更新:2021/07/26

リニアには原発が必要か?

 JR東海のリニア中央新幹線のホームページFAQ に:

リニア中央新幹線の消費電力については、交通政策審議会の審議の中でも示されている通り、ピーク時の消費電力(瞬間値)は、一定の前提を置いた試算では、名古屋開業時で約27万kw、大阪開業時では約74万kwであり、電力会社の供給余力の範囲内で十分賄えるものと考えています。

という説明があります。ちょっと分かりにくい説明だと思います。産業技術総合研究所(旧工業技術院)にお勤めだった、阿部修治さんは、『科学』(岩波書店、2013年11月)掲載の「エネルギー問題としてのリニア新幹線」の中で、1名の乗客を1㎞運ぶ時の消費エネルギー(電力量)について、新幹線が時速300㎞/hで走る場合は 28Wh/1人・㎞。リニアが時速300㎞/hで走る場合は 54Wh/1人・㎞ と計算しています。リニアが時速500km/hで走る場合は 99Wh/1人・Km としています。

 列車そのものの燃費みたいな数字の比較ですが車を買う時に、リッター何キロ走るのか気にするのと同じ感覚だと思います。この方が分かりやすいと思います。同じ速度でも約2倍、運行最高速度では約3.5倍余計に電力が必要なことは間違いないと思います。

 いろいろな分野でチマチマと電力消費を抑えようとしている時代に、東京と名古屋の間を新幹線の1時間40分程度を45分に縮めるだけのために3.5倍も電気を使うというのはどうなのかと思います。

×「リニアには原発が必要」

 当たり前ですが、水力発電で発電した電気も、火力発電や原子力発電や太陽光発電でも、発電の仕方で、出てきた電気を使うぶんには違いはありません。リニアを動かすためには原発が必要だという意見がありますが、JR東海さんの「電力会社の供給余力の範囲内で十分賄えるものと考えています」という回答や、エアコンを使う夏場に気温が0.1~0.2度上下するくらいで変化する電力量の差程度という見方(*)もあって、日本全体の消費電力から見れば原発がどうしても必要というレベルではなさそうです。

* 上岡直見「リニア新幹線と原発は無関係」(『JanJan』2013年 10月 11日)。上岡さんが触れている阿部修治さんの論文は、「リニア中央新幹線の消費電力について」(2011.7.25)

 原発何基分の電力が必要だからけしからんという批判を聞いた人の多くは、JR東海の説明に納得するんじゃないかと思います。でも、新幹線より多少なりとも電気は余計にいるということは事実。

×「原発からの送電線がすでにできている」

 新潟県の柏崎刈羽原発から山梨県のリニア実験線の近くまで高圧送電線がリニアのために、ずいぶん前に建設されていたという方がいます。また、静岡県の浜岡原発から長野県の大鹿村までの高圧送電線もすでにできているという方もいます。

 刈羽原発のほうは、首都圏に電力を供給するためですと反論されたらどうでしょうか。浜岡の場合、長野県内の南信幹線~信濃幹線の高圧送電線は、伊那谷の工業用電力需要の増加を見込んでと言われて反論できますか? さらに、大鹿村への送電線の建設は実際には昨年末あたりから始まったばかりです。

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 南信変電所から南が南信幹線で、確かに電線は駿東変電所を経て浜岡原発につながっています(*1)。しかし、JR東海が南アルプスルートの決断をしたのは飛騨トンネルの完成(平成19年)をみてともいわれています(*2)。年代があいません。リニアのために引かれた送電線とはいえないでしょう。

*1 電力系統の概要(平成32年度末)

*2 『中日』2020年8月6日 "考えるリニア着工 なぜ決まったCルート(上)"

 説得力のない、批判の仕方にいつまでも拘らない方が良いと思います。

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