不適切な記述があったので書き直しました。不適切な記述のある旧版は こちら

リニア、長野県の景観予測写真の怪しさ

 8月26日に公表されたJR東海のリニアアセスの最終版の評価書の長野県分の景観予測のフォトモンタージュについて調べてみました。

 他の地域ではフォトモンタージュの撮影に使用したカメラやレンズなどのデータが4月23日に出された最初の評価書で記載されていました。長野県分は記載が無かったのですが、今回やっと記載されました。使用カメラは Nikon D200、レンズ焦点距離は22mm、35mmフィルム換算焦点距離が35mm。このデータはすべての写真について共通になっています。すべての写真は35mmレンズで撮影されたということです。

 ニコン D200 というカメラの撮像素子のサイズは 15.8mm×23.6mm です(ニコンサイトの仕様書)。縦横の比率は、23.6÷15.8=1.49、大体 2:3 です。レンズの焦点距離を35mmフィルム換算する場合にかける数値は 1.5 です(取り扱い説明書のp279)。

 長野県分の評価書最終版で気づいた点をあげると:

 (4)の一律に縦横の比率が変更された理由について考えてみました。

 東京、神奈川、静岡(※)、山梨の一部、愛知では、準備書、評価書、評価書の補正版のいずれも景観予測のフォトモンタージュの画像の縦横の比率は撮像素子の比率と同じです(参考)。撮影した画像の周囲を切り取らずに(トリミングせずに)使っていると予想できます。ニコン D200 を使用したとすれば、長野の場合は本来なら 1:1.5 (2:3)程度になるはずです。

※ 静岡は残土の置場についての景観の予測で、準備書にはフォトモンタージュはありません。評価書と補正版評価書の資料編にのっています。岐阜はすべてがパノラマ写真です。(補足 2014/09/17)

ニコンD200 の画面縦横比は 2:3、準備書の画像は 3:4

 しかし準備書では、縦横の比率は、1:1.33 (2.26:3)でした。ニコン D200 を使用したとすれば、この場合はすくなくとも左右の端からいくらかの部分を切り取ったはずです。当然、画角は35mmレンズより狭くなるはずです。

 さて、ニコン D200 のようなデジタル一眼レフではなくて、コンパクトデジタルカメラは、撮像素子の縦横比は 3:4 というものが多いようです。フォーサーズ、マイクロフォーサーズという規格のデジタルカメラも 3:4 です(※)。他地域のようにトリミングしなかったとすれば、撮像素子の縦横比が 3:4 のカメラを使用したと考えると準備書については納得がいきます。

※ 参考:アスペクト比とは。縦横の比率と書いてしまったので私のこのページではアスペクト比とは数字の順序が逆になっています。コンパクトデジタルでは、たとえばCanon PowerShot A1200Nikon Coolpix L30などは「おもな仕様」の記録画素数をみると 3:4 です。

 どうしてこうなったのか?

 実は長野県の環境影響評価技術委員会で委員からより現実に近い視角に近くなるよう大きなサイズの写真を提示するように求められて、JR東海は委員会に大きなサイズの写真を示しています。その写真のサイズは、補正版の評価書で測ってみると 254mm×365mm でした。比率は 1:1.437 です。この機会に本編のすべての予測地点の写真も比率を 1:1.437 に統一した。しかし、評価書にカメラのデータを付け加えるべきことに気づかなかった。評価書を出したあと他地域の評価書を見ると撮影データが記載されていた。補正版では撮影したカメラについて記載しようと思ったが記録がなかった。画像の比率が 1:1.437 で 2:2.874 と 2:3 にちかいので、使った可能性のあるカメラの中から ニコン D200 のセンサーサイズが 2:3 だったので、ニコン D200 を使用カメラとして記載した。こんなシナリオはどうでしょうか。「忘れっぽい」JR東海さんに好意的な解釈に訂正しました。でも、JR東海さんのやりかたは杜撰すぎますね。

 画角がまちまちなことについて、ヒントになるのは、風越公園(妙琴原)の写真です(参考)。この写真は資料編のなかで「松川橋梁」というタイトルで掲載されています。撮影時間に数分以内の時間差がありますがほとんど同じ写真です。おそらく同じ位置から三脚に据えたカメラのレンズの焦点距離をかえて撮影していると思います。画角については「松川橋梁」が約65度、「風越公園」が約51度(35mmなら54度になるはず)です。つまり、というほどでもないのですが、ズームレンズを使っているわけです。おそらく、広角側が 35mm判換算で28mmで望遠側が90mm程度のズームレンズだろうと思います(たとえば AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR 、35mm判換算:27mm-82.5mmレンズの画角に相当、焦点距離目盛=18、24、35、45、55mm)。ズームレンズは焦点距離は広角側の端と望遠側の端以外の中間の距離は正確にセットできません。デジタル画像は撮影時の実際の焦点距離が記録できる(Exifデータ)とはいっても撮影前に特定の焦点距離、たとえば22mmにセットするのは簡単ではありません。ちょっとしたアナログ的なテクニックが必要です。長野県分の撮影者がそういうテクニックを知らなかった可能性があります。後で Exif データを調べてみると公表するのが恥ずかしいくらいに焦点距離がバラバラだった。これも杜撰、お粗末。

 結論として言えるのは、ともかく長野県分の景観予測のフォトモンタージュはきちんとした手順(作成過程の記録を保存するなど)で作られなかったという疑いを持たざるを得ないおかしな点をもっているといえます。他地域のものは(※)そういう疑いを差し挟む隙がありません。とはいってもそれは、ズームレンズのズームリングを固定する工夫をし、きちんと記録をとりながら撮影し、デジタルカメラの画像をそのまま何も加工せずに使っただけのことなのです。それにしても長野県分のフォトモンタージュは不思議です。不明朗であるし、オープンとはいえません。杜撰すぎてマヌケです。環境アセスメントのプロの仕事とは思えません。

※ 山梨県で約半分の予測地点でパノラマ写真を画角を明示せず使っていること。岐阜県ですべての予測値点でパノラマ写真を画角を明示せずに使っていること。パノラマの採用の適否などの問題はこれとは意味合いが違うと思います。

 明らかに目にみえる杜撰さを姑息な方法で修整して平然としている企業体質は問題だと思います。

(2014/09/25)