更新:2021/12/09、12/10 補足と一部改訂

超電導リニアとトランスラピッド

磁気浮上式鉄道の性能比較

 磁気浮上式鉄道には、JR東海の超電導磁石を用いた「超電導リニア」と、常電導の、上海で運行している「トランスラピッド」と名古屋の「リニモ」のようなものがあります。「リニモ」とほぼ同じ仕組みのもの(最高速度は、80~100㎞)が、仁川、北京、長沙でも運行しています。

 時速500㎞で運行できるのは、「超電導リニア」と「トランスラピッド」です。その性能を比べると:

○運行最高速度は、時速500㎞で同じです。国交省は、「トランスラピッド」は時速500㎞を実現できていないと述べていますが、これは完全なフェイク(*1)。

○乗り物として重要なカーブを曲がる性能は、「超電導リニア」は浮上走行では半径8㎞のカーブを曲がれます。車輪走行では半径900mです。「トランスラピッド」は半径400mのカーブまで走ることができます。浮いたままです。

 カーブは円の一部なのでカーブの「きつさ」は半径で示されます。数字が小さいほうが急なカーブ。「超電導リニア」はほぼ直線しか走れないですが、「トランスラピッド」は従来の幹線鉄道とほぼ同じようなカーブを曲がることができます。

○坂を上る能力は、「超電導リニア」が1000m進む間に60mの高低差の坂まで、「トランスラピッド」は1000m進む間に100mの高低差を登れます。

 最高速度は同じなのですから、より急なカーブが曲がれて坂をのぼる能力も高い「トランスラピッド」の方が優れていることはあきらかです。特に地形が複雑で、また地質条件も良くない、そして国土が狭い日本では、「トランスラピッド」の方が適しているはずです。トンネルを減らせます。

○電力消費については、同じ300㎞で走る場合に、1人の乗客を1㎞運ぶのに必要な電力は、「超電導リニア」が 54Wh で、「トランスラピッド」が 34Wh とやはりトランスラピッドの方が優れています(*6)。

○そのほか:「超電導リニア」では、低速走行では車輪が必要で、その出し入れ装置も必要。超電導磁石を冷やすための冷凍機や魔法瓶、そして液体ヘリウムがいります(*7)。また、超電導磁石の強力な磁力から乗客を守るために磁気シールド、飛行機の乗降りに使うボーディングブリッジのような特殊な乗降り装置も必要です。

 まず浮上してから加速する「トランスラピッド」では車輪はいりません。常電導ですから冷凍機、魔法瓶、液体ヘリウム、磁気シールド、特殊な乗降り装置もいりません。

○営業線走行用の原形車体(プロトタイプ)が完成した時期を比べると、「超電導リニア」は1996年の「MLX-01」で、「トランスラピッド」のほうは、1983年の「TR-06」です。

 「トランスラピッド」はドイツで開発されて、中国の上海で2002年には営業路線が完成して、2004年から正式に営業運転をしています。

 実質的な開発の開始はどちらも1970年頃ですから、超電導を選ぶか、常電導を選ぶか、どちらが大量輸送機関としての乗り物に使う技術として適しているかを判断できる技術的なセンスについて、開発を始めた当時の国鉄の技術者とドイツの技術者たちとのあいだで、その技術的なセンスに差があったのだろうと思います。

 なお、ドイツではシーメンス社などにより超電導方式の開発も行われていましたが、開発途中でわかった超電導方式の問題点を理由に、超電導方式は採用されませんでした。日本でも、常電導のHSSTを開発した日本航空は、同じような理由で超電導を採用しませんでした(*2)。

 「超電導リニア」は、建設中ですが、2027年の開業はほぼ無理。しかも、車体は技術的にはいまだに完成していない。枯渇が心配される液体ヘリウムに超電導磁石をひたさなくても、液体窒素の冷凍機などのような、より簡便な冷却方法ですむ高温超電導物質をもちいた超電導磁石の実用化が求められているのにその目途がたっていません。もちろん、それが実用化出来ても、超電導磁石を用いていることが理由のその他の、例えば磁気シールドなどの問題を解決することはできないし、低速時の車輪やその出し入れ装置も必要です。

 なお、「超電導リニア」は10㎝浮上だから、「トランスラピッド」の1㎝浮上より高速走行に適しているという説明は、そもそも、浮上方式がまったく異なるので、そういう比較は成り立ちません。また、「超電導リニア」は10㎝浮上でも、左右のガイドウェイとの隙間の長さは4㎝しかありません。ナンセンスな話なんですが、10㎝浮上だから適しているというのも、これも国交省発のフェイクです(*3)。

 高速で走る磁気浮上式鉄道の開発でドイツに負けたことは明らかで、それを認めることができず、突き進んで、リニア計画とJR東海は、いずれは南アルプス山中の崖から転落すると思います。

 このページは、このページの、アメリカで2001~2003年頃に、「トランスラピッド」の計画があって、結局、従来方式の鉄道であるアムトラックが選ばれたという部分に関連して書きました。ドイツでも浮上式鉄道の敷設計画は中止になりました。磁気浮上方式としては優れた方式の「トランスラピッド」なんですが、従来の鉄の車輪と鉄のレールを使った鉄道のほうがはるかに優れているということです(*4)。

 スピードより環境重視の時代なんですから(*5)。


*1 国交省の鉄道政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会の第2回会合(2010年4月15日開催)での国交省の説明(会議録のp4)。車体の設計速度は運行最高時速500㎞で、2003年11月に上海で時速501㎞で走っている。「トランスラピッド」を開発したドイツ企業 "Transrapid International" のホームページの一番下の方の "Transrapid Shanghai sets new world record with 501 km/h (311 mph)" という記事:

上海でトランスラピッドが時速501km/h(311 mph)の世界記録を達成
 営業運行の磁気浮上鉄道の世界記録が2003年11月12日に達成された。試運転段階の上海トランスラピッドの5両編成の列車は龍陽路駅と浦東空港駅の30㎞の区間で最高速度・毎時501km(毎時311マイル)を記録した。毎時430㎞で走行する別の車両とすれ違った。
 毎時500㎞(毎時311マイル)を越える速度で設計されている上海のトランスラピッドは、通常の運行では毎時430㎞(毎時267マイル)で走行するが、営業運転している鉄道の中では世界で最も速い。

*2 ドイツで超電導技術が採用されなかった理由は:1.渦電流効果によるエネルギー消費が大きい、2.特に低速度で顕著にみられるブレーキ作用で運転条件が不利となる、3.浮上、着地システムや超電導冷却システムのような余分の車上ユニットが必要である、4.すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない、5.乗客および持物に対する高磁場の影響が不明である(大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』、37ページ)。日本航空が超電導技術を採用しなかった理由:ヘリウムの冷却,液化にかなり大きなパワーを必要とするし,また高価なヘリウムの散逸を防ぐことに技術的困難が予想される.その他強力な磁場が人体に及ぼす影響とか,高速における動安定など今後解明せねばならぬ多くの点があると思われる。一方、常電導の利点として、レールとの間隔がきわめてタイトに保持できるので,リニア・インダクション・モーターと組み合わせれば,モーターのエアギャップの維持が容易である.…大部分がすでに解明され実用化されている技術の応用であり,それゆえに安価でかつ実用化がきわめて容易であることである.(「HSSTの開発について」)。

*3 国交省の鉄道政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会の第2回会合(2010年4月15日開催)での国交省の説明(会議録のp4)。浮上量を制御しているトランスラピッドと「磁気バネ」(JR東海による)を用いた自然な釣り合いで浮上量が決まる超電導では、方式の違いがあるので10㎝浮上と1㎝浮上をそのまま比較しても意味のないこと、また両者の間に、少なくとも優劣はないという指摘が近藤圭一郎教授『鉄道ジャーナル』の連載記事「鉄道車両技術のア・ラ・カルト」(執筆は近藤圭一郎氏、2017年4月、p98)にある。浮上する高さが大きな方が良いという考え方が間違っているという指摘が 「アメリカのリニア」(『日経サイエンス』1992年10月)にある。浮上量が少ないということは、モーターとしてエアギャップが少ないという利点もある。

*4 従来の鉄道では鉄の車輪が、車体を支え、走る方向を決め、推進するという役割をもっているのですが、超電導リニアでは鉄の車輪と同じ役割をするのが超電導磁石です。トランスラピッドなどの常電導方式では、鉄心に電線を巻きつけたコイルです。特に超電導磁石の場合、鉄の車輪と同じだけの信頼性は期待できません。改善されたとはいっても磁力が突然なくなる現象(クエンチ)やヘリウムの枯渇についての心配などは、鉄の車輪ではあり得ないことです。また、単純明快な構造である鉄の車輪と非常に複雑な超電導磁石という違いもあります。信頼性の低い物を多数の乗客を運ぶ列車に応用すべきではないです(北山敏和さんのHPの「山梨リニアの超伝導磁石」)。

*5 『日経』 "鉄道車両も環境シフト 独シーメンスや仏アルストム 蓄電池駆動や水素燃料" によれば、2018年の国際鉄道見本市(イノトランス)の、開幕イベントでは仏アルストムのアンリ・プパール=ラファルジュ最高経営責任者(CEO)が「もはや最高速度などは誰も口にしない。どれほどクリーンな電車を出せるかが重要だ」と強調

*6 超電導リニアの消費電力(54Wh)については、阿部修治さんの「エネルギー問題としてのリニア中央新幹線」『科学』2013年11月号、岩波書店、1290~1299ページ(PDF)。トランスラピッドについては、前述のトランスラピッド・インタナショナル社のHP(廃止)にあったグラフによる(参考)。

*7 超電導コイルは液体ヘリウムを満たした容器に入っていて、その外側を中を真空にした容器(魔法瓶)で囲ってあり、その容器の外側を液体窒素を利用した冷凍機で冷やしています。外部から熱が侵入して液体ヘリウムの温度をあげることがないようにするためです。JR東海が現在使っているニオブチタン系合金の超電導コイルは液体ヘリウムでマイナス269度に冷やす必要があります。