更新:2025/05/06
環境行政に手を突っ込んだ長野県建設部
4月23日から26日に行われた、JR東海の土曽川橋りょう工事についての住民説明会について、もう一つ。
これまでのいきさつは、JR東海が土曽川橋りょう工事について、要対策土を工事活用する変更について、環境保全計画を去年の9月13日に更新しました(*1)。この更新した環境保全計画について、長野県環境影響評価技術委員会(以下、技術委員会)は去年の9月27日と11月14日の2回審議をしました(*2)。技術委員会の審議と一般から募集した意見を参考に長野県は今年1月27日に「助言」をJR東海に送付しました。
*1 環境保全計画 = 中央新幹線長野県駅(仮称)新設工事における環境保全について(令和4年10月)
*2 令和6年度技術委員会。表紙の右肩に「令和6年9月13日 更新」、「令和7年3月26日 差替」とありますが、工事の進み具合にあわせて保全計画を「小出し」に出していくというやり方です。駅全体について、2014年に公表された環境影響評価で扱っていません。具体的な形が分かっていないのに周囲の環境への影響が評価できるはずはないのに、国交省が工事を認可したのは不当なものです。
「助言」は土曽川橋りょう工事についての部分の一番はじめに次のようにいっています。
Ⅱ土曽川橋りょう橋脚での要対策土の使用
事業者が、 実行可能な範囲内でできる限り環境への影響を回避・低減するという環境影響評価のベスト追求型の視点に立てば、土曽川橋りょう周辺は、住居が多く存在し、地下水位が高く水利用もあることを踏まえ、本来は、当初計画どおり現地発生土の使用が好ましいと考えられる。その上で、要対策土の使用に当たっては、環境保全計画書に記載している内容に加え、以下アからサに記載の対策を講じること。
この部分を、要対策土の活用を「容認した」ものととるか、環境重視の観点にたって活用を止めるべきととるかということが意見が別れるところだろうと思います。
長野県は「助言」を送付したことをホームページで公表しました。当時のページは削除されていますが、web.archive.org のページにキャッシュ(コピー)が残っていました。ページには4つのリンクがあって、1つは、JR東海のホームページにある環境保全計画。2つ目は「県の助言」で「別添(PDF:203KB)」。「関係資料」として「プレスリリース資料(PDF:423KB)」と「別添(PDF:203KB)」です。「別添(PDF:203KB)」はファイル名は違いますが同じ内容(=助言)です。
関係資料のうち「プレスリリース資料(PDF:423KB)」が問題。
1ページ目に「県の助言の内容」というところに「別添のとおり」としているんですが、このファイルのどこにあるのか?。変でしょ。
で、2ページ目は右肩に「別添」じゃなくて「別紙」と書いてあって、「助言の概要」という枠で囲ったところがある。さらに「助言のポイント」という部分もある。「助言」は冒頭で、環境への影響を回避・低減する気持ちがあるなら要対策土を使わずに現地で出てくる残土を使うのが好ましいといっているんですが、この重要な部分について、この「別紙」は何も触れていません。
そして、「助言」のポイントで、「橋脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられていることを県においてもチェックしています。」と書いています。「助言」は、橋脚基礎部からヒ素が漏れることを前提に、水質調査の方法であるとか、漏れた場合の破損個所の修復とかヒ素などの除去についてもあらかじめ検討しておくことなど求めていますから、技術委員会は「橋脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられている」とは考えていないはずです。
環境行政に手を突っ込んだ長野県建設部
「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」が、だれがこんなこといったんですかと、長野県環境部環境政策課の担当者に質問したら、長野県の建設部リニア推進整備局とのことでした。改めて県に文書公開請求(2月17日)をしました。公開されのはこれですが、いつ出されたものなのか、提出にいたった経緯のわかる記載がまったくありません。右上の手書きの日付は私が「住民の会」からコピーをもらった日付です。それはそれとして内容は:
JR東海から提示された土曽川橋梁の構造計算書をチェックしたところ、橋脚基礎部はレベル2地震動(建設時点で考えられる最大級の強さを持つ地震動)を受けても降伏しない構造である。
土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドラインにおける対策工法と比較し、構造的には十二分な対策であることを確認した。
環境の見地からの助言ですから、リニア整備推進局がでしゃばる場面ではないでしょう。
1月28日には『信濃毎日』、29日には『南信州』が、「『助言』の送付」について記事を掲載しました。両紙は「助言」について、それぞれ、次のように書いています。①、②はわたしが付けました。
『信濃毎日』1月28日
助言は、保全計画を審議した県環境影響評価技術委員会の議論や飯田市と住民の意見を基にまとめた。…
技術委や住民が示した、要対策土を外部から市街地に持ち込むことへの懸念に関し①「本来は現地発生土の使用が好ましい」とした一方、橋脚基礎部に関して②「設計図などから構造的に十二分な対策が取られていることを確認した」ともした。…
『南信州』1月29日
…県は27日、JR東海が示した環境保全計画に対する「助言」を同社に通知した…
要対策土について①「本来は当初計画通り、現地発生土の使用が好ましいと考えられる」としながらも、橋脚基礎部に関して②「構造的に十二分な対策が取られていることをチェックしている」とした。…
どちらを読んでも、①、②の部分が両方とも「助言」に書いてあると誤解するんじゃないかと思います。①は「助言」に書いてありますが、②は「プレスリリース資料」の「別紙」に書いてあることで、技術委員会の見解とは逆のものであって、実は、リニア整備推進局の意見です。
そこで、4月23日からの説明会で、JR東海はどう説明していたか?
・長野県駅(仮称)工区については、昨年7月に高架橋・橋 りょう等の工事説明会を開催し、同年9月に環境保全の計画を長野県等へ送付しました。その計画について、本年1月27日に長野県より助言を受領しました。
・要対策土活用上、「橋脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられていること」を長野県にもご確認いただきました。その上で助言には、要対策土の飛散・流出対策の徹底や、ヒ素が溶出していないことを確実に把握するための水質調査の実施について記載されています。
・ 当社はこれを受け、地域の皆様にご安心頂けるよう、活用計画を精査し、より具体化した内容としてきました。
本日は、その内容についてご説明させていただきます
新聞報道では、「助言」は、本来は現地で出てくる土砂を使うべき①としながらも、橋脚基礎部には構造的に十二分な対策が取られている②としていたのですが、JR東海は、構造的に十二分な対策が散られてることを長野県が確認済みだけれど、「ヒ素が溶出していないことを確実に把握するための水質調査の実施について記載されています」としています。
「不都合は起こらない」と考えるか「必ず不都合は起きる」と考えるか
「助言」では、溶出したか、溶出していないか確認するために水質調査などしなさいとしているわけで、技術委員会も助言も溶出するものと考えて、溶出が確認出来たらすぐ対策をとるべきだという立場です。JR東海は「溶出していないことを確実に把握するため水質調査の実施」と解釈しちゃっています。これはまったくちがう。「溶出していないことを確実に把握する」ために、調査の報告を改ざんする可能性だってあるってことじゃないでしょうか。考えかたの問題です。
私たちの「めんどうくさい」という気持ちに付け入る考え方だと思いますね。
JR東海は漏れ出さないものとして、テキトーに調査すればよいという考えです。だから、この説明会で、担当者は、飯田市との協定について、保全計画を出したのだから、これ以上の協定など必要はないと発言していました。飯田市も飯田市長も協定を文書化して結ぶといっているんですが、JR東海の内部で意志統一がないのか、JR東海は協定を結ぶ気持ちがないのか、どちらか?
長野県は、環境の見地から行う「助言」の場面で、リニア建設推進の立場の建設部リニア整備推進局の見解を、あたかも環境の見地からの「助言」の一部であるかのように、県民に見せかけようとして、JR東海はちゃんとそれを利用して住民に説明をしている。これは、県の環境行政として非常にマズイことだと思います。
JR東海の不都合なことは起こらないという考えは、リニア新幹線が大量輸送機関であることを考えると、大丈夫かなという気持ちになりますね。
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