更新:2022/06/03

トンネル上部の所有者の承諾はリニアの安全に必要

土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。(民法第207条)
他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する(刑法第235条の2)

 1日の「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」の飯田市とJR東海への要望書提出の記事:

[補足2022/06/04] 『赤旗』が3日13面に "リニア説明会 早期に 長野・飯田 住民の会 JRに要望書"。この記事では、地上の土地所有者の承諾を得ずにトンネルを掘削するのは不法行為と「沿線住民の会」は強調していると書いています。

 さすが地元紙『南信州』は1面で扱って、「沿線住民の会」の主張の要点をほぼ正確に伝えています。皮肉ではなくほめています。

不法行為

 「沿線住民の会」はトンネル上部で土地所有者の承諾を得ないことは「不法行為」と指摘しているのですが、各紙ともに、「不法行為」というコトバは使っていません。

 『中日』は、この点について、法務省民事局に確認しています。

法務省民事局の担当者は「民法では上部地権者の所有権は地下に及びうるが、地下工事に上部地権者の承諾が必要かどうかは、(事故などを除く)工事自体が地権者の利益に損害を及ぼすかどうか次第だと思う。深度三十メートル以上では、承諾は不要とされるのが一般的ではないか」と話した

と書いています。

 法務大臣は外環道の大深度法の適用についての行政訴訟で被告の代表の立場にあります(参考)。地下の所有権侵害ということに関しての質問への回答として、法務省のこの担当者は不用意な発言をしていると思います。

 まず、民法207条では所有権は「地下に及ぶ」と規定しており、「及びうる」、及ぶ可能性があるとはいっていません。あくまで「地下に及ぶ」と規定しているのです。

 だいたい、なぜ三大都市圏の一部地域について大深度法があって、大深度法を適用することで土地所有者の承諾を得ずにトンネルが掘れることになっているのか。大深度法がなかった時代は、トンネルの全ての地上部分について所有者に工事について承諾を得てから行っていたわけです。今でも、大深度法と関係ない、日本国内の圧倒的に多くの地域では、承諾を得ずにトンネル掘削はできないはずなのです。

 刑法には、第235条の2に「他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。」(不動産侵奪)と規定があり、第243条には「第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。」と未遂も罰するとあるので、JR東海さんは今、微妙な立場にあると思います。

及ぼすかどうか次第ではない

 現実的な事実として、地下の工事が地上に影響を及ぼした例は200mに近い深さでもありました。最近では陥没や地盤沈下で約40戸が立ち退きにまで至ったのが調布市の陥没事故です。つまり「工事自体が地権者の利益に損害を及ぼす」ことは「一般的」にあり得るといえるわけです。これは大深度法の前提を崩すものでもあるのです。であるのに「及ぼすかどうか次第だと思う」はないだろうということ。法務省のこの担当者のコメントは極めて不適切です。懲戒ものだと思います。

 当日、記者諸氏(『信毎』、『中日』、『南信州』、『赤旗』)には参考資料として、飯田市とJR東海の見解を示す資料とともに、国交省内部にもこういう見解があるという資料を配布していました。

 後者、(『地権者承諾と「限界深度」』、中西徹)は、まとめとして、承諾なしに掘削することは不法行為であり、いかなる場合でも所有者の承諾を得るか、それが不可能な場合は収用の手続きをすることが大原則としています。

 区分地上権の設定とか補償とかは、必要な場合がありますが、また別の問題なのです。所有者の承諾はそれらの前提だということです。配布したものは、抜粋なのですが、実際の例として、区分地上権の設定では運輸機構では30mだけでなく20mという例、60mの深さで区分地上権を設定した例もあったこと、トンネル上部全区間で所有者の承諾または収用の手続きをした例(圏央道の高尾山のトンネル)も示してありました。また、電力会社は全ての地下施設で所有者の承諾を得てから工事をしているなど。

 飯田市の説明は、公共事業や整備新幹線では承諾を得ずにやってきたとしているんですが、公共事業や公益性の高い事業でもきちんとした手続きが行われた例があるので、飯田市とJR東海の説明には一部虚偽があるといえます

区分地上権の設定はリニアの安全性のため

 区分地上権については、「民法269条の2」に「地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。」とあって、これは、JR東海の立場からすれば、トンネル内においてリニアの安全な運行を確保するために、「鉄道事業者の運行の安全への責任」としてやるべきことといえます。そういう考え方がないなら、リニアの安全性に関わるほかの問題でもおろそかにされているところがあるという疑いは晴れないでしょう。