更新:2020/07/12

歴史に逆行する挑戦・超電導リニア

超電導リニアの開発はそろそろ「潮時」

 フェースブックで紹介されていた『現代ビジネス』の川辺 謙一さんによる記事、"夢のリニア中央新幹線、乗ってみてわかった「実現への不安」 まだ道のりは長そうだ"。

 川辺さんは一般応募で2019年8月に試乗したようです。川辺さんの感想は:

L0系の車体も、時速500kmでの浮上走行で大きく揺れた。車体の振動を把握するため、壁に手を押し当てながら乗ったところ、走行中の新幹線車両や、飛行中の航空機の壁よりも大きな振動を感じた。
その振動に、筆者は不安を覚えた。高速道路で、足回りの状態が悪い自動車を運転するときのように、小刻みな振動に、フワフワする不快な振動が伴っていたからだ。これでは、15年前の試作車と同様に、通路で立って歩くのは難しいだろう。
車両が減速して車輪が再び接地すると、航空機が着陸したときのような衝撃があり、座席の背もたれが大きく揺れ、車体全体が上下・左右だけでなく、前後にも大きく振動した。

 振動が必ず起こるという点については、中島洋さんの "超電導リニア開発裏話" の中で、「超電導磁石が規則正しい凸凹道の上を走っているようなもの」という表現があります。

軽視されてきた問題は、力の絶対値は小さいが、繰り返し発生する振動力であった。この振動力は、 一定の間隔で並んだ地上コイルが原因で、言うなれば超電導磁石が規則正しい凸凹道の上を走っているようなものである。その周波数は車両の速度に正確に比例して増加し、山梨実験線では500km/h走行時には309Hzになる。… 実は、この振動に伴う問題はこれだけではなかった。昔から、超電導磁石の周辺に発生する磁場変動(=地上コイルと車両動揺による)が、超電導磁石内部に与える影響…

image
リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の「リニア中央新幹線広報動画 Superconducting Maglev」より。ガイドウェイ側のN、S の磁石はなめらかに連なっているわけではありません。いわば規則正しい凸凹道のようなものです。

 つまり鉄のレールのなめらかな連続した表面の上を鉄の車輪が転がっていくのとは違う。

 さらに、超電導リニアは磁石の反発力を磁気バネとして利用しているので、ガイドウェイのなかで車体が右よれば左に戻す力が働き、左によれば右に戻す力が働くというように、実は、左右にヨタヨタと揺れながら走っているのです。

image
時間があればこのアニメ改良するつもりですが… 。磁極のN、S、については適切に表現できていません。車体が左右に振れながら「だいたい」中央を走っているという意味がわかっていただければと思います。

 超電導リニアの浮上走行の仕組みと川辺さんの印象はぴったりと合っているようです。この問題は、1970年代から指摘されていた問題です。超電導開発グループもあったドイツが常電導のトランスラピッド方式に統合した時の理由の中で振動に関係するものとしては、大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』(公共投資ジャーナル社、1989年、37ページ)によれば:

すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない
当時の結論は1987年に再度見直され、1977年の選択は間違っていなかったことが確認された。

 また、常電導のHSST方式を開発した日本航空が超電導を採用しなかった理由については、中村信二さんの "「HSSTの開発について」 (1978年10月)" によれば:

高速における動安定など今後解明せねばならぬ多くの点があると思われる.

 従来の鉄道では高速走行時に「蛇行動」という脱線につながる危険な現象があって、これは振動が原因なのですが、新幹線ではこれを抑えることが一つの重要な課題だったそうです。そういう振動の問題が十分に解決できていない可能性がある。

 ほかに、川辺さんは、「車内の気圧が急激に下がったためか、耳がツンとなり、音が聞こえにくくなった。車体には従来の新幹線車両と同様に気密構造が採用されているはずなのだが、『耳ツン』は起きた。」といっています。つまり解決できそうなことなのに解決できていない。

 乗り心地の問題について、参加者の多くは、乗車体験に満足しただろう。1区画(2席)4,320円(税込)という料金を払った上に、抽選をパスして当選し、交通の便がよいとは言えない場所にわざわざ出向いて試乗したら、それを「いい思い出」にしたいと思うのが人情だ。試乗したいという気持ちが大きいほど、時速500km走行を体感できたことで満足し、乗り心地までは気にならない可能性が高い。 という考察も興味深いと思います。

 超伝導磁石のような繊細な機械を鉄道の車輪代わりにつかうことの妥当性については、宮崎実験線の副所長を務めたことのある北山敏和さんも同様のことを言っています(「山梨リニアの超伝導磁石」)。

取り扱いが大変で精密機器のような超伝導磁石を、安全を優先しなければならない交通機関に何故使用しなければならないのか
人命にかかわるリニアの支持(レールへの輪重)、案内(車輪のフランジと踏面のテーパ)、推進(車輪レール間の粘着力)の心臓部を担う基礎部材などに超伝導磁石を使うべきものではなく、これはもっと高級な精密機械に使用されるべきもの
鉄道のレールと車輪は絶対に壊れない鉄のかたまりでできているから安全

 川辺さんは、鉄道史を繙けば、従来の鉄輪式鉄道の弱点を克服しようとさまざまに走行システムを変えた鉄道が開発されてきたが、その多くが淘汰され、結局鉄輪式鉄道が長らく生き残ったことがわかる。超電導リニアの開発は、こうした歴史の流れに逆らう「挑戦」 といっています。同じような見解として、たとえば:

「私がこれまでに聞いた磁気浮上式に関する批評のうち最も印象的なものは、1984 年にバーミンガムで開かれた会議の席上、イギリスの GEC 社の技術部長 M.P.リース博士が語った次のような言葉である。いわく『もし仮に、誰でも彼でもがホヴァークラフトだの磁気浮上式車両だのに乗っているような事態になったとしよう。そのときには、車輪という発明は、われわれがいま考えているよりもずっと素晴らしいものだということが分かるであろう』。日本とドイツで既に巨万の費用をかけた研究がなされたにもかかわらず、磁気浮上車両がまだ営業運転を開始するには至っていないということに、冷静に思いをいたすべきである。」(マレー・ヒューズ著/菅健彦訳『レール 300 世界の高速列車大競争』山海堂、1991 年[原著は 1987 年]、100~101 ページ)

 ここから先、私の意見は川辺さんと少し違うかもしれません。

 超電導リニアの歴史の流れに逆行する技術的性格を見通せなかったJR東海です。そのJR東海が妄想、画策したリニアの路線の建設計画は、走行方式を新幹線方式にしたとしても、多くの問題点があります。建設目的の一つに災害時のバイパスというのですが、南海トラフ地震では東海道新幹線と同程度の被害を受ける地域を走ることはその代表例です。また、南アルプストンネル内部の勾配は新幹線の列車では登れません。勾配を緩くすれば、最大土被りが大きくなってトンネル工事がさらに難しくなります。

前の方で紹介した、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の「リニア中央新幹線広報動画 Superconducting Maglev」のビデオの12分36秒から、「揺れも気にならないわ」というセリフの直後の映像、車体が揺れているのがよくわかります。