更新:2025/06/11、2025/06/12 補足

リニア試験車両の出火原因は「振動」と「誘導集電システム」

 ニュース報道によると、5月21日に山梨実験線の車両基地でリニアの試験車両で出火する事故がありました。JR東海がその原因を公表しました。

 記事からまとめると:

(1)「点検前に超電導磁石の磁力を落とすために電源装置のスイッチを切って回路を切り替えた」(『朝日』)

(2)5両編成の先頭または最後尾(5号車)の「台車に4基ある超電導磁石」(『朝日』※)の1基の計測線(直径1mm)が絶縁不良のため車体に接地した結果、電源装置に高電圧がかかって短絡して出火。

※ 実際には1つの台車に超電導磁石は片側4個で両側合計で8個。

(3) 『山梨 NEWS WEB』の図解によれば、出火した「電源装置」は車載のバッテリーと超電導磁石のおそらく冷凍機との間に描いてある。

(4)「超電導磁石内に計測線は数十本」(『朝日』)ありその1本の被覆が振動で擦れて絶縁不良を起こした。

(5)接地したのは「計測線を完全に固定する改良」(『朝日』)を順次進めていたうちの最後のひとつ。

(6)『産経』によれば「出火の原因となった計測用ケーブルは、営業運転となった場合には使用しない走行試験用の電圧や温度などの計測に利用するためのもの。」とJR東海は説明したようですが、『朝日』と『山梨 NEWS WEB』はそのことを書いていない。

 超電導磁石に取り付けてあった計測線の絶縁被覆が振動で擦れるなどして絶縁不良となったのがきっかけのようですが、営業運転の時は使わない測定機器の回路の一部が車体に接地しただけで、営業運転でも使うはずの電源装置に高電圧がかかるという電気回路もなんだか不思議な仕様だと思いますね。

 絶縁不良の原因は超電導磁石の振動のようですが、ああそうですかと、簡単に片付けれる問題じゃなく、超電導リニアの仕組みそのものが、もともと振動の問題を抱えています。

 ガイドウェイに約45㎝ごとに規則正しく並んだ浮上用コイルと車体の超電導磁石が反応して浮上走行をするので、規則正しい凸凹道を走るのと同じようなもので、超電導磁石は常に振動をしています。そんな部分に取り付ける計測線について最初からしっかりと固定するとか、振動対策をしていなかったことは、ちょっと驚きですね。

 対策は出来るんだろうとは思いますが、超電導磁石を使った誘導反発磁気浮上方式では、浮上用コイルが超電導磁石に与える振動を完全になくすことはできないだろうと思います。

関連ページ:リニアのレールの継ぎ目

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(『山梨 NEWS WEB』の図解とは別物です)

 『山梨 NEWS WEB』の図解では、出火した「電源装置」はバッテリーと超電導磁石の中間にあるのですが、「電源装置」というのは、ようやく5年ぐらい前から始めた「ワイヤレス給電(誘導集電)」の中核的な装置じゃないかと思います。こんな状況で、2027年開業なんて、つい最近までいっていたのですから驚きます。

参考:tetsudo.com > スマホと同様のしくみで給電、山梨リニア実験線の新型リニアモーターカー(2020年10月20日)

「地絡」ってコトバ

 『産経』と『信毎』は:

「(計測ケーブルの)被覆の樹脂がはがれて絶縁不良が起き、電気回路から電流が地面に漏電する地絡が起きたことによって出火…点検作業自体に人的ミスはなかった。」
「計測ケーブルの被覆に損傷があり、地面に電流が流れる『地絡』と呼ばれる現象が起きたことが原因…地絡が発生し、車体などを通じて高電圧が電源装置にかかった結果、装置内でショートが発生し、装置とバッテリーの接続部付近から出火…『…点検作業時の安全確保に務めていく』」(『信毎』)

 まず点検作業で人的ミスがあったのかなかったのかはっきりしていないですね。試験段階だとしても、人的ミスがあっても問題が起きないような工夫が必要じゃないかと思いますが…

 高電圧がかかってショートしたっていわれても、電気に詳しくない人は、ショートってのは接触してはいけない電線同士が接触して電流が流れることと思うはず。わたしも何で高い電圧がかかっただけでショートしたのかなと思いました。たぶん、装置内の回路が高い電圧に対応していないのでどこかで放電現象が起きたのかなと…

 それから「地絡」という言葉は一般的とはいえない言葉なんですから、言葉の上だけで「地面に電流が流れる『地絡』と呼ばれる現象」と説明されても理解はできないと思いますね。だってリニアは車庫ではゴムタイヤが出ているので、鉄の車輪と鉄のレールの従来の鉄道とは違って地面と電気的につながっているとは考えにくい(*)じゃないですか。『地絡』というコトバはJR東海が使ったのでしょうが、記事で使っているのは、『信毎』と『産経』だけです。意外にも『中日』の記事は、計測ケーブルが振動で損傷して異常な電流が流れたことが原因と非常に簡単に書いています。

* 冬季に自動車の乗降りで静電気を感じるのは体のほうが帯電しているからで、車体の金属部分と触れると放電するからといわれています。タイヤのゴムに含まれる炭素の微粒子によってタイヤは電気を流すようです。実際にテスターで測ってみると200キロオーム(KΩ)程度を示しますね。タイヤの溝にテスト棒を差し込んで測ったもので、テスト棒の間隔は約15㎝程度と、雑なデータです。銅線ほどではないけれど電気は流れるはずです。

 それから、疑問な点は、『朝日』が書いている、「電源装置のスイッチを切って回路を切り替えた際」という部分。車体内部のバッテリーは走っている時は充電されるんですが、停車した時は充電できない。たぶん、車庫に帰ると、バッテーリーを充電するために外部の電源(*)につなぐのではと思います。「地絡」なんてコトバが出てくるのはその辺に関係があるんじゃないと…

* 外部の電源はきちんとアースしているはずです。だから、電源の切り替えで地面との間に回路ができるのかも知れません。

 報道各社は、もう少し電気回路やリニアのメカニズムについて知識のある記者が取材して、誰にも分かりやすい記事を書いてくれるとよいのですが。または、「問題がある」と指摘すべきだと思います。

 ただね、素人でも分からないなりに、自分の知識を総動員して何が分からないのか考えることは大事で、そこらがはっきりしないなら納得しないことが大切だと思います。この事故だって、小中学校の理科の範囲で考えてもJR東海や報道の説明には何か納得できない感じがありますね。

 JR東海がこの件については、ニュースリリースに載せていないということもなにか変じゃないでしょうか、飯田線などで車掌さんが乗務中に私的な写真を撮影してSNSに投稿したという件については載せているのにね…。専門知識のある人が読めば、発表の内容が変だと思うからなのかも知れません。だから専門知識を持っている記者さんが取材して記事を書いて欲しいですね。

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