更新:2023/07/13、補足 07/16

「静岡工区の議論に活かせることは?」

 『テレビ静岡』が "【リニア】静岡工区の議論に活かせることは?最難関の南アルプストンネル工事 長野工区の最前線へ"(7月11日)という記事をHPにのせています。Yahooニュースにも掲載されてます。

 このニュースのハイライトは次の部分かなと思います。:

静岡県で懸念されているトンネル工事による湧水の大量流出についてたずねてみると…。
JR東海・中央新幹線長野工事事務所
水上英也 分室長:
ご覧いただいている通り、それほど水は出ていない状況。
切羽(トンネルの断面)見ていただきましても、前から水が出ている状況はないと思います。
長野工区ではこれまでのところ、静岡県が懸念するような事態は起きていない。

 「ご覧いただいている通りそれほど水は出ていない状況」といったって、まず、水がダーッと切羽から出ているような場所やこれから出そうな場所に報道陣を案内することはまずあり得ない。

 こういうことはデータで示さないと、単なる印象操作であって、まともなマスコミはやっちゃいけないと思います。

 では、長野工区の掘削がどう行われているか。ニュースは長野工区の概略図を示しています。そのなかで除山非常口については、斜坑が約1870mです。どんなペースでこれまで掘削が行われてきたかを表にしました。

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除山斜坑の掘削ペース(※1)

 上の表の左端の年月日はだいたい3カ月おきになっています。それぞれの期間に掘削した距離を期間の日数で割って30をかけたのが右端の数字で、掘削のペースを示しています。速いときで70m程度、一番ペースが遅いのが20m台です。ゼロという時期も結構あります。ばらつきがありますが、50~60m前半までの数字が多く見られます。

 掘削の開始は、2017年11月1日でした。掘削の完了が2022年3月14日です。この期間の日数は1594日。トンネルの長さ1870mを1594日で割ると、1.173…で30をかけて1カ月あたりにしてみると、約35.2mです。除山の斜坑は平均で1カ月に約35.2m掘削できていたということです。

 2014年に公表された環境影響評価書資料編の工事計画の工事工程の表を見ると、除山非常口から静岡工区までを10年から11年で掘削しようと考えていたようです。10年とすれば、本坑部分が約5㎞(4940m)で、斜坑とあわせて約7㎞(6810m)なので、一月に約57mは掘削するという目論見だったように思えます。だから、上の表から見ると、「何もなければ」、最初の目論見以上に順調に掘削は進んでいたんだろうと思います。(※2)

 問題は「ゼロ」という期間に何があったかということ。少なくとも「ゼロ」の時期に切羽を報道関係者に公開することはなかったと思います。

 除山非常口からの工事が静岡工区に一番近い部分です。今年の1月の時点で工区の境まで約4.5㎞、県境までは3.8㎞の位置まで掘り進んでいたようですが、そういう情報について、このニュースは伝えていません。

 関連していえば、せっかく長野工区の概略図を示しているのに、映像の切羽がどこの位置なのか示していません。

 トンネル湧水は、多いのか少ないかは別として、トンネル湧水が外部に流れ続けていることは間違いないです。

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除山非常口の工事ヤードの排水

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釜沢非常口の工事ヤードの排水

 リニアトンネルの近くに釜沢集落があって簡易水道の水源がトンネル工事で水が減ることが心配されますが、最近、JR東海は、これから本坑を掘り進めるにあたって、水源から十分な水が供給できるような工事をしたいと説明したそうです。先進坑がすでにできた場所ですが本坑を掘ると影響が出るかも知れないと、JR東海は考えているわけです。

 JR東海がだした「令和4年度における環境調査の結果等について」(2023年5月)に除山非常口のトンネル湧水の様子を示すグラフがありました。また、大鹿村の降雨量のグラフもあったので紹介します。

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(拡大)

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(拡大)

 「トンネル湧水等」は掘削の始まった2017年の秋から始まっています。ところが「降雨量」のほうは「令和4年度」のみですから、参考になるデータじゃないと思います。

しかし、令和4年度(2022年度)は雨量のほうは年度の前半の方が多い傾向があるのに対して、「トンネル湧水等」は後半の方が多い傾向があるし、2017年からの全体としての「トンネル湧水等」の量は増えてきていることは明らかです。長尺ボーリングをしたからと弁明があります。長尺ボーリングをするためにトンネル外部から多量の水を入れたからなのかボーリングの穴から地下水が出て来たからのか、書いていませんから、出て来たのは地下水でしょう。

 飯田商工会議所会頭の原勉さんのコメントでもっとも重要な部分は:

土地の買収だとか、駅周辺の整備とか、順調に進んでいると私は見ています。ただ順調がゆえに、開業が遅れたらもっと大変なことになる。駅ができる、新幹線が通るということの中で、移転をした人たちは新しい生活に入っている人もいるわけなので。

 静岡だけじゃなく、長野県内でも遅れは目立ってきていますから、リニアは出来ないんじゃないかという雰囲気が「飯田の経済界」の中にも出始めたのではないでしょうか。

※1 「大鹿村リニア情報」や新聞報道に公表されたデータを基に作成。

※2 長野工区で掘削距離が一番長いのが除山非常口からの掘削です。この区間の掘削期間が長野工区全体の工事期間についての目安になるはずです。JR東海の金子社長が川勝知事との会談(2020年6月26日の動画)のなかで西俣非常口からの工事が距離が一番長い、その距離が6.5㎞だから、毎月100mのペースで掘れば5年5カ月でトンネルができて、ガイドウェイの設置や試運転の2年を足して静岡工区は7年5カ月で工事ができると説明したのと同じ論法です。


[ 補足 2023/07/16 ] フェースブックにこのニュースについてのコメントがあって、報道された切羽の位置がどこかということなどが推測されていました。

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 FNNの取材した切羽は、小渋川非常口から入って品川方向へ掘っている本坑(A)(坑口から1㎞+α)か、釜沢非斜坑接続部から品川方向へ掘っている本坑(B)(坑口から2.6㎞+α)のどちらかだと思いますが、(B)へ行くには先進坑を通らないといけないので、おそらく(A)ではないかと思います。車で10分(最長で3.3㎞以内)で着いたと書いていることも併せても(A)ではないかと思います。

 今、名古屋方面へは掘っていないはずです。

 南アトンネルの長野工区はすべて中央構造線より東側で、(A)の部分も南アルプスといって良い部分だと思います。コメントでは主稜線部分との間に谷があって、南アルプス本体といえないのではないかというような意味合いのことを指摘しているんですが、南アルプスの主稜線のある「本体」から主稜線と交差する方向にできた谷の両側を縫うように静岡方向に進むルートです(環境関連図(長野)01)。

 FNNが案内された切羽はおそらく(A)だと思います。上で触れたように簡易水道の対策を考えていることから、本坑を掘り進めている(A)と(B)の間で大量の湧水があるとJR東海は考えているようです。取材させるなら今のうちということかなと思います。

 除山の先の先進坑の先端は、静岡県境まであと3.8㎞程度かなと思います。そこが南アルプスの主稜線です。

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赤丸の部分に水が滲んでいる。

 SNSのコメントは触れていませんが、FNNの切羽の映像をよく見るとトンネル側面に黒っぽいシミが見えていると思います。水がにじみ出ているのだと思います。このコンクリートの面には防水シートを貼ってその上にさらにコンクリートで覆って完成するわけで、にじみ出て来た水は防水シートの向こう側をトンネルの下の方へ流れ、トンネルの床の部分の排水溝から外部に排水されるそうです(注)。つまり、映像で見ても水は「少しは出ている」ことは分かりますね。掘った直後は大量に出ていたのかも知れませんね。一般的に湧水は最初は大量に出ても時間がたつと水量は減るそうです。

注:大野春雄監修『トンネルなぜなぜおもしろ読本』(山海堂、2003年、p116~117)