更新:2022/02/18

「予防原則」という考えがない
~座談会「リニアはなぜ必要か?」について(3)

 今回は「③自然への影響は大丈夫か」(101~103ページ)についてなのですが、「①「超電導リニア」を中国から守れ」はリニアの技術開発の歴史についてで、94~97ページで3ページ、「②さまざまな困難を乗り越えて」はリニアの技術についての内容に関する部分で、97~101で4ページ、「④リニア中央新幹線は日本をどう変えるのか」はリニアができればこういういいことがあるよという内容で、101~110ページで9ページ。「③自然への影響は大丈夫か」は話し合っている分量が一番少ないです。

 1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催されたた「環境と開発に関する国際連合会議」(UNSED)の「環境と開発に関するリオ宣言」の第15原則は次のようにいっています:

環境を保護するためには、予防的な取組方法が各国の能力に応じてそれぞれの国で広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない。("予防的な取組方法に関する国内外の考え方")

 この考え方を尊重するなら、リニア計画に関しては、法制度に拘らずに「戦略的環境影響評価」の方法で環境に対する影響を評価すべきだったと思います。2005年「愛・地球博」の会場づくりは実質的に「戦略的環境影響評価」を行っており、国内に前例があったのです。このような視点からみれば、「③自然への影響は大丈夫か」で話されている内容は、すごく前近代的なものと思えてなりません。

 古臭いといえば、ついでにいえば、長野県内のリニアの風越山トンネルは土被りが平均約70mです。工法はNATM工法がシールド工法に変更されました。地上は住宅街や農地などです。問題は地上部分の土地所有者との用地交渉です。5mより浅い部分は用地を取得。5~30mの部分はトンネル上部について区分地上権を設定、30mより深い部分については、整備新幹線がそうだったように、該当地域ごとの工事説明会で説明して工事に入ると、JR東海はいっています。戦前から山岳トンネルは、地上が山林だからということで、坑口付近は用地交渉をしても中間部分は用地交渉をせずに工事をするという慣行があるようです。

 東京や神奈川や愛知県では「大深度法」という法律の適用を受けることで、40mより深い地下については、地上の地権者の承諾を得ずに、つまり事前に用地交渉をせずに工事ができます。もちろん、この法律について憲法違反であるというような批判もあるのですが、ともかくそういう法律があるということは、地下にトンネルを掘るなら事前に地権者と交渉をして承諾を得るということがあるはずです。

 都市部では住民の権利意識が強く「うるさい」ので「大深度法」に頼るけれど、田舎の人間は「うっかりしている」ので、前からそうやってるといえば(実は何もいわずにやるんですが)通ると思っている。現代的な企業のやることじゃないと思います。

 具体的な、詳細な問題点については別の方が、すでに問題を指摘しているので紹介します。

 前回、前々回では、JR東海はいわば「古臭い技術」にこだわっているといいたかったのですが、JR東海の幹部の頭が「古臭い」のでやることなすことすべてが古臭いのかもしれません。このへんのことは、山本義隆さんの『リニア中央新幹線をめぐって』(みすず書房、2021年4月 9日)を読むとなるほどと思います。明治時代の「富国強兵・殖産興業」にはじまるナショナリズムと科学技術の結びつきが時代錯誤の巨大プロジェクトの温床となっているという説明はですね、「「超電導リニア」を中国から守れ」というタイトルを見て納得できるところです。

 カーブが自在に曲がれないという技術的な制約が、静岡の大井川の水問題を引き起こすという形。

 静岡県については、環境影響評価がまだおわっていない状況といって良いのかも知れません。戦略的環境影響評価をおこなったとしたら、建設中止となるはずのリニア。着工するまえにちゃんと検討していたなら、無駄な工事もせずに済んだはず。環境を重視するということは経済的な合理性もあるのだと思います。

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