トンネル用地の区分地上権について

 JR東海はトネンル部分について土かぶり(トンネルの上から地上までの深さ)が5mまでは土地を買い取り、5〜30mについては地上権を設定するといっています。地下にトンネルを通す場合は深さに関わらず区分地上権の設定の契約を土地の所有者と結ばなくてはなりません。5〜30mというのは補償をする範囲(JRとしてお金を払うつもりがある範囲?という意味で法定ではない)という意味だろうと思います。東京での大深度利用についてさえ40m以下となっているのですから、伊那谷で30mより深ければ黙ってトンネルを掘ってよいということはありえません。もちろん契約を拒否すれば土地収用の対象になりますが、土地所有者にはノーという権利があります。

用地取得への自治体職員の協力は本当に妥当といえるのか

(ここまで、最終更新 2014年2月頃)


30m以下は区分地上権を設定しない

じゃーどうするの

(補足 2014/12/07)

 (2014年)11月にあった事業説明会の中でJR東海がどういう説明をしたか要点(要旨)を以下にしめます。

(JR東海が冒頭の事業説明のなかでいっていること) JR東海側の説明のうち、区分地上権の設定に関する部分
(住民の質問)トンネル上部の土地について、区分地上権の設定の範囲は5〜30mとするというが、またどこかの会場で説明があったが、既存の井戸がある場合は個別に話をするということだった。土地の所有権というのは基本的に地下何メートルという制限は法律上はないはず、民法上は。30mという数字の出てきた根拠はなにか。以前聞いたら山梨実験線の実績だといっていたが、土木的な理由があるはずなのでそれを聞かせてほしい。30mより深い場所で区分地上権を設定しないとすると、地主に対して承諾をとるとかの手続きをとると思うがどういう形でするのか。トンネルの保全を考えると、土かぶり1400mもある山の中は別としても、宅地だとか農地、普通に人が住んでいるところの場合は深さに関係なく区分地上権を設定して土地の使用の制限を加えたほうが良いと思うが考えは。
(JR東海の環境保全事務所長の回答) 30mより深いところに区分地上権を設定しないのかという質問だが、区分地上権を設定したときには補償するが、その補償は国の基準に従ってやる。国の基準は、土地の利用が妨げられる程度に応じて適正に定められた割合に応じて補償するとなっている。30mより浅いところについてはこの補償に基づいて補償がなされる。これは整備新幹線の事例でそのようにしている。それより深い範囲は土地の利用の妨げにならない範囲なので特段区分地上権を設定することは考えていない。トンネルを掘削する場合、30mより深いところについては、本日の説明会のような場で理解が得られるように説明していきたいと考えている。トンネルの工事について個別不明な点があれば、問い合せがあれば対応したいと思っている。

 上の2つ目のページによれば、2013年10月当時はJR東海は「区分地上権がどれぐらいになるかは、用地説明会の中で明らかにする」といっていたようですから、「設定しない」とはっきりいったことは進歩(?)だと思います。

これは民法の立場からいえば非常におかしなことであって、用地としてJR東海が取得する5m未満の場所以外のすべての深さについて、JR東海と地権者が共に話し合って契約を結ぶべきものだと思います。他人の所有地の地下を利用して構造物を作るには区分地上権を設定しなくてはならないことは当たり前なのです。

原理原則ならいつでも同じ説明ができるはず

これは原理原則ですから、準備書の説明会でも事業説明会でも用地説明会でも同じ説明ができるはずです。時期によって説明内容が異なるというのは公正な態度とはいえません。補償とか地代を払うという問題が発生しますが、それはその土地の価値が下がるのですから当然の話です。30m以下は「土地の利用の妨げにならない範囲」だからとJR東海はいっていますが、井戸などは30mより深いものはあるし、既存の井戸については個別に話をするにしても(多分井戸を止めてもらうということ)、これから井戸を掘ろうとする人もいるはずですからトンネルの保全、運行の安全のためにも区分地上権を設定する義務がJR東海にはあるはずです。JR東海に何らかの意図(補償や地代を減らしコストを削減するため地権者の権利を侵害する)があると受け取られても仕方ないと思います。法律的な知識のあるJR東海が、一般的にいえば法律的な知識に乏しい住民(地権者)に対してこういう説明をするのはまったく不当なことだと思います。聞くところによれば、山梨実験線のある笛吹市では市職員が用地交渉の斡旋の中で住民に30mより深い場所に土地の所有権は及ばないと説明したようです。

県と自治体の議員はしっかりしてね

今のところでは、飯田市の範囲は飯田市職員、他の自治体は県職員が用地交渉をすることになりそうです(※)。飯田市当局、長野県は地主さんの権利、JR東海と対等の立場で区分地上権の設定の契約を結ぶ権利があることを全住民にたいしてはっきり宣言する必要があると思います。関係自治体の議員さんと県議会の議員さんもこれを確認することを要求し、適切に行われるか監視する必要があると思います。県や自治体には住民を守る義務があるという点から、トンネル用地の区分地上権の問題は試金石だと思います。

※ (『信毎』12月3日 「飯田市内のリニア建設用地取得事務 市、JRから受託調整」) ・・・阿部守一長野県知事は2日の県会一般質問で、JR東海が2027年開業を目指すリニア中央新幹線東京(品川)―名古屋間建設に伴う県内用地取得のうち、県内駅などが設置される飯田市部分の取得事務は、同市がJRから受託する方向で調整していると明らかにした。県内沿線で残る下伊那郡大鹿村、豊丘村、喬木村、阿智村、木曽郡南木曽町の事務は、県が受託する方向でJRと協議中とした。・・・

マスコミもしっかりしてね

 新聞社には法律に詳しい人はいないのでしょうか。30mより深い部分についての区分地上権はどうなるのっていう疑問がわかないのでしょうか。JR東海のいっていることは明らかにおかしいのに、私の知る範囲では、マスコミはそういう指摘をしていないように思います。

 トンネルができてしまえば、規制事実として、これは一市民、一住民の言い分よりはJR東海のほうが強いです。区分地上権の契約を設定しないとして、どういう約束、約定を地権者と交わすのか、トンネル範囲の登記はどうするのか、口頭でお願いするだけなのか、そういう具体的なことは用地説明会でやり方を説明するのか、説明会の席上で言いくるめるのか、それはわかりません。そういうところに疑問を感じて突っ込まないとジャーナリズムとしての価値がないですね。「社会の木鐸」って木でできたボコボコと鈍い音しかたてない鈴という意味なのですか。

補足の補足

 話題によく上がるのは都市部の大深度地下の利用です。これは40mより深い部分では区分地上権を設定したり、補償する必要がないという、東京など地下がすでに高度に利用されている都市部での「特例」です。これと比べても、30mより深くて40mより浅い場所は、区分地上権の設定も補償もしなくてはならないことは明らかではないですか。JR東海の言っていることはまったくおかしいです。

 たとえば地表面で駐車場として土地を貸すとしたら駐車料金を取るはずです。未来永劫の期間について一括払いなどということはしません。これと同じで地下にトンネルを掘らせる場合も一括払いの補償ではなく月払いの貸し賃として対価を得ることも考えられるはずです。民法学者の目で見ると地代を補償ということで置き換えてしまっているという指摘もあります。

 考えてみれば、リニアの総延長286kmのうちトンネルは約246km。一時にこれだけの長い距離にトンネルを掘る事業は初めてのことだと思います。民法の原則からすれば、区分地上権の設定についてJR東海のやろうとしていることは問題があるのですが、実はそのようにしなくてはこの桁はずれの規模の長いトンネルは採算からみて掘削できないとJR東海は考えているのではないでしょうか。しかしこれをJR東海に原則どおりにさせることができないとすれば、これからの公共事業や大型の土木工事の暴走への歯止めがかからなくなるような気がします。

(2014/12/07)


資料ページ

 国土交通省が新潟県内において国道トンネル上部の土地について区分地上権を設定して補償をした例のPDFを見つけたので紹介します。

(2021/05/08 補足)もともとのURLは、
http://www.hrr.mlit.go.jp/library/happyoukai/h22/gyousei_hourei/17.pdf
です。これは国道交通省の北陸整備局のHP内のURL。現在は公開されていないようです。WaybackMachine にファイルのコピーがあります。
http://www.hrr.mlit.go.jp/library/happyoukai/h22/gyousei_hourei/17.pdf
WaybackMachine からDLしたファイルがこちら

 一部引用すると:通常は

 トンネルの保全にあたっては、地山の土被りが薄く、トンネルの構造に影響を及ぼす範囲は坑口部として用地を取得し、必要に応じて構造物等を設置するなどしているが、坑口部以外については、一般的な山岳トンネルの場合、将来においても山林としての土地利用が通常であり、現状の使用収益への影響が極めて少ないと考えられる場合については、工事説明会などで地権者に対し工事内容等の説明を行い、トンネル掘削の了解を得た上で工事に着手し、特段の権利設定等は行っていない。

 しかし、この場合は:

トンネルから5mの保護層が必要であったため、土被りが5mに満たない範囲については買収を行い、トンネルの保全を行う事とした。
トンネルの直上となる範囲については土被りが11.5mであり、保護層の範囲を超える土被りが確保されているが、地上部の荷重が直接トンネルにかかるため、現状のままの利用形態を継続出来るか否か、・・・荷重制限の検証を行うこととした。(参照図の番号は煩雑になるので省略=引用者)
当該地域は、若干のRC造建築物が混在しているが木造二階建住宅が建ち並ぶ住宅地域で、都市計画法上の用途地域は無指定であるが、将来においても現状同様の木造の2〜3階建ての建築物が中心となって推移していく地域であると考えられるため、・・・RC2階建て相当の建物の建築がなされたと想定して荷重の影響をシミュレートしたところ、トンネル構造には影響が生じない事が分かった。
なお、RC3階建以上の建築物の場合は荷重制限を超えてしまうが、周辺地域の状況から、RC3階建て以上の建物の建築の可能性は低く、今後も現状のまま推移していくものと想定した。
以上の検証から、現状の利用形態を継続出来ることが明らかとなったが、山岳トンネルは地山の土圧により構造を保つことから、地盤の掘削を受けた場合、トンネル構造が崩壊するおそれが有る。
また、建物建築の際、基礎杭の打設が想定されるため、荷重制限の他、土地の掘削禁止及びトンネルの上下5mの保護層(図-4のとおり)への杭打ち等を禁止することとした。

 そして、この例の場合は、区分地上権を設定して補償を行ったと書かれています。

地下使用に対する補償については国土交通省損失補償基準(以下、「補償基準」という。)第26条及び国土交通省損失補償取扱要領(以下、「取扱要領」という。)第5条に定められている。
(空間又は地下の使用に係る補償)
第26条空間又は地下の使用に対しては、前条の規定により算定した額に、土地の利用が妨げられる程度に応じて適正に定めた割合を乗じて得た額をもって補償するものとする。
2 前項の場合において、当該空間又は地下の使用が長期にわたるときは、同項の規定にかかわらず、第9条の規定により算定した当該土地の正常な取引価格に相当する額に、当該土地の利用が妨げられる程度に応じて適正に定めた割合を乗じて得た額を一時払いとして補償することができるものとする

 引用した文章の最後の部分に注目。「することができるものとする」とはどういう意味だとおもいますか? そして:

地権者に対して宅地下へのトンネル施工や保護層への杭打ち等の禁止制限の内容、補償金の考え方等説明したところ、特に問題も無く、了解をいただくことが出来た。

 住民が一方的に従うべき法律があってそれに則ったものであれば、住民に説明して「了解」をいただく必要はないはずですね。つまりそんな法律はないということじゃないでしょうか。

区分地上権設定登記に必要となる書類については、他事業の事例を収集し、司法書士と相談を行いながら作成した。

国土交通省ってわれわれ市民同様に法律については素人的な立場なのですね。

登記の手続きについては、区分地上権を設定する範囲を予め分筆し、権利設定を以下のとおり行った。

 当然、トンネルの保全のため登記してトンネルの場所を公図に記録することになるのです。

 民法の規定に従って処理したという表現はまったくありません。一般的な山岳トンネルについては地権者の理解と協力でもって合意した上でやっているというだけのことであって、民法で認められている地権者の権利については明示的に考慮されてきたのかは疑問です。

 JR東海は山林ではなく上郷の黒田から上飯田あたりとか、大鹿村の青木、豊丘村喬木村など実際には住宅地や耕作地の下にできるトンネルについても山岳トンネルといっています。JR東海の説明については言葉の一字一句も注意深く聞く必要があると思います。

(2014/12/08)