更新: 2023/04/12、04/16 改定

労災事故と企業の社会的責任

一民間企業の工事なのだから、政府から一銭の銭=税金が出ていないならば、公開、非公開は企業の勝手。財政投融資を受けた以上、労災事故非公開は通らない。

 JR東海がトンネル工事などで起きた労災事故について公表してこなかったことは、新聞等で取り上げられ一時期話題になったことがありしたが、4月12日の『信毎』は、さらに未公表の労災事故があったことを伝えました。

 労災事故についてはすべてが広く報道されているわけじゃないとは思います。しかし、リニア計画についてJR東海が焦っているのかなという印象を受けることも明らかで、そうなら、特に労災事故は起こさないように注意しなくてはならないわけで、それを、まあ、隠すみたいな感じの態度でいるというのはちょっとおかしいと思います。

 そもそも、きちんとした検討を行った上で認可がおりた事業とはいえない。認可した国交大臣自身が住民の理解をえながらやれよと注意していることからもわかるというか、そんなら認可するなよという話ではあるのですが、だからこそ、情報公開はきめ細かくやるべきと思うのですが、逆に、まずいことは隠すということにもなってしまう。意義のあることであっても事故による犠牲は出ないにこしたことはない。

 『信毎』27面の記事では、公益企業論の桜井徹日大名誉教授は「企業の社会的責任として情報開示、人権、地域との対話が求められている。JR東海やリニアの事業は地域に大きな影響を及ぼす。どんな事故でも情報を公表し、説明することで工事に関わる労働者の人権を守り、再発防止、地域住民の安心につながる」と指摘。逆にいえば、そんなこと気にしていたらリニアなんかできないということで、それは、地元自治体や長野県も心得ているはず。行政までは連絡が来ていたのに住民や報道機関に公表していなかったことが、そういうことを示していると思います。

imageリニアルートのために解体作業中の3階建てのアパート(飯田市座光寺)

 『信毎』が報道しているのは、リニアの直接の工事。実は、移転に伴う既存の建物などの解体工事でも労災事故は起きているんじゃないかと思います。それも、リニアが来るから起きたことなんですよ。リニアに「意義がない」といっているように思われたらそれはそのとおりなんですが、リニアという走行方式は、上海で約20年も営業しているトランスラピッド方式(時速500km運転可能)と比較すれば「意義がある」とはいえないことは明らか(参考)。

 さて、労災事故を公表しなかったということについて、ケガと弁当は自分持ちという常識(今風にいえば自己責任)の中で暮らしてきたものとしては、新聞とかリニアに批判的な皆さんがJR東海が労災事故を公表しないことについて騒ぐことについて、正直いってあまりピントこないところがありました。「民間企業の事業なら公開非公開は企業の勝手だけれど、公金が投入され以上、 『労災は非公開』では通らない」という意見がありますね。

 しばし考えてみた結果、こういうことだろうと思うのです。労働環境を安全にすることは、労働者の人権にプラスであって、それは全ての国民(正確にいえば人民)にとって利益です。だから全ての人は、他の職場についても労働環境の安全に関心を持つべきだということで、だから、騒ぐんじゃないかと。

 だから、しかし、公金が投入された以上は、という説明は明らかに間違っていますね。『信毎』記事の中の桜井先生の指摘も、「企業の社会的責任として情報開示、人権、地域との対話が求められている」といっています。つまり、企業は「情報の開示」と「人権」を尊重すること「地域との対話」について「社会的責任」があるということであって、公的な資金が投入されたからなんていってないですね。考え方の基本はどこにあるのか、ときに、確かめてみることは必要だと思いました。