更新:2022/12/29

「リニアは存亡の危機にある」

 28日の『信毎』6面の「国内短信」に、"リニア開業後の静岡県内、新幹線の停車本数増へ調査"という記事。27日に国交大臣が、リニア開業後に静岡県内の東海道新幹線の停車本数を増やすための調査を始めるといったそうで、記事は「静岡県の反対で着工が遅れており、東海道新幹線の利便性向上を図ることで、県側の理解を得たい考え」と書いています。

 記事の後半は、静岡県の川勝知事の反応。川勝氏は「『今、県のメリットを考えるのは現実離れしている』と不快感を表明。エネルギー価格高騰で運行に必要な電力が賄えるかどうか不透明とし『リニアは存亡の危機にある』との認識を示した。」と書いています。

 『静岡新聞』は27日の "リニア開業後の新幹線 静岡県停車増を調査 国交相方針" で斎藤国交大臣発言を紹介。この記事によれば、斎藤大臣は「調査について『静岡県民に(開業への)理解をしていただくための大きな要素になるのではないか』」と書いているので、『信毎』の記事と矛盾はないでしょう。

JR東海にも、自公政権にもリニアを実現させる力はない

 川勝知事の反応については、別の記事、28日の "政府「都市構想」と矛盾 川勝知事、リニアで独自見解「存続の危機」" で伝えています。「存亡の危機」とは、地域分散をはかろうとする政府の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」とリニアによってできるという「スーパー・メガリージョン構想」とは「『真逆のことを言っている』…岸田文雄政権下でのリニア事業は、政策の方向性の違いから「存続の危機にある」と」の見解を示し…岸田政権のリニア政策について『どんなスタンスを持っているのか聞きたくなるほどの方針転換だ』と指摘」したと書いています。

 リニア以外の政策についても、自公連立政権が場当たり的な方針で混乱させているわけで、そんな政権では、リニア建設計画の完成は無理だろうということは、非常にわかりやすいこと。また、現実に大都市部のトンネル工事の失敗、南アルプストンネルの静岡工区以外も当初のギリギリの予定に比べて掘削のペースが遅い、中央構造線の突破はこれからなど、各地域とも予定より遅れているわけです。準備不足が原因。

 川勝氏は「これまで培ってきたリニアの技術を『日本が開発した極めて優れた技術」と評価し、「いかに残すかを考えないといけない』」と述べています。リニアを推進したいと思う人は誰でも同じように考えているんじゃないですか、といった感じで、まあ、トンチですね。

 『SBS(静岡放送)』は、27日(17:43)の "「リニアは存亡の危機にある」川勝静岡県知事が“持論”展開 水資源、膨大な電力消費…問題解決できない国の動きを問題視" で、「『むしろ、いかにしてリニアを救うかを考えねばならない。(リニアが)もういらない状況ができつつある中で、いかにして(リニアの技術を)残すかということも考えなくちゃいけない』」というコメントを紹介しています。

 で、27日の会見の全体は、"知事定例記者会見 2022年12月27日" でみれます。"リニア関連の発表事項"。

 まず幹事社が質問しています。他地域の進捗状況を知ることが静岡県にとってどういう意味があるのかと。川勝氏は、静岡悪者論が正しいかどうか確かめる為と答えています。幹事社は、静岡工区で着工することに関連してどういう利益があるのかと聞いているのに答えになっていないと指摘。司会をしている相手(=幹事社、『静岡経済新聞社』?)の記者がバカだからケンカになると思いますが、静岡県や静岡県民が他地域の工事の進み具合を知らずにいることが、着工することについて意味があると思うのかと反論すればよかったと思います。

 斎藤国交大臣の定例会見の発言については、このあたりから。

 報道では、いまだに「持論」というコトバを使っていますが、神奈川と山梨の短い区間で営業をしてみて検討するというような発想は、鉄道の専門家も同じことをいっているやり方(*)で、上海のリニアモーターカー(トランスラピッド方式=常電導)もお試し的な意味があったようですから、持論じゃなくて正論、ほかの点でも、もし実現したいなら、ルート変更など、川勝さんの言っていることはだいたい妥当だと思いますね。

* 『朝日』11月7面17面 "記者サロン:鉄道愛 悩み考え難局超えよう 今のシステム潮時■新幹線に貨物運ばせて" で鉄道車両の技術者で初代JR九州社長だった石井幸孝さんは、「世界の鉄道200年の歴史で、リニア中央新幹線は違う文化になる。神奈川―山梨間だけでも開業して、いろいろな人に乗ってもらい、その先どうするかを考えたらどうか。」といっています。