更新:2020/07/24、07/26 訂正と補足、07/27 補足と訂正、07/28 表を追加、07/29 除山斜坑の進捗の表を訂正

長野県内のリニア建設工事の進捗状況について(2019年7月24日現在)

トンネル掘削月進100mは困難 現実は約50m程度

 静岡県では大井川の減水を巡って静岡県とJR東海が対立し南アルプストンネルの工事が着工できていません。さきごろJR東海は2027年開業が遅れると表明しました。静岡県が環境問題で譲らないため2027年の開業が遅れるという声も一部に聞かれます。長野県内の工事についても、進み具合、工期の予定などから、2027年開業に間に合わない可能性が高いものがいくつかあります。また、南アルプストンネルの長野工区の掘削の進み具合は、1月当たりにすると53mから21m程度です。長野工区の全長8.4kmについてざっと計算すると、斜坑は実質2つと考えて、4200m ÷ 53m ≒ 79か月 ≒ 6年と6か月。長野工区はガイドウェイを設置しながらという工事はできないはずなので、プラス2年で8年と6か月(再計算)。協力的な長野県のもとでも、2027年開業には間に合わない。

(再計算 2020/07/27) 公表データがないとはいえ、おおざっぱすぎるので、JR東海が出した環境保全計画(2016年)掲載の地図で測定すると除山斜坑と本坑の交点から長野工区の東端までが最も距離が長く、5090m。除山斜坑の残りが約500m。5590m ÷ 53m ≒ 105.5か月 ≒ 8年と9か月半。さらに2年加えると 10年と9か月半。2020年7月を起点にすると2031年の4月半ばまでかかるかも知れない。(参考)

もくじ | 大鹿村 | 豊丘村 | 喬木村 | 飯田市 | 阿智村 | 南木曽町 | 残土問題

大鹿村

 2014年11月10日の事業説明会では工事の当初の予定(以下、当初)は、"作業用トンネル坑口は2015年秋、変電施設は16年度、小渋川に架ける橋は17年度にそれぞれ掘削や建設を始める(『信毎』2014年11月11日)" とされた。長野県がJR東海の資料をもとに作成した2017年(平成29年)6月27日時点の「大鹿村内の予定」(以下、中間)は、当初予定より遅くなっている。現在は全般的に2017年の予定に比べても遅れている。6月24日に大鹿村リニア連絡協議会の席上、JR東海などから工事の状況について報告があった。

南アルプストンネル・長野工区の工事完了は2028年1月以降

トンネル掘削の月進は21~53m程度

釜沢斜坑、除山斜坑は工事休止中

 2010年1月14日の「長野県とリニア沿線14市町村とJR東海の意見交換会」で配布された資料によると、南アルプストンネル・長野工区の工期は、2016年2月9日から2026年11月30日となっている。施工状況欄には、最も工事開始が早かった除山斜坑について2017年4月27日掘削開始と記載があり、この資料に基づいても工事完了は2028年1月になってしまう。さらに約2年のガイドウェイ設置、試運転期間を加えれば、2030年以降でないと開通できない。除山斜坑は掘削開始初日以降ほぼ作業は行われず、ヤード整備が整っていた小渋川斜坑で本格的な掘削が始まったのは約2月後の7月3日だったので、さらに数か月遅れるはず。なお、2014年11月10日の事業説明会(大鹿村交流センター)の説明では、工事期間に軌道・電気工事を含むとし、トンネル、橋梁、変電所ともに2027年度半ば過ぎまでに完成の予定としている(*5)。小渋川斜坑の掘削が始まった2017年当時、ある筋から聞いたところ現場の関係者が10年あれば掘れると語っていたという(2020/07/30 追記 「10年あれば」を長野工区について「月進」に直すと、最も長い区間である除山斜坑からの約7㎞についていえば、月進58m、斜坑部分をのぞけば約42m)。

 6月26日の川勝知事との会談で、JR東海の金子社長は、次のようにいっている。

西俣から掘り出して斜坑を掘っていくと長野側と山梨側に伸びるんですが、一番長いのが長野県側3.5キロと3キロあります。千石から掘っても3キロ弱。順調にいって月進100メートルと言われています。そうなると西俣から掘り始めると65カ月、5年5カ月かかることになります。千石から掘っても60カ月弱、5年近くかかることになります。(*6)
それができてからリニアの中のガイドウェイを作って最終的な試験をしなければなりません。それが2年ぐらい。足し算するとそれだけで西俣は7年5カ月。2027年の12月末まで7年6カ月。ぎりぎりなんですが、それに加えて斜坑を造る。

 静岡工区の概略は下図のようになる。

image
(静岡工区の長さは8.9km。金子社長のいう本坑部分の長さはアバウトで足し合すと9.5km弱になる。)

 「月進」は 1か月で掘削する長さのこと。本坑部分の西俣斜坑交点から長野側の3.5kmに65か月かかるといっているので、金子氏は月進を54m程度と見込んでいる。現在、長野県内で掘削中の南アルプストンネルの月進は53m~21m程度。静岡工区の方が容易ということはあり得ないと思われる。金子社長は、6月中に準備工事にかかれば2027年開業に間に合う、6月中に準備工事の続きを始めれたとして2027年12月末がぎりぎりとした。しかし、金子氏もいっているとおり、斜坑の掘削の期間が計上されていない。西俣斜坑は3490m、千石斜坑は延長3070mと、その長さは無視できるほど短いとは思えない。斜坑の長さを勘定に入れると工事期間は倍になる。長野工区の掘削のペースから推定すれば金子氏の推定は楽観的過ぎる。長野工区の釜沢斜坑は月進21mだ。仮に掘削ペースが月進27mになれば、さらに倍で20年以上かかる可能性もある。2027年から20年を引けば、2007年じゃないか!

(参考):JR東海による「大井川水資源利用への影響回避・低減に向けた取組み(素案)」 によれば、千石斜坑は延長3070m、西俣斜坑は3490m。この他に、導水路トンネル(11㎞)、千石ヤードと西俣ヤードを結ぶ工事用道路トンネル(4km)の掘削も計画されている(『日刊建設工業新聞』2017年月19日 "JR東海/リニア新幹線南アルプストンネル導水路建設/全体工程7年想定")。

 7月14日から、県道赤石公園線が地滑りのため通行不能となり、釜沢斜坑、除山斜坑は工事が休止になった。道路復旧の見通しは、7月24日現在立っていない。静岡工区でも現場に行けない状況が続いているという。こういう状況がこれからは毎年必ずあると思う。

[補足・訂正] 訂正前の「金子社長は月進100mとして静岡工区のトンネル掘削に5年から5年5か月かかると言っている。」は不適切なので訂正します。したがって、「静岡工区の工事期間は軽く10年を超え、2032年の年末まではかかるだろう。そのような見込みが立てば、世間は、リニア計画は達成できるものと思わないだろう。だから、静岡県があと数年慎重に検討したとしても大勢に影響はないはずだ。」も訂正します。

◎ 除山斜坑の掘削開始は2年弱の遅れ

除山斜坑延長1870m、本線接続部から静岡工区西端までの本坑延長4200m(注1)、月進約40.2m(訂正あり)。

注1:公表データが見つからないので長野工区延長8400mを2で割った

 当初2015年度第3四半期から掘削開始(*5)が、2017年4月27日掘削開始。中間では、2018年度中頃:先進坑・本坑掘削開始とされたが、現在、斜坑延長の約7割の掘削が完了(*1)。(参考:昨年の同時期は、全長1870mのうち約900m(48%)を完了)。39か月で900m掘削となるので月進23mとなる。実は、掘削は初日だけだった。この後、2017年6月には現場に通じる三正坊橋の亀裂が見つかり、重量制限などでヤードの整備は遅れた。

 なお、2017年の除山斜坑の掘削開始当時、小渋川斜坑ヤードはほぼ整備が終わっていた。除山斜坑は更地状態からほとんど整備は進んでいなかった。当時、『NHK』は具体的な斜坑名は言わずに、次のようなニュースを流した。県内の8.4キロの工区では去年11月、大鹿村で起工式が行われ、JR東海は村内の3か所で資材や機材の置き場所の整備を進めてきました。このうちの1か所で整備が終わり、JR東海は27日から県内初となるリニアのトンネルの掘削を始めました。 いかにもリニアの工事が順調に進んでいると誤解させる極めて悪質な報道であったと言える。また、JR東海の焦りを示すものだったと言えるかもしれない。

◎ 釜沢斜坑の掘削開始は5年遅れ

釜沢斜坑延長約350m、釜沢斜坑接続部から除山斜坑接続部まで本坑延長2600m(注2)、月進21m。

注2:公表データが見つからないので長野工区延長8400mを2で割った数字から1600mを引いた

 当初2015年度第3四半期から掘削開始(*5)、中間では、2018年度始めに先進坑・本坑掘削開始だったが、2019年7月上旬からヤード造成、2019年冬から掘削開始の予定とJR東海が説明(*3)。なお、保安林解除申請は一部の地権者の同意がなくヤードの規模を縮小。2020年3月3日に掘削を開始。斜坑延長約350mの約2割の掘削が完了(*1 = 6月24日報告)。3.3か月で70m。月進100mという目安に比べると月進21mとずいぶん進捗が遅い。

◎ 小渋川斜坑の掘削開始は約2年の遅れ

小渋川斜坑延長1150m、釜沢斜坑接続部までの本線延長1600m、月進約53m

 当初2015年度第3四半期から掘削開始(*5)が、2017年7月3日掘削開始。中間では、2018年春に先進坑・本坑掘削開始とされた。2019年4月5日斜坑の掘削完了(21か月で1150m、月進約55m)。2019年8月23日から先進坑掘削開始。(*2)。先進坑の延長約1600mのうち、約3割の掘削が完了(*1)。先進坑部分は480mを10か月で掘削したので月進48m。斜坑と先進坑あわせて月進約53m。(小渋側斜坑の掘削のペース)

◎ 伊那山地トンネル青木川工区の工事完了は2027年9月以降

青木川工区:斜坑延長600m、本線部分延長3600m

 2020年7月17日にJR東海は斜坑の掘削を開始したと公表(『信毎』7月18日 "伊那山地トンネル掘削開始 大鹿 青木川工区に本格着工")。当初2015年度第3四半期から掘削開始(*5)だった。2020年1月14日の「長野県とリニア沿線14市町村とJR東海の意見交換会(2020年1月14日)」配布資料によれば、工期は2017年8月10日から2026年9月30日で施工状況欄に2018年10月15日に準備工事に着手となっているのでヤード整備は1年遅れ。従って、工期の最終は2027年9月30日以降。

◎ 小渋橋梁

 当初2017年度第4四半期に建設開始(*5)、中間では、2018年度にヤード整備完了となっているが、工事未着手。現場は非常にアクセスが困難な場所。どのような工事方法とするかなど具体的な話はいまだに聞いていない。2020年1月14日の「長野県とリニア沿線14市町村とJR東海の意見交換会(2020年1月14日)」配布資料では記載なし(*4)。

◎ 小渋川変電所(上蔵、インバーター設備)

 当初2016年度第2四半期から建設開始(*5)、中間では2018年度中頃に造成開始予定だが、2017年以降は現在も小渋川斜坑のトンネル残土仮置場になっている。残土が片付かないかぎり造成はできない。2020年1月14日の「長野県とリニア沿線14市町村とJR東海の意見交換会(2020年1月14日)」配布資料には記載なし(*4)。

◎ 松川インター大鹿線道路改良

 残土運搬ルートの松川インター大鹿線のトンネル工事は、中間では、2018年度中頃完成が、西下トンネルは2019年1月供用開始、東山トンネルは2019年3月供用開始となった。松川インター大鹿線拡幅工事は、中間では、2018年度に完了予定が、半の沢・大林建材間が現在工事中。幅員が狭い半の沢橋については、渡河部分を盛土造成し道路にする計画があるが、盛土による土砂災害の懸念からいまだに検討中。

 なお、5月11日から大鹿から残土を初めて村外への持ち出しが始まった。行く先は、飯田市上郷飯沼の丹保・北条の移転者代替地の造成現場(総量約3.5万立米)。半の沢・大林建材間を河川敷の河川管理道路を共用していたが、6月末の豪雨で道路が削られて通行不能になり、運搬車両の台数を減らして運行している。

◎ 赤石公園線他改良

 赤石公園線他改良工事は、中間では、2018年前半に完了が、工事中。先述のとおり、釜沢地区内で地滑りのため7月14日現在通行不能になっている。

◎ 国道152号線迂回路

 国道152号線迂回路工事は、中間では、2017年度中に完了の予定が、未完了のまま暫定使用。仮橋の地権者が長野県に調停を申請したが、2019年5月31日に不調となった。その後2019年9月30日まで協議の結果、10月1日に契約締結(*3)。5月18日現在、仮橋は工事中だった。第16回連絡協議会での報告によれば、7月27日に供用開始予定になっている(*1)。

◎ 三正坊の残土仮置き場の使用期限

 釜沢地区三正坊の残土仮置き場(4万7千立米)の使用期限(2020年7月17日)が迫っている。連絡協で新たに南側に7万立米分を確保すると説明。現在、水田2枚分と金毘羅権現が祀ってある小山を除いて平坦部すべてに残土が運び込まれている。

豊丘村

 本体の工事が始まっているのは、坂島斜坑のヤード整備だけであり、当初計画に対して最大で3年以上遅れている。

 2014年11月4日の事業説明会でJR東海は、"トンネルの掘削を2016年度、変電施設の建設を17年度に始めたいと説明(『信毎』2014年11月5日)"。事業説明会では工事スケージュールを配布していなかった。同説明会のスライドによれば「高架橋等」は2017年中頃の工事開始予定。

◎ 坂島斜坑

 長野県がまとめた「リニア中央新幹線の工事の状況 県内工事の概要」(更新日:2019年4月4日)に掲載の「工事スケジュール」では、坂島斜坑のヤード整備開始が2017年度第2四半期から、トンネル掘削開始は2017年度第3四半期となっているが(*、ヤードは2019年3月11日開始で現在造成工事中(**)。

* JR東海は、2017年3月29日に佐原地区で開かれた事業説明会で同様のスケジュールを説明(『南信州』2017年3月30日)。

** 『南信州』2019年2月27日

◎ 戸中斜坑

 戸中斜坑についてはヤード整備開始は2017年度第4四半期だったが、敷地内の建物や樹木などの撤去は済んでいるが以後全く手つかずで、1~2年の遅れ。

◎ 伊那山地トンネル・本坑

 壬生沢川岸の伊那山地トンネル本坑からの掘削はついに目途が立たず、戸中斜坑から両方向に掘る模様。壬生沢川の橋梁についても、橋脚位置の関係で壬生沢川の流路変更の必要があるとのことで、工事方法や用地について、検討中だが地権者の協力が得られていない。

変電施設(大柏)

 変電所の造成は2017年度第4四半期となっているが、物件調査を経て補償を2018年度に予定していたが、補償についての説明会は2019年5月(第18回リニア対策委員会議事録)。果樹などを撤去し2020年春にボーリング調査が行われたあと、7月下旬現在は草が生い茂り原野状態になっている。

喬木村

 2014年11月7日の事業説明会では、"高架橋や天竜川に架ける橋の建設を2017年度の中ごろ、トンネルの掘削を19年度の中ごろに始める(『信毎』2014年11月8日)"と説明。いずれも、実際の工事は始まっていない。天竜川の橋梁は約2年の遅れ。トンネル掘削は数字の上では余裕はあるが、ヤードの整備もまったく手付かず。2019年4月から堰下地区でガイドウェイ組立ヤード造成のための準備工事が始まり、現在耕土の剥ぎ取り作業中。造成にトンネル残土7万立米を使う予定。2019年7月30日に確認したところでは、敷地中央の水路が新設され、南端の調整池が工事中だった。敷地内に数か所盛り土があり、これは水田などの表土をはいだものと思われる。2020年7月初めに確認した限り1年前と同じ状態だった。

◎ 飯田市内:風越山トンネルの完成は2029年半ば以降

 2014年11月14日の事業説明会の配布資料によれば、トンネル工事は2016年度の中頃だが、中央アルプストンネルの松川工区で2018年2月15日に着工(『南信州』2018年3月20日)し、現在ヤードを造成中。2~3年遅れている。これ以外はなにも工事は行われていない。風越山トンネルについては、水資源利用者が多数あり、地質調査のため15か所の追加ボーリングを行い、東側区間(3300m)は当初のNATM工法をシールド工法に変更した(『南信州』2019年5月18日)。

 風越山トンネル(シールド区間3300m)について、運輸機構が2020年度発注見通しに上げている。それによると、入札予定または契約時期は、第4四半期で工期は80か月。工事概要は「シールド工法による本坑トンネル3300m、仮設発進立坑一式」。2021年1月に工事を始めたとしてもトンネルの完成は2027年7月。軌道工事などは含まれていないので、さらに2年で、開業は2029年半ば以降になってしまう。

image
(画面クリックで拡大)運輸機構発注見通し(参考)

 なお、同じは見通しには山梨県内の笛吹川と濁川の橋梁工事があがっている。こちらも工期76か月で、橋梁の完成予定は2027年の3月以降になる。

 駅部の用地取得は2019年度中頃には完了の予定が、まだ取得できた土地はないし、用地取得のための測量も一部で地権者の承認を得られていない。駅部の工事は2018年度中頃だが用地買収が全くされていないので1年半以上は確実に遅れている。

 橋梁・高架部・保守基地は2017年度中頃に工事が開始される予定となっていたが全く工事は始まっていない。約2年遅れ。

 リニア関連の移転対象者に対する代替地が丹保・北条で造成中。

阿智村

 2014年11月12日、事業説明会では、萩の平の斜坑について、2016年度中頃に着手(『信毎』2014年11月13日)としていたが、まだヤード造成工事も始まっていない。萩の平付近の残土置場もまだ検討中。約2年半遅れている。

 萩の平の斜坑から出る残土については、斜坑ヤード付近やより上流に置くという案もあったが、上流はすぐに飯田市に入るので、阿智村は木曽方面からの残土は受け入れないと表明している手前、萩の平周辺に置かざるを得ない。専門家によれば絶対安全とは言えないが、置けないことはないという。しかし、黒川に近い1軒については非常に危険性があり、土石流対策の擁壁設けるか移転するかの防災対策をきちんとしなくてはならないとのこと。

◎ 南木曽町:中央アルプストンネルも2029年までかかる可能性

 2020年7月4日に南木曽町内で残土置場の候補地の名前が初めて明らかになった(『信毎』7月4日)。また、7月5日までに広瀬斜坑のヤード整備についての報道があり(『信毎』7月5日)、国道256号線とヤード間の町道の拡幅工事が8月から始まる予定。これが、南木曽町内では初めてのリニア関連工事となる。

 今回公表された工程表によれば、トンネルの掘削開始は2021年度の中ごろで、トンネルの覆工と路盤工の工事は2025年度第3四半期までとなってるが、環境影響評価書長野版の工程表によれば、広瀬斜坑からの工事については、トンネル掘削に8年、電気機械設備工だけがさらに2年で全体で10年かかることになっている。トンネル掘削だけでも2029年の中ごろまでかかる可能性があり、2027年の開業は無理といえる。(参考:長野県内の工区でも2027年開業に赤信号)

残土問題

 長野県内で発生する残土970万立米のうち、工事が完了または工事中の残土の処分先は、旧荒川荘跡地(3万立米)、ろくべん館前(5千立米)、大鹿村総合グランド嵩上げ(10万立米)と、準備工事の始まった喬木村のガイドウェイ組立ヤード造成(7万立米)。この4か所が、『南信州』が "確定している残土本置き場”と書いているもの。リニア建設工事の中で使うものとして、豊丘村大柏の変電施設の造成(14万立米)。確実と思われるものが、喬木村伊久間の土地造成(8万5千立米)。合計で約43万立米。新たに県が受け付けた12件は場所等は非公開ながら『南信州』によれば公共工事での活用が中心ということで、それぞれが何十万立米単位の大量の残土を必要とするとは考えられない。

 7月4日の『信毎』に、駒ヶ根市の中沢で約20万立米を受け入れるとのニュースが掲載された。10日にJR東海、県、市、中沢区と地権者の会合が非公開であったが、市によれば、「何も決まっていない」とのこと。計画が決定に至るには、これまでの他地域と同様に紆余曲折があるはず。

 『信毎』(2018/11/2,2019/5/13)、『中日』(2019/1/24)、『読売』(2018/11/1)などは、残土処分地の確保はJR東海が思うようには進んでいないこと、谷埋めの危険性などを書いている。

参考資料

参考

 3.11震災の復興事業では1月に270mも掘削した例(※)もあるけれど、一般的には月進100mという数字は、地質の条件が良いことや事前の十分な調査がなければあり得ないのではないか。(※ 鹿島建設:"NATMの大断面トンネル掘削で国内最高記録の月進270mを達成")

 今年7月10日に北陸新幹線の新北陸トンネル(延長19.76km)が「貫通」。着工は2014年6月で約6年で掘削を完了。6工区にわけ、5工区は先に貫通。延長2.17kmの田尻工区が4月貫通予定が約3月遅れた。完成予定(トンネル内部をコンクリートで覆う工事やレール敷設をふくむ路盤工事まで)は2021年1月末(『福井新聞』2020年7月11日 "新北陸トンネル福井貫く、北陸新幹線 2023年開業区間で最長、6年がかり")。延長19.76km ÷ 6工区 ÷ 72か月 ≒ 47.7m/月(本坑の延長だけで計算)。熊谷組が担当した大桐工区(斜坑483m、本坑3605)の工期(予定)が65か月で1月当たりが約63m(熊谷組グループ CSR報告書2016)。

 上越新幹線の中山トンネルは事前の調査不足が原因で難工事となり山のなかでルートを変更した結果、新幹線なのに160㎞/hに減速をして通過せざるを得なくなったトンネル。どの程度の掘削の進み具合だったか工区ごとに計算した。
工区名小野上南小野上北四方木高山中山名胡桃
着手1972年9月1日(1973年3月1日)1972年2月8日1972年6月1日1972年6月1日1973年1月10日
竣工1982年2月1日(1974年9月27日)1982年3月31日1982年3月31日1982年3月12日1976年7月31日
日数3440日(575日)3704日3590日3571日1298日
延長(実績)4720m(斜坑457m)1070m2827m4600m1640m
取り付き入口810m(457m)立坑371.6m立坑295m立坑312.9m出口
1日当たり1.37m(0.79m)0.29m [0.39m]0.78m [0.87m]1.29m [1.38m]1.26m
月進41m (24m)8.7m [11.7m]24m [26m]39m [41.3m]38m

・『レファレンス(The Reference)』Mo.813,2018年10月20日,"リニア新幹線の整備促進の課題―トンネル工事が抱える開業遅延リスク―" と、小林寛則・山崎宏之著『鉄道とトンネル』(ミネルヴァ書房2018年4月20日)p242 の表より作成
・小野上北は難工事で斜坑を457m掘った1974年9月27日で工事を断念した。
・[ ] 内の数字は斜坑や立坑の長さまで加えた数字

 南アルプストンネルの山梨工区について早川斜坑の掘削の開始が2016年10月27日、掘削完了が2017年6月末だった。掘削期間は8か月。斜坑の全長は2.5kmだが、この期間に掘削したのは500m(※1)なので、月進62.5m。JR東海は、2017年8月23日に現場を報道陣に公開し、先進坑を90m掘り進んだと説明。また、1・2メートル(支保工の間隔)の掘削作業を昼夜2サイクルずつ計4サイクル行い、1日約5メートルのペースで進んでいると説明している(※2)。単純計算すればこれは月進150mに相当する。ただし、先進坑の掘削をいつから始めたのか不明なので掘削のペースの実績は分からない。(※1 『毎日新聞』2016年10月29日 "リニア中央新幹線 掘削工事開始 南アルプストンネル斜坑 早川 /山梨"、※2 『日刊建設工業新聞』2017年8月24日 "JR東海/リニア南アルプストンネル山梨工区の現場公開/本線掘削へ準備着々")

除山斜坑の掘削ペース

除山の掘削のペースを約23mとしたが、実際に掘削を開始したのは2017年11月1日とわかったので再度計算したら1月当たり約40.21m掘っていることがわかった。

除山斜坑(延長1850m)は、2017年11月1日から2020年6月24日までの966日で1295m掘り進んでいるので1日当たり約1.34で1月当たり約40.21m掘削している。下の表で、掘り始めは22mと少ないので、釜沢斜坑も現在は21m程度だが、よりペースが上がるのだろうと思う。2019年6月25日から9月30日までの94日間と、2019年12月18日と2020年3月25日の2つの期間が全く進んでいない(注)のは何なんだろう。なにかトラブルがあったのか、単なる報告ミスなのか? それぞれ2つの期間を通しで計算すると、1月あたり約32mと約29.4mになる。

注:連絡協議会への報告は2019年6月25日が「斜坑延長の約半分の掘削が完了しています。」、9月30日が「斜坑延長(1,850m)の約半分程度の掘削が完了しています。」と同じ。2019年12月18日が「斜坑延長(1,850m)の約 6 割の掘削が完了しています。」、2020年3月25日が「斜坑延長(1,850m)の約 6 割の掘削が完了しています。」と同じ。

大鹿村の「リニア中央新幹線情報」の、No.26,27,29,30,31,33,36,41,43,44,45,46 を参考にした。リニア連絡協議会の開催日にJR東海が進捗状況を説明しているので、数字は開催日現在とした。

連絡協議会開催日報告数字
        期間日数・増加分1日当たり1月当たり
2017-04270m
2017-11010m
        148日で110m0.74m/日22.2m/月
2018-0329110m
        91日で160m1.758m/日52.74m/月
2018-0628270m
        98日で180m1.8367m/日55.1m/月
2018-1004450m
        264日で475m
[*267日で]
1.799/日
[*1.779]
53.98/月
[*53.37]
2019-0625 [*2019-0628]925m
        94日で0m
[*97日で]
0m/日0m/月
2019-0930925m
        79日で185m2.34m/日70.2m/月
2019-12181110m
        98日で0m0m/日0m/月
2020-03251110m
        91日で185m2.033m/日60.99m/月
2020-06241295m

(2020/07/29 訂正)「2019-0628」は誤りで、「2019-025」に訂正。関連する訂正前の数値は [*・・・] で示した。

小渋川斜坑の掘削のペース

小渋川斜坑(斜坑)の掘削のペース
2017年7月3日0m
171日で350m61.4 m/月
2017年12月21日350m
98日で150m45.9 m/月
2018年3月29日500m
91日で100m32.9 m/月
2018年6月28日600m
98日で150m45.9 m/月
2018年10月4日750m
183日で400m65.6 m/月
2019年4月4日1150m

小渋川斜坑(本線先進坑)の掘削のペース
2019年8月23日0m
117日で160m41.0 m/月
2019年12月18日160m
98日で160m48.9 m/月
2020年3月25日320m
91日で160m52.7 m/月
2020年6月24日480m

(2020/07/30 追記)山梨実験線先行区間の例:山梨実験線の先行区間18.4kmは1990年11月28日に着工、1990年9月にほぼ完成した(ウィキペディア)といわれる。約16㎞がトンネル。トンネル部分は4㎞区切りに工事を実施したと仮定。それぞれの工区が掘削する距離は約4000m。これを 1996年9月1日までの2104日で掘削したとすれば、ひと月当たりに掘削した距離は約57m。