更新:2021/06/17

超電導リニアは残念なシステム

超電導リニアの技術的な欠点

A. 磁石の反発力を利用する不都合

1. 超電導リニアは磁石の反発力を利用しています。軌道側に多数の磁石を並べる代わりに巻き始めと巻き終わりをショートさせたコイルを並べています。車体に積まれた超電導磁石がこれらのコイルに近づくと磁石となります。磁石になったコイルと車体に積まれた超電導磁石の間の反発力で浮上します。この方式を誘導反発方式といいます。

2. 超電導リニアでは車体を浮かせるためのコイルが線路にあたるガイドウェイに規則正しく並んでいます。車体に積まれた超電導磁石がこれらのコイルと反応しながら走るのですが、これは規則正しい凸凹道を走っているのと同じです。超電導磁石は速度に応じた振動を常に受けています。これが乗り心地が改善できない原因の一つです。

3. 磁石の反発力はバネと同じ働きをします。JR東海は「磁気バネ」といっています。バネなので、車体の重量、そして遠心力などの力と釣り合った位置まで車体がずれます。そのずれる量を考えると10㎝は浮かせる必要があるという話なんです。地震との関係よりは、ずれることを考えればという話なのです。車体は右にずれると左に戻す力を受けます。そして中心を通り過ぎて左にずれます。今度は右に戻す力を受けて右にずれます。行ったり来たり、こういうふうにヨタヨタと揺れながら軌道に沿って走ります。乗り心地を悪くするし、高速走行するときの安定性について心配があります。

4. 自転車の発電機は速く走らないとヘッドランプが明るく光りません。同じように、リニアでも時速130~150キロに達しないと十分な浮力が出ません。だから、低速走行の時に使うゴムタイヤと、それを出し入れする装置が必要です。ゴムタイヤは発車停車のたびにすり減ります。たとえば、各駅停車専用の列車は直通専用にくらべタイヤがへりやすいという問題が生じます。

B. 機械として信頼性が低い

1. 鉄道の車輪の役割は、列車を支えること(支持)、列車の進行方向を定めること(案内)、レールを蹴って列車を進めること(推進)です。車輪は鉄でできています。リニアではこの3つの重要な役割を果たすのが超電導磁石です。超電導磁石には列車の重量が加わります。超電導コイルは液体ヘリウムを満たした容器に入れてあります。その周りを真空にしたマホービンで囲みます。その外側を液体窒素を利用した冷凍機で冷やしています。鉄の車輪にくらべ、非常に複雑な構造です。したがって、信頼性が鉄の車輪に比べ著しく劣ります。このような機械を、多数の乗客が乗る列車に使うべきでありません。安全性は大丈夫なのかとか、安定した運行の維持ができるのかといった心配があります。

2. 現状では希少資源の液体ヘリウムが必要です。液体ヘリウムがなければ走れません。液体ヘリウムが不要な高温超電導物質を材料とした超電導磁石は静かな環境で使う医療検査に用いるMRIで実用化できるかどうかといった段階です。高温超電導物質を用いた超電導磁石が実用化したとしても冷凍機は必要です。強力な磁界対策や、反発力を利用する方式としての欠点は解決できません。

3. 超電導磁石では突然磁力が無くなることがあります。クエンチといいます。クエンチを起こした場合の対応は、たとえばある台車の右側の超電導磁石がクエンチしたら、反対の左側の超電導磁石をオフにします。この台車が負担していた車体の重さを、前後の台車に振り分けます。前後の台車の軌道に対する角度などが変化するという無理が生じます。また、カーブで外側の超電導磁石がクエンチを起こした場合には対応する時間がなく、台車が側壁に接触するはずです。前後の台車で負担を分散するという対策は、列車の一番前と一番後ろの台車の超電導磁石がクエンチを起こした場合には役にたちません。

C. 強力な磁界の問題

1. 超電導磁石の発生する強力な磁界は人体に影響があります。磁界の影響を避けるため磁気シールドや伸縮式乗降装置が必要です。磁界を発生している台車の上には座席をつけれないので座席数が約3割少ないし、ドアの数も新幹線の半分です。乗降に時間がかかる可能性があり運行に支障が出る可能性があります。低温でも高温でも超電導磁石をつかう以上避けられない欠点です。

D ほとんど直線しか走れない

1. カーブというものは外側と内側で距離が違います。超電導リニアの側壁浮上方式のガイドウェイでは、12.6mと長さの決まったパネルに14個の浮上用のコイルが取り付けてあります。直線でもカーブでも同じパネルを並べていきます。カーブでは内側と外側の長さの差をうめるためのゆとりはほとんどありません。もともとカーブ走行には不向きな構造です。高速走行する本線区間ではほぼ直線しか走れません。そのため南アルプストンネルという難工事がさけられず、静岡県で、大井川の減水問題で工事着工が絶望的になっています。いくら高速性能が高くてもカーブが曲がれないのではまともな乗り物ではありません。

E. 改良が難しい

1. 鉄道のレールは簡単な構造です。蒸気機関車の時代から、レールはずっと同じです。レールの上を走る列車はディーゼルカー、電車など変化しましたがレールはずっと同じです。電車もモーターや制御する機器が改良されてきましたが、鉄のレールはほとんど変化はありません。最初の新幹線に比べ最近の新幹線では電力消費が約半分です。モーターや制御方法などほとんど車体側の改良だけで実現できました。

2. リニアでは、ガイドウェイと車体の組み合わせでモーターになります。ガイドウェイはモーターの一つの部品にすぎないのに、何百キロもの長さの巨大な施設として地上に固定されてしまいます。技術的な改良が非常に困難です。古くさくなっても、もうどうにもなりません。完成しても、その寿命は短いでしょう。

F. 常電導方式に負けた技術開発

1. 常電導(吸引磁気方式)のトランスラピッド(上海リニアモーターカー)は時速500キロで走行可能です。カーブも走行でき、登坂力も優れている。電力消費も比較的にすくなく、磁気対策や冷凍機、補助車輪も不要。ドイツは1980年代後半にはトランスラピッドを実用化させました。その仕組みは超電導リニアと比較して非常にシンプルです。当時広く用いられていた技術を組み合わせて開発されたものです。国鉄~JR東海は磁石の反発を利用する方式と超電導磁石にこだわったために、いまだに技術的に完成させることができないでいる。磁気浮上式鉄道の開発競争で超電導リニアはドイツのトランスラピッドや日本のHSSTに負けたといえます。

G. 環境重視の時代に浮上式鉄道は不要

1. 浮上式鉄道は、超電導方式でも常電導でも、従来の鉄道方式に比べて電力消費が大きく、気候変動対策で省エネが叫ばれるこれからの時代にふさわしくありません。これからは、高速性よりは従来の鉄輪方式の省エネ性のほうが重視されるはずです。また、軌道の複雑さ、特に分岐装置の複雑さは、ネットワーク性や柔軟性のある列車の運行が難しく、発展性がありません。

2. 結局、9.8m/秒2の重力加速度が働き、1気圧の空気がある、陸上という現実的な条件下で、重さを支えながら移動させるような交通機関で、車輪の発明というものは偉大なものです。そもそも重い列車を持ちあげて走らそうという考え方に無理がありました。

3. 自然環境破壊、立ち退き問題、工事による大量の二酸化炭素排出や労災事故の危険性など、多大な犠牲を払ってまで、建設する価値のある乗り物、技術ではありません。