更新:2023/07/07

ウソも動画でいえば…(2)

あちら立てればこちらが立たぬ

 Youtube の「リニア中央新幹線チャンネル 【JR東海】」の "【大興奮】超電導博士・QuizKnock須貝がJR東海リニア開発本部長と夢の対談"(動画A)。

 JR東海のリニア開発本部長の寺井元昭さんと大学で超電導を勉強し博士号を持っている須貝駿貴さんの対談。掲載されたのが、2023年の3月31日。2022年度末です。

専門家同士の対談で印象操作?

 おなじ時期に、高温超電導磁石の実用化について、その「長期耐久性の検証」という課題について結論(評価)が2022年度末に出される予定だったのですが、3月10日の「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」で検討期間を2026年度まで延長するということがありました。

 動画の 12分10秒 から高温超伝導磁石の実用化についての話題になるんですが、画面の下に「この箇所には専門的な内容が含まれま」という字幕がでています。

 JR東海の寺尾さんが、液体ヘリウムがなくてできる技術が完成してはいるんですけれども。液体窒素でも超電導状態になる、ビスマス系、レアアース系の超伝導体を使って伝導率ゼロで使うのです。というと、須貝さんは驚いた様子で、「 高温超伝導体ってもう実用されているんだ。」といっています。寺井さんが「実用化になります、もうできるということです。」というと、須貝さんは「まじ、知らなかった。皆さんにすごさを伝えたいんですけれども伝えるのが難しい…」といってますね。

 超電導の専門的な知識がある須貝さんが驚いているんですから、JR東海の技術は素晴らしいものかなと思う人もいるかと思いますが、寺井さんは「実用化になります、もうできるということです」としかいっていませんね。なんか、ちょっと自信がないいいかたです。

 動画なんですから、2005年11月からやった走行試験の映像とか、現在行っている高温超電導磁石を使った走行試験の映像を流したっていいんじゃないかと思いますが、そういうものは使っていない。この動画はJR東海さんが製作した動画だと思うんですが…。

 さて、3月24日に「リニア中央新幹線チャンネル【JR東海】」にアップされた動画 "超電導リニアの技術"(動画B)。

 1分58秒から超電導磁石の説明が出てきます。2分24秒に「超電導状態の維持が大きな課題だった」と字幕がでて、液体ヘリウムや液体窒素をほぼ使い捨てにしていた状態から、「効率的にヘリウムと窒素を再液化できる冷凍機を開発」して「超電導コイルの冷却状態を維持し続けられるようになりました」と説明しています。続いて「さらに、現在、JR東海では、従来より高い温度でも超電導状態となる『高温超電導磁石を開発中』です」と説明し、それが実用化できれば、「マイナス255℃程度で超電導状態を維持できる素材を使用することで液体ヘリウムや液体窒素、それらを張り巡らせるための複雑な配管などが不要となり、コストの提言、メンテナンスの省力化、消費電力の低減が見込めます」といっているのですから、国交省の技術評価委員会が検証期間を3年延長した事実と考え合わせれば、最初に紹介した動画の中で、JR東海の開発部長さんが「実用化になります、もうできるということです」というコメント、それに対する須貝さんのオーバーな反応は、本当はそうじゃないけれど。高温超伝導磁石の実用化ができているという印象を抱かせる演出になっているといえるんじゃないかと思いますね。

地震に強い10㎝浮上???

 9分33秒付近で、リニアがガイドウェイの中でどんな風に走っているかについて、寺井さんは、1円玉くらいの範囲でしか動いていない、1㎝の範囲でしか中心がブレていないと説明します。まあ、10㎝の浮上量に対してという意味なんでしょうが、横方向については、実は約8㎝しか隙間はありません。さらに緊急用のステンレス製の車輪が常に4㎝ほど飛び出ているので、本当は左右の隙間は約4㎝程度なので、1㎝の範囲でのぶれというのは決して小さいものじゃないです。

 なお、鉄道総合技術研究所の『ここまで来た!超電導リニアモーターカー―もう夢ではない。時速500キロの超世界』(119ページ)によれば、カーブでは時速550㎞のとき外側に軌道の中心から約1㎝、時速150㎞のときには内側に同じく1.3㎝ほどぶれるとされます。

 トランスラピッドは浮上する量は全体でその1㎝なのに、ガイドウェイに触れることなく20年近く営業運転をしています。上海で。ということは、エレクトロニクスで1mmとか2㎜のブレの範囲で抑えることができるということでもあるわけです。

 トランスラピッドは従来の鉄道と同じように、車輪にあたる電磁石と、電磁石を取り付けた台車とを、バネとアブソーバーで車体に取り付けています。だから、10㎝浮くから1㎝より地震に強いとは簡単にいえるもんじゃないだろうと思いますね。

 軌道の材質も問題。超電導リニアのコンクリートの軌道と、トランスラピッドやリニモのような鉄のレールとでは変形のしかたが違うはず。印象操作しますが、地震や災害で、コンクリートはひび割れたり、橋なら落ちたりしますが、鉄道のレールだけが浮いてつながっているという映像は見かけます。そこまで壊れたら同じようなものでしょうが、外力を受けた時の変形の仕方が違うということもあるだろうと思います。

 専門家の中にも、浮上量の違いだけで優劣は判断できないという人はいます。

 そもそも、500㎞の高速の乗り物を日本のような地震の多い国で走らせようという考えがおかしいと思った方が良いでしょう。

回転式のモーターを広げてリニアモーター

 動画Bの59秒から回転式のモーターを開いたものがリニアモーターという説明。回転式のモーターは外側の磁極が10ありますね。内側の回転する部分は4つです。外側は5の倍数で内側は4なので内外の隙間の面で磁極同士がピッタリ揃うことはないはずです。

 モーターを切り広げた場面では回転側にあたる車両側と外側にあたる地上側の磁極同士がきちんと揃っています。これでは地上側のコイルのNとSを入れ替えても前進せずにその場で前後に振動するだけだと思います。

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(動画Bの4分33秒)この状態から動き始めるだろうか?

 で実物はどうなっているかというと、車体側の超電導磁石は5m40㎝の長さの中に4つの磁極(コイル)があるので1つの磁極は1m35㎝。ガイドウェイに埋め込まれた推進用コイルの幅は約90㎝です。磁極同士がピッタリ揃うわけじゃありません。まあ、細かいことですが、相手が素人で分からなければ、まあいいかというような、JR東海の説明にはテキトーな部分があるということです。

 私も素人です。小学校の理科で電磁石やモーターを習ったとき、外側の磁極が2個、内側の磁極が2個の2極モーターは、磁極同士が揃って停止している状態からは回転し始めないことぐらいは覚えていますよ。だから、簡単なものでも実用的なモーター(直流)では回転する側は磁極が3つになっていると。もちろん、それらは、直流モーターですが、磁極の数という点で、リニアは同期モーターなので同様のことがいえるはずです。

側壁浮上方式と空気抵抗

 浮上する仕組みについては、5分から。この説明を見ると、超電導磁石のついている台車部分はガイドウェイの内側にないと浮上(推進も)できない仕組みであることが分かります。

 ほとんど直線の高速走行時は問題ないと思うのですが、中間駅で分岐装置を通過する時に、台車の一番外側の面(ツラ)が車体の他の部分の一番外側の面(ツラ)と同じだと、車体の中間部分とガイドウェイが接触してしまいます。だから、台車部分が車体から飛び出しているんですが、ガイドウェイとの間の狭い隙間に台車が飛び出た状態で走るんですから、空気抵抗も大きくなるし、騒音も出る。高速で減らさないといけない空気抵抗が増えている。ドイツの技術者たちが指摘した超電導方式の欠点「特に低速度で顕著にみられるブレーキ作用で運転条件が不利となる」をなくすには必要な側壁浮上方式なんですが、「あちら立てればこちらが立たぬ」になっている。結局、筋の良くない技術なんだろうと思います。

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関連ページ

2023/07/16 参考

 「エアロトレイン」の研究者・小濱泰昭名誉教授は、「ガイドウェイとリニアの車体面はいずれも凸凹状態の上、両者間の間隔が10センチ程度と狭い。その間に存在する空気が、一方では500キロ近くで引っ張られ、もう一方は0キロで止められ、激しい乱流状態になって乱流騒音が発生してしまう。さらに空気は止まったり、急に動いたりを繰り返すので、巨大な空気抵抗を生む」といっています(『AERA』2014年10月10日 "リニア試乗体験「衝撃」ルポ 車内では何が…")。

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