更新:2023/10/24

夏休みの自由研究…テーマはリニア

以下は、高森町公民館の文化祭に展示した内容です。ほとんど文字ばかり、昔の高校生や中学生が文化祭で、調べたこと模造紙にマジックインクで書いて発表したようなもの、プリンタを使っているのでいくらか近代化してますが、夏休みの自由研究みたいな感じか、まあ、ほとんど誰も読まないだろうと思うかも知れませんが、これまで何年か続けてきて、中には熱心に全部読まれる方もいました。絵や写真や書道や生け花などに混じって、こういう展示は異様な感じで目立つことは明らかです。

 当サイトで、8月~9月に掲載したものをもとにしています。

 要点は、アメリカのリニア計画がアセスメント段階で没になりかけていることを、日本のマスコミは具体的に報道してこなかったよ、どうしてか? という点です。

 内容は、(1)の「アメリカ東部のリニア計画」は展示版ではA4で27ページで、ここで掲載したPDFは文字のポイントをさげた縮刷版(11ページ)です。

 (2)の「環境影響評価制度のちがい」では評価書案の一部を紹介しています。こちらは、図版があるので、HTMLにしました。

 (3)の「日本の民主主義の危機が、リニア中央新幹線の問題にも現れている」は、(1)の最後のほう(9~11ページ)で、日本のような政治のもとでないとリニアのような無茶な計画は実行に移せないのではと述べたあたりに関連して及川慶喜さんの「戦後70年目の鉄道   ──リニア中央新幹線と民主主義」の一部を紹介しました。PDF(現物大)です。


「環境影響評価制度のちがい」

 日本とアメリカの環境影響評価の大きな違いは、日本では事業をすることが決まってから環境影響評価をしますが、アメリカでは環境影響評価をしたあとで事業をするかどうかを決めます。だから、いくつかの計画案について環境影響を検討し、一番環境への影響の少ない案で事業を行うか、事業を中止するかを決めます。

 大井川の水資源問題や南アルプスの生態系への影響の問題について議論があって、他地域では工事が進んでいますが、静岡県で工事が着工できないままもう9年もすぎました。このままいけば、最近の社会情勢や経済状況の急激な変化から見ても、事業が中止になる可能性が非常に高く、廃線跡を建設しているようなもの。アメリカのように事業の決定の前に環境影響評価をしっかり行えば、ただ建設してみただけというムダは起きなかったはずです。

(A)環境影響評価書草稿の表紙

(B)環境影響評価の対象地域

(C)有色人種などのマイノリティーや社会的弱者(低所得層など)が、一方的に環境の悪化の被害を受けることがないかという視点での検討が行われている(「環境正義」)

(D)有色人種などのマイノリティーや社会的弱者(低所得層など)が、一方的に環境の悪化の被害を受けることがないかという視点での検討が行われている(「環境正義」)

 以下、 4つの図共通で車両基地の候補地が3つ(黄色)、ボルチモア駅の候補地のちがい、途中のルートのちがいで、合計12通りの建設する場合の選択肢と、プラス、「建設しない選択肢 no build option」がある。

(E)図3.4-1: 建設する案の J-01~J-03でバルチモア・ワシントン・パークウェイの東を通過して、チェリーヒル駅案

(F)図3.4-2: 建設する案の J-04~J-06でバルチモア・ワシントン・パークウェイの東を通過してカムデンヤード前駅案

(G)図3.4-3: 建設する案の J1-01~J1-03でバルチモア・ワシントン・パークウェイの西を通過してチェリーヒル駅案

(H)図3.4-4: 建設する案の J1-04~J1-06でバルチモア・ワシントン・パークウェイの西を通過してカムデンヤード前駅案

(A)~(H)は、"B-W SCMaglev Project Home Page"の"Draft Environmental Impact Statement (DEIS) and Draft Section 4(f) Evaluation"のView the full DEIS document(PDF:22.7MB)より。

(I)ボルチモア駅の想像図(ウエストポート付近の候補地)。リニアの事業者「BWRR」はこの土地の買収に失敗している。遠方に市中心部の駅候補地が見えている。

(J)「ボルチモア・ワシントン・マーシャル国際空港駅」。ワシントンとボルチモアの中間の駅はこの駅だけ。上が現状、下が想像図。

(I),(J) は、同じページの "Appendices" (資料編)の "Appendix D.6: Aesthetics, Visual Quality and Light Emissions(PDF:24.8 MB)"(景観についての部分の資料) より。

 下は、はじめに、2001年と2003年に連邦鉄道局が東部地区で採用する交通機関の技術としてトランスラピッド方式が適しているという結論を出したことについて書いています。続いて、赤枠部分は次のようにいっています。

image
(A)~(H)と同じPDFのページ「1-5」より

 「2001年と2003年の検討は、ドイツのトランスラピッド方式について考慮した。これは磁気浮上方式の初期の形であって、今回の環境影響評価書の草稿が対象にした日本の超電導方式とは異なる。日本の超電導リニア技術はより最新の技術であり、実用段階にあることは世界の複数の場所で実証されている。

 アメリカでは、これまでに、8つ浮上式鉄道の構想があって、7つがトランスラピッド方式、残りの1つはアメリカが「開発を試みた」超電導方式(※)。日本のJR方式が取り上げられたのは今回が最初。

※ この部分は、正確には、1980年代にラスベガスとロサンゼルスの間の高速鉄道計画でトランスラピッドが候補にあがったこと、評価書がいっている2001年~2003年の検討は、米国内で7つの構想があって、その中から2つに絞って磁気浮上方式が採用できる可能性について検討したということで、7つの候補のうちの一つだけがアメリカ独自の超電導方式(MAGLEV 2000)で、6つはトランスラピッドが候補として選択されていたようです。絞られた2つは、ペンシルバニア州内とワシントン・ボルチモア間で方式としてはトランスラピッドが選ばれました。(参考:『DenshaDex』 > "アメリカ北東回廊の超電導リニア計画とは?")
 トランスラピッドは、1980年代には、海外へ売り込みができるまで開発が進んでいたこと、構想だけで終わったとしても、国鉄/JR東海のリニアよりは実用的なものと評価されていたことは明らか。

 1990年代には実用段階にあったトランスラピッドを含む常電導方式は東アジアで5つの営業路線がありますが、1970年に開発を開始した超電導リニアはいまだに実験線の段階なのに、「実用段階にあることは世界の複数の場所で実証されている」と説明しても、素晴らしい技術という説得力はないでしょう。

 技術的な資料はJR東海から提供を受けているはずで、この部分は評価書の公平性に疑問を感じます。

2023/10/25 以下、意味不明だったので、差し替えました。

 こんな見方もできるかも。

 安倍さんはニューヨーク証券取引所で「世界中から引き合いが」あるリニアといいました。実はウソだったんですが。アメリカへも輸出する優れた技術、という意味で、アメリカへの輸出騒ぎは日本国内向けの宣伝。大統領や運輸長官は説得できたようにみえても、じつは軽くあしらわれただけで、そのほかの政府機関や自治体は、思うようにはうごかない。

 だから、アメリカで上手くいっていない具体的な、複数自治体の建設反対や、環境影響評価の手続きの停止や、用地取得の失敗など不都合な事件についてのニュースは日本国内で報道されては困るわけです。大本営発表と同じです。

 アメリカで実現できないリニアは、実は最大の同盟国にも相手にされない技術だった。

※ 「アメリカ売り込みは日本人むけのPR」という見方は、MediumSam Holdenさんのページ「リニアをアメリカに売り込む本当の理由とは?」を見てください。2015年の11月に書かれたページですが、大変に参考になりました。

[ 差し替え前 ]  こんな見方もできるかも。日本で開業できていないから輸出できない。海外に、輸出するためにもリニア中央新幹線を早く開業させなければ。とすれば、アメリカへの輸出騒ぎは日本国内向けの宣伝。だから、複数自治体の建設反対や、環境影響評価の手続きの停止や、用地取得の失敗など不都合なニュースは日本国内で報道されなかった大本営発表と同じです。アメリカで実現できないリニアは「最大の同盟国にも相手にされない技術」といえないでしょうか。