更新:2022/04/04

リニアの「すれ違い走行試験」

それほど重要?

 リニア新幹線は、これまでに、すれ違い走行試験を行ったことがないので、安全性に問題があると指摘する人がいます。山梨リニア見学センターのホームページのリニアの歴史によれば、以下3回行ったと書かれています。

JR東海と鉄道総合技術研究所の報道向け発表によれば、2004年は11月15日(相対速度1,015km/h)にも行っていたようです。

 こういう情報を知って、率直に「すれ違い走行試験をしていない」ということはなかったんだと認める人もいます。しかし、行ったといわれる試験の内容が問題なんだと思う人もいるようです。たとえば、見学センターの情報では、列車の編成の長さや、明り区間で行ったのか、トンネル区間なのか分からない等々。

 1998年6月の走行試験については、見学センターのページには、小さいですが写真があります。明り区間で撮影されたものなんですが、3両編成同士ですれ違いしているようすが写っています。

 この写真を見て、やっぱりトンネル区間ではやっていなかったんだと思う人はまさかいないとは思いますが、トンネル区間ですれ違いをしている写真ってどんな写真が撮れるんでしょうか、すれ違い試験をしたという写真といえば明り区間のほうが分かりやすはずですね。トンネル区間でやっていないということはいえません。しかし少なくとも明り区間でやっていたことは明らかです。

 試験走行の詳しい内容が書かれていないことは確かなんですが…

 上海で2004年からすでに18年以上営業運転をしているトランスラピッドは、実験線ではすれ違い試験はやっていませんでしたというか、単線だからできなかった。それで、上海で複線の営業路線の建設が完成したあとの2003年11月になって、5両編成(時速501km/h)と3両編成(時速430km/h)の列車がすれ違い試験を行っていました(*)。

* トランスラピッド・インターナショナル社のHP(web.archive.org のキャッシュ)

 また、リニアは16両編成で営業運転することになっているのだから16両編成同士で試験すべきという方もいます。新幹線は16両編成同士が毎日毎日、トンネル区間でも明り区間でも、すれ違いをしているんですから、そういう長編成の列車がすれ違いする場合にどういうことが起こるかについては知識の積み重ねがあるはずです。

 山梨実験線の小規模な編成の試験で得たデータと、これまでの新幹線など経験から得たデータから、かなりの部分は推定できるのではないかと思います。

 すれ違い試験は、16両編成でトンネル内で行うことが安全性のためには絶対必要というほどのものなのかと思います。

 トランスラピッドと超電導リニアでは走行方式は違いますが、ドイツだって、通常の高速鉄道のデータは持っていたははずで、その点では、新幹線と超電導リニアの関係も同じです。

 東海道新幹線ができる前にもすれ違い試験は行われていたのですが、2両編成と4両編成同士、6両編成と6両編成同士での試験を「鴨宮モデル線」で行っています(*)。1964年10月の開業時は12両編成(**)でした。

* 新幹線1000形電車(ウィキペディア)

** 新幹線0系電車(ウィキペディア)

 で、列車がすれ違いするときに、どんな現象が起きると思って、16両編成同士のすれ違い走行試験が必要だというんでしょうか。両方の列車が軌道の外側にはねとばされるような感じなのでしょうか? JR東海の子会社なのですが、日本車両製造のページに新幹線がトンネル内ですれ違う場合に起きる現象についての説明がありました。最初は列車同士が離れるような力が働くのですが、すぐに列車同士がくっつく方向の力がはたらくようです。

もっと、重要な問題点があるのでは…

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ウィキメディア・コモンズより。(拡大) トランスラピッドの実験線。北側に半径約1.7km、南側に半径1㎞のループがあります。超電導リニアの実験線の線型は山梨リニア見学センターのHPの「山梨実験線について」を見てください。カーブ(曲線部分)の「きつさ」は、カーブを円の一部と考えて、その円の半径で示します。数字が小さい方が「きつい」カーブです。

 もっと、重要な問題点があるのではないかと思います。例えば、トランスラピッドと比べると、超電導リニアは、「普通のカーブ」の走行について、全く実験走行をしていないことは、素人でも、実験線の軌道のようす(線型)をくらべたら分かることだと思います。また上海の路線のカーブの様子をみても、半径1.25km、2.3㎞、4.45㎞などというカーブがあって、それぞれのカーブでは列車が約90度方向を変える(*)のですから、超電導リニアの路線の一番急なカーブが実験線と同じで半径8㎞(**)というのは、鉄道の延長上にある「乗り物」としては納得できるものではないと思います。

* カーブと直線 ~ 写真版リニア開発史。常電導のトランスラピッドは速度ゼロでも浮上できますから、全てのカーブは浮上走行。最少半径は400mといわれています。つまり従来の新幹線並みの線型が可能です。

** JR東海の「中央新幹線品川・名古屋間の工事実施計画(その1)の認可申請」の、ファイルサイズが103.6MBもあり表示やダウンロードには時間がかかると思いますが、「線路平面図」 によれば、品川駅を出てすぐに半径900m、名古屋駅付近には半径2000mのカーブがあります。これらは車輪走行区間と思います。

 飯田市周辺にお住いのリニア推進派の皆さま向けの、蛇足です。長野県が県として主張したBルートであれば、カーブに弱い超電導リニアは、諏訪付近と飯田市付近で低速の車輪走行となる急カーブが必要で、飯田にも駅ができる可能性があったと思います。

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