つの谷(南の沢、牛草沢 合計52万立米)について住民の声で残土置き場計画を没にさせました。松川町生田でも100万立米と490万立米が没になりました。確定したのはせいぜい25万立米。不確定も含めすべてかき集めても必要量の974万立米に対して50%強でとても足りていません。なんで伝家の宝刀を使わないのか、JR東海はもうやる気がないのじゃないのか。

 (2020/09/14 訂正) ⇒ 上の打消し線を引いた段落について、残土置場について土地収用法の対象になると書きましたが、「イからトまでに掲げる事業のために欠くことができない」と条文は「事業」という言葉を使っています。昔は鉄道を建設する場合、トンネルと築堤(盛土)で残土と建設用の土のバランスをとるような建設をしていました。つまり、鉄道建設に「土石の捨て場」がどうしてもいるというものでもない。し、それは建設中の話です。では条文のイからトまでで、「土石の捨て場」が必要な事業とはなんでしょうか? 以下条文の要点: (イ)高速道路に関する事業、(ロ)上記鉄道関連、(ハ)港湾施設で国際戦略港湾、国際拠点港湾又は重要港湾に係るものに関する事業、(ニ)飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するものに関する事業、(ホ)認定電気通信事業の用に供する施設に関する事業、(ヘ)日本放送協会が放送事業の用に供する放送設備に関する事業、(ト)一般送配電事業、送電事業、特定送配電事業又は発電事業の用に供する電気工作物に関する事業。やっぱり建設残土のことなのか、まあ、「結局分かりません」ということです。

 で、「一般の需要に応ずるものの用に供する施設」という文言がどう使われているかという点。この奈良県の文書第3節 公益施設の開発行為では、「 鉄道事業法第2条第1項に規定する鉄道事業若しくは同条第5項に規定する索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設である建築物又は軌道法による軌道若しくは同法が準用される無軌条電車の用に供する施設である建築物」と「建築物」と明確に書いています。帯広市の文書開発許可不要の公益上必要な建築物では「鉄道事業法第2条第1項に規定する鉄道事業若しくは同条第5項に規定する索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設である建築物又は軌道法による軌道若しくは同法が準用される無軌条電車の用に供する施設である建築物」として具体的には「停車場(駅、信号場、操車場)、車庫、車両検査修繕施設、運転保安設備、変電所等設備、機械等の保安倉庫」をあげています。苫小牧市の文書「適正かつ合理的な土地利用及び環境の保全を図る上で支障がない公益上必要な建築物(doc)」では「鉄道事業法 (昭和六十一年法律第九十二号)第二条第一項 に規定する鉄道事業若しくは同条第五項 に規定する索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設である建築物又は軌道法 (大正十年法律第七十六号)による軌道若しくは同法 が準用される無軌条電車の用に供する施設である建築物 」と「建築物」としています。これは奈良市と同じ。

「一般の需要に応ずるものの用に供する施設」とは、やっぱり建設中ではなく、開業後に必要な施設のことを言っているように思います。ただし、「別表3」の「鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業」の「施設に関する事業」という部分が曲者とも思えますが…。

本山でなければという理由はない

 解除の要件に、「当該転用の目的及びその性格等にかんがみ、その土地以外にほかに適地を求めることができないか、又は著しく困難なこと。」(配布資料1の3ページ)ということがあります。他地域では、人里をダンプが走らないように処分地を変更した例はないし、豊丘村の人里部分をリニア関連の工事車両は現在走っているし、これからも予定はあるわけで、ダンプを人里で走らせないという下平村長のスローガンは意味がありません。

 たしかに残土処分先はまだまだ足りません。その意味では「ほかに適地を求めることができない」といえなくはない。しかし、伊那谷の候補地で土砂災害を心配せずに置ける場所はほとんどないので、「公益上の理由」が「公益を害する」を上回る場所はほとんどないはず。土砂災害とリニア効果のどちらが確実性が高いのか? リニア駅の1日の利用者が6800人という数字が象徴的なのですが、飯田周辺では長野県や飯田市がうたうリニアの効果については、懐疑的な人の方が多いはずです。

 また、伊那谷以外に場所を求めることが絶対無理というわけじゃない。たとえば、天竜川の本流にあるダムが砂を貯め込んでいるので、海岸の砂浜がやせてしまっています。天竜川の河口付近まで鉄道で運んで投棄するとか、いっそ、南海トラフの真上で投棄すればどうですか?

 難しく考えることはない。谷というのは長い年月で削れてできました。そこを短期間で埋め戻すのは自然の摂理に反します。自然や山の神をおそれない行為です。そもそもリニアというのは重い列車をどっこいしょと持ち上げて走らせるのです。車輪を使った方が楽なはずという批判は昔からありました。リニアは無理に無理を重ねる技術だってことです。それを1962年から58年もやっているんだと、自慢げに誇っている。

公益上の理由で解除が必要な場合といえるか

 大鹿村の小渋川斜坑のトンネル口部分が保安林にかかっていました。斜坑のトンネル口の周辺の斜面をコンクリートで固めるために立ち木の伐採が必要でした。このトンネル口は完成後は非常口の役割があるので、直接にリニアの路線に関係する施設です。林野庁はかなり長い時間をかけて検討したうえで保安林の指定を解除しました。百歩譲ってリニア新幹線に公共性があると考えるなら、小渋川斜坑のような場合は「公益上の理由がある」場合といえると思います。

 しかし、トンネル残土の置場はどこでも良いわけです。リニア本体とは関係ない。ほかに探せば見つかる可能性もある。

 「水源涵養」という重要な公益がある場所を、「ほかに適地を求めることが実はできる残土置き場」にしてしまうことを、公益上の理由があるというのは、無理があると思います。さらに、将来の土石災害という公益に反する事態が予想されるのですから、公益上の理由はない。将来の土石災害を減ずるために、公費で下流に対策をする必要もあるので、明らかに、公益上の理由はない。または、公益を害する。

 リニア新幹線が地域活性に役立つという圧倒的多数の県民の思い込みがあるとすれば、長野県は胸を張って本山の残土捨て場について「公益上の理由がある」といえるでしょう。しかし、地元の住民の意識は違う。残土という具体的な問題がでてくると住民からストップがかかる。そうして没になった残土置き場の容量は、豊丘村の約50万立米をはじめとして640万立米、確定したものは約20万立米に過ぎない。

実現の確実性

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国交大臣の認可書。豊丘村村長の意見書には、下伊那郡豊丘村大字神稲 12521-329、12521-330、12521-440 地籍における中央新幹線事業に伴う保安林解除については、公益上必要な事業であると認められるため、保安林の指定を解除することに異議ありません。 と書いてありますが、なにか公益なのか具体的な説明はありあせん。

 JR東海は建設工事の認可書や豊丘村長の意見書のほか、事業のこれまでの経緯や、予定地についての利害関係者からの同意があったこと、そして具体的な計画(設計内容)を説明しました。

 残土置き場は残土の出る期間中は借りるのですが、今のところは、残土の搬入と盛土の造成が終わったら地権者に返すとことになっています。地権者や豊丘村は土地をJR東海が取得して将来にわたり管理をしてくれることを望んでいます。しかしJR東海との間でそのへんのことは決まっていません。

 配布資料1の3ページの「3.実現の確実性」のところに、「(2)事業等を実施するものが当該保安林の土地を使用する権利を取得しているか、又は取得することが確実であること。」というのがあります。

 現状はこれに当てはまらないわけです。それでも保安林を解除できるとすれば、やったもの勝ち、やり逃げが許されることになる。保全部会に諮問する以前に制度上判断できる要素があったと思います。

静岡県との違い

 静岡県では大井川の減水問題で、実質上、アセス段階からほとんど先に進んでいない状況です。

 静岡県の「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」の委員は、JR東海の説明について、具体性を欠く部分、データに基づいていない部分など、事細かに指摘をしています。専門家として納得できるまでひかないという態度です。それに比べると、9日の保全会議の議論は、そうなった時には適切に対処するつもりですみたいなことで済ませてしまったところがあったように思います。

 「そうなった時には適切に対処するつもりですみたいなことで済ませてしまった」的な部分を具体的に紹介したいのですが、録音は不可だったので、やりとりのすべてについてメモを取ったのですが、メランジュ状態、判読不明な文字ばかりです。自分で書いたのに。すぐに正確に再現できるような状況にありません。

 保全会議以前に制度上ストップ(*)がかかる条件があったはずなのにとか、保全部会委員の突っ込みの足りなさの背景には、阿部県政のリニアへの傾斜があると思います。環境関連の懸念について同じような事柄でも静岡県と対照的。阿部県政のリニアへの傾き方は県政全体を崩壊させかねない危険領域にまでなっていると思います。

* 2017年5月、この残土置場について、長野県は理由は地権者である当時は本山生産森林組合の、残土受け入れの決定にいたる議事運営に不適正な点があったとして、受け入れを白紙に戻させていました。