更新:2025/05/03

「ひじき」は「うまい」か「まずい」か

 ヒ素やほう素など重金属類を基準値以上含むトンネル残土の活用、JR東海は「要対策土」といってますが、有害残土ですね、これを、建設資材として、JR東海のリニアの工事で使いたいとか、公共事業で使ってもらいたいと、JR東海はいってます。これまで、このことについて、大鹿村と、飯田市では座光寺地区と上郷地区で住民説明会を行いました。その中で、JR東海は、「自然由来の重金属」っていうのはヒ素とかほう素のことですが、「自然由来の重金属」は「自然界に存在するものであり、地殻や食品、温泉水等にも含まれているものです」、「『ひじき』にはヒ素やほう素が含まれています」と説明していました。

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(令和6年2月28日 丹保・北条地区 リニア関連事業に関する丹保・北条地区説明会資料1 リニア中央新幹線事業に関する説明会 (PDFファイル/47.99MB) のp13・14)()

 「ひじき」や温泉水に含まれる量は1.8~110mgなのに、基準値は、ヒ素は0.01mg以下、ほう素は1mg以下とずっときびしいから、建設資材として使っても安全で問題ないと言いたかったのでしょう。この説明は中間駅の一部になる土曽川橋りょうのケーソン基礎の内部の空洞に要対策土詰める計画の話です。

 JR東海がだした環境保全計画に対する長野県の助言が1月27日に公表されました。2ページ目の下のほう「その他」で「ク 橋脚基礎部において要対策土を使用するに至った経緯、使用する要対策土に含まれる物質の種類や濃度、及び要対策土の運搬車両の運行計画台数を環境保全計画書に追記すること。」と、また「コ 当助言を踏まえた環境保全計画書の変更部分をはじめ、新たに見直した計画や対策の内容について、飯田市及び地域住民に丁寧に説明すること。」書いてあります。「物質の種類」について環境保全計画書に書いて、住民にも説明しなさいよと書いている。

 環境保全計画書には、p58とp59にそれぞれ1カ所ずつ「ヒ素」という文字は見えます。が、さて、これで「物質の種類」を示したといえるのか。

 4月23日の説明会で、要対策土に含まれている「ヒ素」はどういう「化合物」として含まれているかと質問をしてみました。回答した課長は、元素ごとの基準値について説明するだけで、化合物の名前を説明しませんでした。

 何が問題なのかというと、「ひじき」などの海藻類に含まれるヒ素は「有機ヒ素」で、数種の本を調べましたが、「有機ヒ素」では中毒は起こさないと書いています。それに比べ「無機ヒ素」は有毒だと。

 たとえば、『元素118の新知識 第2版』(講談社ブルーバックス、2023年7月、p192~)では、「ひじき」に含まれるヒ素は有機ヒ素で人が食べてもすぐに尿の中に出てしまう。海藻類に含まれる有機ヒ素は影響がなく、毒性があるのは無機ヒ素と。

 『ハンディー版 環境用語辞典』(共立出版、2000年6月、p237)では、海水には無機ヒ素が含まれるが、海産生物には異常に高い有機ヒ素化合物が含まれるのに中毒を起こさないのは、このような有機ヒ素化合物には毒性がないことが明らかと。

 『廃棄物処分・環境安全用語辞典』(丸善、2000年2月、p331)では、ヒ素には+3価と+5価の化合物をつくりとか、+3価のAs2O3は猛毒であるとか、ヒ素化合物をセメント固化すると再溶出するおそれがあるなどと。

 『図解 土壌・地下水汚染 用語事典』(平田健正・今村聡監修、オーム社、2009年、p131)は、「…一般に地下水または土壌溶出液中に存在する砒素はほぼ砒酸イオンと亜砒酸イオンで、有機砒素はわずかである。自然界の砒素の毒性は砒酸、亜砒酸、有機砒素の順で小さくなる。例えば、海藻に蓄積されるメチル砒素の毒性は無機砒素に比較してかなり低い…」と。

 『元素大百科事典 新装版』(渡辺正監訳、朝倉書店、2014年、p555)では、「地下水が含むヒ素のほとんどは、風化した岩石や土壌から溶け出したもの。一部のがんは水のヒ素が原因だった。米国環境保護局(EPA)は2001年、飲み水のヒ素基準値を50μgL-1から10μgL-1に引き下げた」と。

 『環境科学辞典』(編集・荒木峻ほか、東京化学同人、1998(1985初版)、p663-664)。「地殻や水質中に存在するヒ素は無機の5価ヒ素が大部分である。無機ヒ素では3価は5価よりも毒性が強く、…」と。

 つまり、トンネル残土に含まれるヒ素はほとんどが無機化合物なのだろうと思いますから、中毒を起こさないとか起こす可能性が極めて低い有機ヒ素を含む「ひじき」を、住民の安心感を誘うために、説明に持ち出すのは不適切じゃないかと思います。

 住民に対する説明会では「ひじき」を持ち出してきたのに、環境の専門家を委員とする長野県環境影響技術委員会の説明では「ひじき」の話を持ち出していないのは、なぜだか考えて見た方がよさそうです。

 JR東海は、工事の認可にあたって、国交大臣から住民に丁寧に説明して理解を得るようにといわれていたと思います。こういう説明の仕方が丁寧といえるのかどうか、かえって、なんかウソついてんじゃないのといえるようなことじゃないかと。

 こういったごまかしをする会社が安全な乗り物をつくることが出来るとは思いませんね。東海道新幹線というのは、JR東海は安全を自慢にしてますが、JR東海がつくったわけじゃなくて、基本的な部分は「国鉄」がつくったはずです。

※ 「ひじき」に含まれるヒ素やほう素について「乾燥時の濃度」で示していますが、住民を煙に巻くつもりなのだから、「ひじきの五目煮」に含まれる数値を示した方が良かったのではないかと…。

なお、内閣府の食品安全委員会のサイトにQ&A詳細:ヒジキに含有されている無機ヒ素についてというページがあります。「ヒジキには、無機ヒ素が他の食品に比べ高濃度で含まれていることが文献などで報告されていますが、…」という説明があります。上で紹介した『元素118の新知識 第2版』(講談社ブルーバックス、2023年7月、p192~)は「海産物のヒ素の化学形は無機形であることは少なく、アルセノベタイン(海産動物)、メチルアルソン酸とジメチルアルシン(海産植物)などの有機ヒ素化合物であり…」としています。いずれにしても、科学者や政府がいっていることは、「ひじき」は食べても大丈夫ということで、そういう大丈夫なものと、危険な地中から掘り出した無機ヒ素を比べて、有害なものを無害と印象付けるのは、一般常識としてやってはいけないことでしょう。

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