更新:2021/05/26、2021/06/03 加筆

いまさらですが、トランスラピッド

 JR東海の超電導リニアの技術的な特徴とか問題点を考えるとき、同じような目的で開発されたトランスラピッド方式とを比べてみると良いと思います。たしか以前にも紹介したと思いますが、トランスラピッド関連の動画を紹介します。

 Youtubeの動画 "Hightech for Flying on the Ground" は、ドイツが開発した常電導の磁気浮上式鉄道「トランスラピッド」の宣伝動画です。

 「トランスラピッド」は2004年からもう17年間も上海で営業運転をしています。宣伝用の動画ですから、もちろん欠点なんかは説明していませんが、日本の超電導リニアがアピールしている特長と比べてみると面白いと思います。

 運行する最高速度は300~500㎞、急なカーブも走行出来て、登坂力は100パーミルなど。車体のデザインもだいぶ違うし、車内の広さ、窓の大きさ。この方式で建設するなら反対しなかったかも(冗談)。

 最初のほうで:

案内、支持、推進と停止の役割をする従来の車輪とレールの機能は、トランスラピッドでにおいては、電磁石による浮上と推進の方式で実現された。機械がエレクトロニクスに置き換えられたのだ。

と、説明しています。機械を電子回路によって制御する「メカトロニクス」はいろいろな産業分野ですでに一般化していると思います。トランスラピッドもその流れに沿ったものだと思います。

 JR東海の超電導リニアも磁力を使っているんですが、ガイドウェイ側のコイルと車体の超電導磁石との間の磁気バネで、車体の重さや遠心力などと釣り合う位置に車体を保持するという考え方は、やっぱり「機械的」なんだと思います。

 推進は、超電導リニアもトランスラピッドも三相交流の同期式リニアモーターという点では同じですが、推進用コイルの設置の仕方は、トランスラピッドの方が、超スマート。

 超電導リニアは軌道側(ガイドウェイ)に推進コイルと浮上案内コイルの2種類のコイルが必要です。トランスラピッドでは軌道側は推進コイルだけです。浮上コイルと案内コイルは車体側にあります。つまり軌道の構造がシンプルです。軌道のほうが車体よりはるかに「長い」ので大きな違いです。

 浮上は、機械としてはシンプルなのですが、速度に関係なく浮上している。助走をして勢いにのってから「えいやっと」浮上する超電導より安心感があると思います。飛行機とは違うのですから。

 浮上すれば、鉄道の車輪やレールのような摩擦ですり減る部分が無くなるはずでした。超電導リニアでは車輪が必要なので、車輪はすり減ります。車輪があれば墜落した時の安全性が高まるという言い訳(※)にはなりますね。トランスラピッドは浮き上がってから動き出すのですり減る部分はありません。そして、トランスラピッドは緊急時には「そり(スキッド)」を使います。車体が落下したときには、何もしなくても減速、停止します。そして、上海で2004年に運行を始めてから落下事故があったのかなかったのか?

※ TDK テクの雑学:第30回 浮かせて押して引っ張って…… — 夢と現実の、リニアモーターカー
"現在までに試験されているタイプは、120km/h程度までは車体に搭載した超伝導コイルに発生する誘導電流と、線路に設置した電磁石の間の反発力が車体を支えるほど大きくならないため、車輪で車体を支えて走行するのですが、これも磁石にトラブルが生じた場合に車輪を使って停止できるという安全上のメリットに転じます。

 この動画、時代的にはたぶん前世紀のものですが、JR東海のリニアの公式ページのいろいろなコンテンツより、よくできていると思います。

 "Transrapid - Werbefilm der deutschen Magnetschwebebahn (1985)" は、1980年代後半、営業路線用の原形車両の TR-06型 がエムスランドの実験線を走るようすが紹介されています。JR東海の葛西さんは1987年12月に、この実験線を視察しています。

 "Der Transrapid - Deutsche Ingenieurskunst | Industriefilm von 1997" は、も少し後の時代。今となっては、ちょっとクスっとなるようなシーンもありますが。2分40秒付近からカーブを走る様子、超電導リニアではあり得ないカーブです。出てくる車体は TR-07型。

 "Transrapid History" は、ドイツの磁気浮上式鉄道の開発の歴史。2分50秒付近からは、シーメンス等の超電導方式の開発のようすが出てきます。

 "Der Transrapid - Werbefilm TyssenKrupp" では、9分から、いろいろな列車との騒音の比較が出てきます。