更新:2021/08/31

3対0でリニアの負け

 8月27日の『毎日』(web版)"論点:リニア新幹線の行方"。web版は有料記事ですが、川勝平太静岡県知事(寄稿)、鉄道アナリストの川島令三氏(聞き取り)、経済ジャーナリストの荻原博子さん(聞き取り)の意見がのっています。川勝さんと萩原さんの意見は、リニアに対して批判的な内容。2対1でリニアの負け。

 興味深いのは、川島令三氏のいってることです。発言の冒頭で次のようにいっています。

リニア中央新幹線が開通する意義の一つは、日本の技術力を世界中に示すことにある。

 リニア中央新幹線が開通する意義の一つは、日本の技術力を世界中に示すことにある。 という部分は歴史的にみてあたっていると思います。そのことが正しいか正しくないかは別にしてですよ。このへんのことは、山本義隆さんの『リニア中央新幹線をめぐって』(みすず書房、2021年4月刊)の後半部分が参考になります。理にあわず、利にもあわずのリニアなのですが、山本さんの指摘からすれば、それが地域、地方でもなんとなく受け入れられていることも無理はない。

リニアは磁石の力で車両を約10センチ浮かせ、時速500キロで走行する。安定的な高速走行を実現するために浮上走行という方法が考えられたが、その際に必要な強力な磁石の力を得るために超電導という新しい技術が使われている。

 超電導リニアの技術の優れている点を的確に表現していると思います。つまり、リニアのうたい文句は:

 しかし、浮上方式の本来の目標は、高速走行を実現するために、摩擦に頼らない駆動のしかたの研究・開発という点にあったはずで、その結論は、実は出来るだけ浮上量を少なくして磁力を無駄なく使うことだった。ドイツや日本航空の技術者はその点に気が付いて常電導を採用した。それが正解だったことは、上海のトランスラピッド方式による2004年の営業開始、2005年の名古屋のリニモも開業を見れば明らかです。15年以上前から普通に毎日営業運転をしているし、常電導のリニアの営業路線は中国と韓国と日本で全部で5路線あります。

 時速500㎞は上海のリニアも基本的に列車の車体は同じように時速500㎞で走れるので、「10㎝」と「超電導という新しい技術」という点だけが超電導リニアの残された「特長」。10㎝浮かなくても超電導でなくても、時速500㎞は実現できたのですから、わざわざ非常にメンドウクサイ、超電導技術の採用にこだわって60年も開発を続ける必要はなかったはず。67分に短縮するためといっても、60年という時間のあいだに、東京・大阪6時間の特急「こだま」で東京・大阪を何往復できたか考えると、なんか無駄な努力という感じがします。

超電導は特定の金属を極度の低温に冷却することで電気抵抗がゼロになる現象で、日本固有の技術だ。

 超電導現象を発見したのは、オランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オネスで1911年のことです。超電導磁石を鉄道に応用しようというアイデアはアメリカ合州国のエネルギー省のブルックヘブン国立研究所の超電導の技術者だった、パウエルとダンビーによるもので、1967年に発表されていました。超電導磁石を用いた磁気誘導反発方式です。「超電導は…日本固有の技術」とはとてもいえません。

リニア整備は北海道新幹線や東北新幹線と違って国の事業でないことが一番の泣きどころだ。仮に掘削工事で大井川の流量が減っても、国の事業なら予算を付けて補償できるが、民間企業のJR東海では十分な補償ができるのか確証はない。静岡県とJR東海の議論が平行線のまま、他の工区で工事が終わって静岡工区だけが残るとなると、「まだ開通しないのか」という世論は静岡県への圧力になりうる。JR東海は、世論がリニア開通に傾くのを待っているのではないか。

 というしめくくりを読むと、結局、「JR東海って会社はなんなんだ」とか「横着なやつだ」という気持ちになる人もいるでしょうね。結局、オウンゴールがあって3対0でリニアの負け。