更新:2023/01/19

地盤振動と分布荷重

 JR東海のホームページ、"平成24年(5月~9月)、平成25年(5月~7月)の説明会における主なご質問" のなかに、"Q:地盤振動の影響を教えて下さい。" というページがあります。

 回答内容は:

超電導リニアの浮上走行時は、在来型新幹線のような鉄輪方式と異なり、列車荷重が分散するため、構造物に伝わる振動が小さくなります。また、車体重量も軽いため、超電導リニアは在来型新幹線よりも地盤振動が小さくなります。

 参考に、"資料「地盤振動について」(260.2KB PDF)" という図解資料があげてあります。

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"資料「地盤振動について」(JR東海)" より。超電導リニアのほう、矢印が8本の意味は? 台車側の超電導コイルは4つ。長さは各1.35m。軌道側には約45㎝ごとに1個の浮上案内コイル。5m40㎝あたりに軌道側のコイルは12個。(参考:"リニア中央新幹線の授業テキスト:対象学年:中学生 1〜2時間 「超電導リニアのひみつ」" の5ページ)

 新幹線の車両についている台車の2つの車軸の間隔は2m50㎝で、16両編成では台車が32、車軸は64あります。新幹線が1両45トンとすれば台車が支える重量は22.5トン。

日本車両製造 > "JR東海・西日本殿向け N700S新幹線"

 超電導リニアは連接台車を採用しているので、16両編成なら台車の数は17。列車全体の重さは、25トン×16で400トン。各台車が負担する重量は約23.5トンです。

 ひとつひとつの台車が負担する重量に、ほとんど差はありません。

 新幹線の場合は台車に2つずつある車軸には11.25トンの重量が、車輪一つには約5.6トンがくわわります。レールの点にちかい小さな面積に約5.6トンの重量が乗ることになります。

 それに比べ超電導リニアでは、約5m40㎝の長さで約11.8トンを支えることになるので、鉄道よりは広い面積で重量をうけるので荷重が分散するという説明です。

 さて、JR東海の資料の図には省略された部分があるように思います。

 鉄道のレールにあたるのが、超電導リニアでは、ガイドウェイの側壁パネル。このパネルは衝立のようなコンクリート製品で高架橋の上に固定されます。だから、解説図の荷重の伝わり方は正しく表現できていると思います。こちらはたぶん問題はない。

 新幹線のほうなんですが、車輪の下にはある程度の柔軟性と硬さをかねそなえたレールがあって、レールは、従来の砂利を使った軌道と同じような弾性の性質をもつスラブ軌道にしかれ、それら全体が高架橋の上にのさるかたちになっているはず。

 JR東海の解説図のように車輪の荷重がそのまま高架橋に伝わるとは思えません。

分布荷重という点でも常電導に軍配

 超電導リニアは車両の連結部分と一番先頭、一番後ろに台車があります。列車全体としてみれば台車の部分に重量が集中してかかっています。

 上海のトランスラピッド(*)や名古屋のリニモ(**)の場合は、浮上用の電磁石は列車の全長にわたって配置されています。分布荷重ということであれば、常電導方式のほうがより優れていることになりますね。

* トランスラピッドのPRビデオ、『Maglev - Hightech for Flying on the Ground』の38秒付近から。** 「浮上台車は,車体全長にわたって連続的に配置されており,車体および軌道の両者に対してかかる荷重が分散されることから,磁気浮上方式のメリットを十分生かす構成にしている」(『電学誌』121巻10号、2001年、村井宗信、"HSSTシステムの開発と実用化同行", p687)

振動の測定値の比較がない

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 QAのページの回答には、超伝導リニアの実際の測定値や16両編成での予測値は掲載されているんですが、新幹線の数字が示していないですね。

 それから、図の中の「6.6m」という数字。測定した位置を示しているんですが、右側の端がどういう位置なのか説明がないように思います。複線のうち片方の軌道の中心から「6.6m」という意味なのかとも思いますが…。

 新幹線の地盤振動については、軌道中心から25mで測定したものがあるようです。岡山県内の山陽新幹線沿線の測定では、25mで50~61デシベル、12.5mで56~65デシベル(*)、名古屋市内の東海道新幹線沿線では、「近接軌道の中心から25m」で52~67デシベル(**)という数字をネット上で見つけました。新幹線と同じ条件で測定した数字を示さなくては、基準値以下だよといったところで、前段の分布荷重だからそうなんだという理解にはつながらないと思います。ちなみに、測定した場所の地質の条件他で距離が離れるに従って変化するし方はかなり違うようです。また、振動は必ずしも軌道の近いところだけでおきるものでなく、軌道から離れた場所でおきることもあります。新幹線と超電導リニアの実験線で、できるだけ条件が似た場所で測定しなくては比較にはなりません。

* 『岡山県環境保健センター年報 44,11-17,2020』、「【資  料】新幹線鉄道騒音・振動調査事業報告(平成22~令和元年度)」(p14)、** 名古屋市、「令和3年度新幹線鉄道騒音・振動定期監視結果について(令和4年2月2日公表)」の「参考 新幹線鉄道騒音・振動定期監視結果の推移 (PDF形式, 89.89KB)

 超電導リニアは超電導磁石が浮上案内用コイルの上を走るのですが、浮上案内用コイルは約45㎝おきに並んで設置されているので、規則正しい凸凹道の上を走っているのと同じで、常に振動を受けているということは、軌道側にも振動を与えているわけです。レールの凸凹を研削して平滑にしたり、車輪の形を整えたりという対策はあり得ないです。

 JR東海さんのお答えには、ピントのずれたものが多いと思います。

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