更新:2020/07/05

リニアは、やっぱり地下鉄だ

 Youtube では、今までにもリニアに批判的な内容の動画がありましたが、7月4日に『デモクラシータイムス』が「【山田厚史の闇と死角】静岡が止めるリニア JR葛西の野望の果て 200630」をアップしました。同じ日にアップされたようなのですが、「都知事選の緩さ、緊張の香港 WeN20200703」という動画があって、「今週のニュース」のところ(2分30秒~)で山口二郎さんが気になるニュースとして "リニア着工 静岡県知事「認めない」 2027年開業は絶望的" を取り上げてコメントしています。

 コメント欄には、内容について賛否双方のコメントがあるものですが、(1)、(2)の両方の動画に共通してコメントしている人がいました。

(1) いま問題になっている南アルプスはトンネルだが他は高架。
山田さんは全路線トンネルで、地下鉄リニアのような話しぶりだが、勉強不足!
すでに山梨では実験線ではなく本線で高架路線が数十キロ完成している。
私は地元なのでそれを見ている。
実際に見に来てから話せよ。誤った情報を垂れ流すなよ。
全線トンネルなんか掘ったら天文学的な工事費が掛かるだろう。
(2) リニアがほとんどトンネルというのは山田氏のとんでもない勘違い。
南アルプスはトンネルだが、平地はほとんど高架。
トンネルは既存の鉄道くらいの数。
山梨ではかなりの距離完成している。(実験線でなくて本線)
高架の上に包むように透明のアクリルが覆っている。
全線トンネルを掘ったら途轍もない工事費が掛かる。

※ この2つのコメント、自分のバカさ加減に気づいて恥ずかしくて自分で削除したのか、完全なフェイクコメントなので強制的に削除されたのか、7月5日の昼時点で消えています。

リニアは 89.8% が地下かトンネル

 リニア新幹線の全長は、JR東海による「工事実施計画(その1)」によれば 285㎞605m。同じく「中央新幹線品川・名古屋間 橋梁・隧道 その他の主要な構造物の概要を示す表」によれば、「隧道」は、256㎞550m(名前のあるものが 248㎞804m、その他が 7㎞746m)。つまり、89.8% がトンネルか地下。地上は約10%。だから、「地下鉄みたいなもの」という言い方は間違いとは言えません。ちなみに、地下鉄と言っても地上を走る地下鉄もあります。例えば、横浜市営ブルーラインは地上部分が19%、グリーンラインは22.4%、名古屋市営地下鉄東山線が15%。

山梨県内は約63%がトンネル

 一方、山梨県についてみると、全線約83㎞のうち、トンネルの延長は約52㎞約63%です。JR東海が国交省に提出した工事申請書付属の平面図からひろった数字です。ほとんどが高架橋となる「明り部」は約31㎞、約37%です。山梨県内の高架部は27㎞という人もいます。

 全線延長から地下部分の総延長を引いた数字と少々矛盾しますが、おおよその比率を考える上では妥当だと思います。長野県では全線53㎞のうち橋梁と地上部分が約4.2㎞で約7.6%。東京、神奈川、愛知は全部が地下。岐阜県は全長55㎞の内、トンネルが約38.9kmで残り地上部と橋梁で約29%。じつは、山梨と岐阜が特別なのです。長野県の割合が全線の平均に近いです。地元住民からみて、やはりほとんどがトンネルです。

 「私は地元なのでそれを見ている。実際に見に来てから話せよ。誤った情報を垂れ流すなよ。」などというコメントは、おそらくだれが見ても変な理屈だと思います。リニアに批判的な主張に対する、反論の典型の一つだと思います。事実をどう曲解させるかの稚拙すぎる工夫だと思います。

 リニアはJR東海の計画ですから、JR東海が出している数字をもとにコメントするのが筋だと思います。

アクリル製の防音防災フード!

 「高架の上に包むように透明のアクリルが覆っている。」ともいってます。JR東海のホームページに、「説明会における主なご質問」への回答がのっています。

Q:防音防災フードを透明にして沿線からリニア車両が見えるようにしてください。
…アクリルなどの透光性材料は、隙間の問題が残ることに加え、防音性能が劣るため部材が厚くなるとともに、透光効果の時間経過に伴う劣化もあり、実用化の目処は立っていません。…地元自治体などからは、防音防災フードを透明にして走行するリニア車両を見ることができるようにして欲しいとのご要望を頂いています。現在も引き続き検討を進めていますが、環境との関連で、極めてハードルの高い、困難な課題です。

 リニアはJR東海の計画ですから、JR東海が出している説明をまず確認すること、そして本当に実際に現場に行って確かめてから、コメントすべきだと思います。JR東海のページは「リニア 透明な防災フード」のキーワードで検索すれば、一番目に出てくるページです。

入門編の次に期待

 山田厚さんのお話の中には、細かな部分でちょっと違うかなというところがないわけじゃないです。しかし、全体の流れとしては、納得できました。

 ただし、原発との関連付けはやり無理があると思います。柏崎刈羽原発からリニア実験線へ電気を送っていると言っていますが、1号機から7号機まで全部が発電を停止中です。なので、柏崎刈羽原発の電気は使っていません。リニアがやりたい葛西さんが原発好きだという位の関連性はあるとは思いますが…。JR東海は、国内の総需要量に対して大きな影響を与えるような電力消費ではないと説明していますが、JR東海の説明でも妥当なものもあるのです。

 最近、地震学者の石橋克彦さんが、雑誌『世界』3月号や『静岡新聞』に書かれたものがあって、そのなかで、「リニア新幹線は地球上でもっとも危険な地帯に建設されている」と書いています。「入門編」としては、専門家が地球上でもっとも危険な地帯といってるでも良かったんじゃないかと思います。陸地はプレートの沈み込む部分でできるのですが、それが今現在進行中の場所が南アルプスの一帯です。そこでトンネルを掘ることが想定外の危険を伴う行為なのだと思います。世界一の長さのゴッタルトベーストンネルの掘られたヨーロッパアルプスも日本の南アルプスも同じような成り立ちの山ですが、出来た時代が違うので、山の固さが違う。より固いヨーロッパアルプスに比べて、まだ十分に固まっていない若い南アルプスのトンネルは掘削も維持も未知数の困難やリスクがあるということ。

 電磁波の問題も心配ではあるのですが、それよりは強力な磁界の問題だと思います。JR東海が超電導磁石の強力な磁界は人体に影響があると認識している点が重要です。安全上は不十分かも知れないですが、対策をしています。そしてその対策によって、定員の少なさとか乗客の乗降りに複雑な仕組みが必要であることとか、軌道に与える衝撃の大きさなどの、「目に見える大きなマイナス」を生じさせている点も忘れないでほしいですね。

 簡単には触れていたのですが、トランスラピッド(上海リニア)と超電導リニアの特徴をきちんと比較しておいたほうが、日本が核燃料サイクルにこだわり続けることとの共通性を指摘する場合に、より彼我の違いが明らかにできると思います。同じ目的を目指す技術が、超電導よりもっとシンプルな方法で、数十年前に実現できていたんだと。