更新:2019/07/06

駒ヶ根市・中沢に残土処分

 7月4日の『信毎』、7月5日の『南信州』によれば、駒ヶ根市の中沢区がリニアのトンネル残土の受入れを検討中だそうです。


駒ヶ根市中沢の残土処分候補地。面積は約7.2ヘクタール。容量は20万立米。

 地権者で営農組合理事の呼びかけで1年以上前から検討がはじまったこと、記事の「くぼ地」という表現とを考え合わせると、このアイデア、もともと地元から出てきたものなのか疑問に感じます。(*)

* 長野県が最初に残土置場の情報提供を求めた時、土地の形について、谷や沢、洞については「くぼ地」と報告するように誘導してたようです。2014年7月に候補地が公表されたとき「くぼ地」という表現にちょっと変じゃないかと思った人が少なからずいたはずです。

 さらに、大鹿村内で発生する残土を受け入れるとしています。大鹿村に近い松川町生田での残土処分がほぼ絶望的になっています(*)。2018年の12月から長野県は残土の処分先や活用先の候補の募集を再度はじめました。「大鹿村内で発生するの残土」とスンナリ書いているのは、取材に応じた人がそういった可能性が高い。距離的には近いのですが、「リニアのトンネル残土を受け入れる」というのと「大鹿村内で発生する残土を受け入れる」ではちょっと違う。話の進め方のなかに、「大鹿村で困っているから」という説明が「どこかから」あったと思えなくもない。

* 生田では、土砂災害を心配する候補地の下流域の福与区の反対で、合計約620万立米の候補地のうち590万立米分が候補を取り下げることになりました。現在残りの30万立米について生田地区の3つの区で検討中ですが、処分地とできる見込みはほとんどありません。

 『信毎』は「地区内に反対意見はほとんどないが、説明会では残土に有害物質が含まれていないかや、大型車が頻繁に通行することに懸念の声があったという」と書いています。記者は直接説明会には参加せずに区の代表者から取材したのだと思います。

 しかし、『信毎』の記者は、周辺の住民にも取材して、三六災害で家が数軒流されており、災害が起こる場所だ、だから田んぼとして使ってきた、という話を載せています。三六災害アーカイブスの、名称から探すの「10.駒ヶ根市」は全部が中沢地区と新宮川に関する災害の記録。被害が大きかったことがわかります。

(2022/12/03 修正) 国交省天竜川上流河川事務所のアドレスが変更になっています。 "三六災害アーカイブス" "名称から探す"。また、駒ヶ根市は「8」です。


「三六災害アーカイブス」

松川町の生田地区も三六災害では大きな被害が出ています。「三六災害アーカイブス」の「14. 松川町」もすべて生田地区に関係するものです。生田地区の被害についてはこちらも参考に。

 何度も行ったことがありますが、この土地のかたちが「くぼ地」といえるかは、はなはだ疑問。普通にいえば川岸の「緩い斜面」だと思います。谷底に近い川端の土地です。三六災害以後は、住居として使わずに田んぼとして使ってきたというのは防災上の一つの知恵だと思います。

 盛り土をするとすれば、緩い斜面の方が地下水位が高くなりやすく崩れやすいそうです。残土の処分場所として危険はないのか検討する必要があると思います。

「発生土の活用」から「残土の処分」に

 大鹿の小渋川斜坑ヤードから中沢のこの候補地まで残土を運ぶルートをグーグルで調べました。


 3つのルートはどれも約50分かかります。真ん中と右は冬季は通行止めです。年間通じて使える、左のルートも、中川村と飯島町の境付近で非常に狭いので、坂戸橋経由で天竜川右岸の国道153号線にでて道の駅田切の信号から右折して左岸に戻るコースです。JR東海の最初のもくろみ通り松川町生田で処理(約620万立米)するのに比べるとダンプカーの燃料費など運搬経費はかなり増えるはずです。そして処分できる土量も30分の一以下です(大鹿村内の発生量の15分の一)。リニアの工事は時間とともに効率がどんどん悪くなっていきます。

 「区長によると、地区では高齢化や担い手不足が進んでおり、2017年ごろから一帯の埋立による利活用を模索してきた」(『南信州』)、「中沢区の玄関口となる場所。区内に現在、商業施設がないので少しでも活性化できればいい」(『信毎』)ということです。埋め立て後のビジョンに具体的なところがないです。農振地指定の除外が出来るかどうか、その辺も問題になると思います。松川町上片桐ではかなり具体的な構想があったのに、農振除外ができそうにないとの県の指摘で20万立米の残土処分地兼ガイドウェイヤード組立ヤードがダメになりました。

 より遠方に運ばなくてはならないとすれば、燃料の使用が増えるので、リニア工事で発生する二酸化炭素の量は当初予定から大幅に増えるはず。そういうことが、計画のはじめからきちんと考えて見積もられていない。二酸化炭素削減という世界の流れに対して、随分と後ろ向きの計画だといえます。

 リニア計画のもともとの効率の悪さ、ムダなことが次第に目に見えるようになってきているといえます。

 『信毎』も、そして『南信州』さえも、もう「発生土」という用語は使っていません。「発生土」が「残土」に、「活用」が「処分」へと変化しました。環境大臣が2014年6月に指摘(*)していたとおりトンネル残土はリニア技術の大きな欠点(**)です。

* 「掘削によって発生する土砂は莫大で、最終処分や仮置き場も決まっていない。ここがポイントだ」(『日経』2014年6月3日)

** 「…トンネルの掘削に伴い多量に発生する発生土の適正な処理、希少動植物の生息地・生育地の保護、工事の実施に伴う大気汚染、騒音・振動対策等、本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない。技術の発展の歴史を俯瞰すれば、環境の保全を内部化しない技術に未来はない。このため、低炭素・循環・自然共生が統合的に達成される社会の具現化に向け、本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全について十全の取組を行うことが、本事業の前提である。 」(中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見 [PDF 45 KB])