更新:2021/07/22

リニアで鎖国

 中国の鉄道車両メーカー「中国中車」が時速600㎞で運行できる磁気浮上式鉄道の5両編成の列車を完成させたというニュースがありました。

100㎞/h 中国の方が速い

 速度の比較について、『日経』なんかは「JR東海に肉薄」と書いていますが、ちょっと違う。まず上海で走っているリニアモーターカーは、ドイツが開発したもので、運行速度は時速500㎞で設計した車体を使っています。延長が短く、カーブもある上海の路線では300kmとか430㎞で運行しています。つまり、日本のリニアの運行速度は時速500㎞なので、上海のリニアモーターカーも同じ。上海のリニアは2004年に開業しています。

 今回のニュースの時速600㎞のリニアは、運行速度が時速600㎞という意味です。なんで「肉薄」といえるのか、そういう表現が適切なのか疑問です。JR東海の超電導リニアは記録としての時速603㎞で、中国中車の場合は運行速度です。つまり、100㎞/h 中国の方が速い。

トランスラピッド方式と共通

 2019年5月に青島の中国中車で時速600㎞/hで走行可能な磁気浮上式列車のプロトタイプ完成、浮上に成功したというニュースがありました。2020年6月には、上海の同済大学にある総延長1.5kmの実験線で走行試験が始まっていました。これらのニュースで紹介された画像を見ると、おそらく基本的な部分は上海のトランスラピッド方式と共通性があると思います。原理的な部分は、常電導の磁気吸引方式で同じだと思います。

トランスラピッド方式

 常電導のトランスラピッドは、ドイツで開発されました。超電導方式についても、ドイツではシーメンス社などが開発を行っていました。2種類の車体をテストコースで走行試験しています。しかし、1977年に常電導方式のトランスラピッドの開発に合流しました。超電導方式には種々の欠点があると理解されたからです。トランスラピッドは1980年代終わりころまでには実用技術として完成していました。中国へ輸出し、上海で路線が完成したのは2002年頃です。

 約20年後の現在、日本のリニアはまだできない。技術的にも未完成。それが現実です。

 しかし、トランスラピッドはドイツでは、敷設する計画がすべて中止になって、ドイツは開発をやめてしまいました(2011年)。将来性がないからです。この点については『日経』の "鉄道車両も環境シフト 独シーメンスや仏アルストム 蓄電池駆動や水素燃料" が参考になります。最初に紹介した『日経』の記事はこう書いています:

鉄道車両製造で世界最大手の中国中車は20日、時速600キロメートルで走るリニアモーターカーが完成したと発表した。中国の鉄道として最速となる。JR東海はリニア車両で最高時速603キロメートルを記録しており、それに迫る形となる。鉄道分野で世界的に技術開発競争が激しくなりそうだ。

 『日経』でも、世界の業界の動きについて一貫性のない判断をすることがあるのだなと思いました。

 2020年6月、日本のマスメディアの一部は「【北京共同】中国製のリニアモーターカーが26日までに時速600キロの走行試験に成功した。」と間違った情報を伝えていました。日本のマスメディアの磁気浮上式鉄道についてのニュースは、非常に心細いところがあります。日本のリニアについてもなんですが…

米国への輸出計画はどうなった?

 その一つが、アメリカ東海岸のワシントンDCとボルチモア間の超電導リニア計画についての報道がほとんどないということです。最近では2月に『日経』が、環境影響評価の草稿が公表されたと伝えたぐらいのもので、これもネット配信はありましたが、紙面では、どういうわけか静岡県版のみだったようです。地元紙の『ボルチモア・サン』なんかには、草稿に対して、ボルチモア市が建設中止を勧告したなどというニュースが載ったようです。『ワシントン・ポスト』などにも計画への批判が出ているという記事も。英語がよくわからないので、こういうニュースを日本のマスメディアはちゃんと報道して欲しいですね。リニア情報については鎖国状態では困ります。