更新:2022/04/18

危険な谷埋め盛土を誘導した長野県

 『信濃毎日新聞』(『信毎』)が3月29日に1面に "飯田と阿智の残土置場候補地 「土石流危険」県公表の箇所 専門家 盛り土「好ましくない」" という記事をのせました。また、2面では "候補地「危険」県の説明なく 残土受け入れ判断 重要情報 計画進行 ずさんな現状" という記事をのせました。

 飯田市と阿智村のリニアのトンネル残土を処分する候補地の谷が、実は長野県が「崩壊土砂流出危険地区」や「土石流危険渓流」に指定していたのに、残土置場についての協議のなかで、JR東海も長野県も一切説明してこなかったという内容。

 『信毎』は専門家のコメントをのせています。

一般的には、土石流が起きるような急勾配の沢に土砂を積むのはあまり好ましくない(京大防災研究所斜面災害研究センター・釜井俊孝教授・応用地質学)(1面)
不安定な土砂が何倍にもなる。盛土は好ましくない(信州大学・平松晋也教授・砂防学)(1面)
(釜井俊孝教授は)住民が残土の受け入れを考える上で、災害のリスク情報を知る重要性を指摘。さらに盛土をしても災害が起きない立証や、埋め立て後の継続的な安全の検証は「本来、県や市町村がJR東海に要求しなくてはいけない」としている(2面)

 また『信毎』は盛土の安全性についての県側のコメントを載せています。

「ノーコメント」としつつ「雨が降っても崩れないようにしてもらえば問題ない」(県砂防課・林孝標課長)(1面)
森林内で一定規模の開発をする場合に事業者に求められる県との協議の際に「安全を確認する」とした(県森林づくり推進課・三沢雅孝課長)(1面)

 記事の中で候補地の地元の住民は:

「昔から土石流の危険性は言われてきた場所」と話す。一方、県の土石流危険渓流とされている点についてJR東海や県、市から「説明された覚えはない」という。

 この候補地では住民が反対の運動を起こしています。この候補地以外でもほとんどの候補地で多くの住民は心配をしているし、反対の声をあげているところもあります。脱線しますが、阿智村の議会が県に抗議したという話は、結局、市町村議会や役場が住民の声を聞いていない、聞こうともしてこなかったからだと思います。なぜかといえば、浮き浮きリニアの夢で思考停止していたからだと思います。リニアのデメリットというものを具体的に考えてこなかったためだと思います。

 4月12日に『信越放送(SBC)』が、"一体何が・・?阿智村のリニア残土置き場が「危険地区」に、村議会が異例の抗議文 長野・阿智村" というニュースを流したようです。これは阿智村議会の抗議を中心に伝えたものですが、『信毎』に登場した同じ専門家がコメントをしています。

(1)「崩壊が起きると下流に土砂が流れていくと被害を受ける危険性が高いという意味で地区指定がされる」
(2)砂防学が専門の信大の平松晋也教授はこう危険性を指摘したうえで、「基準を守って排水など必要な対策をすれば設置に問題はないだろう」と話します。
(3)「指定されていないところにそういう盛り土をする方がベターだとは思うんですけど、もしそういう場所に盛り土を行うのであれば万全の対応策をとってもらえるとたぶん問題なくなるだろう」。

 (3)は、「そういう場所」というのは、「指定されている場所」なのか「指定されていない場所なのか」、あまり明確なコメントとはいえないですね。

 JR東海のコメントは:

「対策を実施することで安全な発生土置き場を造成」することができ…

 問題は、谷埋め盛土について長野県内では、平松教授も「万全の対応策をとってもらえるとたぶん問題なくなるだろう」などというように、平松教授のいうような「基準」は、実は現実にはないということです。

 長野県の立場は、標高差が15m以下を許可する。「道路土工-盛土指針」にしたがって設計すること。標高差が15mを超える場合は、盛土の安定計算をすること。というもの。

 豊丘村本山の置場の場合は、開発許可(この場合は保安林指定解除)について、JR東海は安定計算を2次元解析でおこなっていました。

 残土置場の環境保全計画に長野県が助言をしています。そのなかで、長野県は安定計算は3次元解析で行うべきだと助言していますが、JR東海は2次元解析で十分と返答をしています。

 基準も何もあったもんじゃないということじゃありませんか。

 そもそも住民はなぜ心配するのか?谷は削れてできたところだからです。どういうふうに削れるかといえば、ながい年月のあいだにときどき、何十年一回というような土石流や斜面崩壊で削れてできるのではないか。だから、県の指定をみると、たいていの谷やその周辺には危険の指定があるのだと思いますよ。

雨が降っても崩れないようにしてもらえば問題ない

という、県砂防課のコメントは長野県の無責任さを象徴していると思います。

 そもそも、長野県が候補地情報の提供について、市町村にお願いしたとき、なんといっていたか?

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(リニア中央新幹線に係る建設発生上の活用先について (照会) (第1回目) 2013年5月28日)

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(リニア中央新幹線に係る建設発生土の活用先につ いて (照会) (第2回目) 2013年10月22日)

 「候補地が危険個所でないかどうか」についての配慮がまったくありません。どころか谷埋め盛土を誘導するような形にもなっている。

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(リニア中央新幹線に係る建設発生上の活用先について (照会) (第1回目) 2013年5月28日)