更新:2020/09/24

岐阜の地学:安房トンネル

トンネル掘削に関する日本の技術水準はいまさらいうまでもない.どこでも掘ってしまうといってもよいであろう.しかし,掘れることと掘ってもよいこととは別問題である.掘削の技術は残念ながら掘削後の管理・保全技術とは無関係である.これはトンネルに限ったことではない.作ってしまった後のことまで予測し,保全に努められる技術でなければ本当の技術とはいえない時代にいると考えるべきである.

 「 岐阜の地学」> "火山[23] 安房トンネル ~ 火山内部を貫く~" というページの一部です。松本と高山を結ぶ中部縦貫自動車道(安房峠道路)の活火山を掘り抜いた安房トンネル(※)について書いています。

※ 延長4370m。工期18年。(NEXCO中日本 > "安房峠道路の概要")

 リニアの南アルプストンネルについても同じ。JR東海は切羽から先進ボーリングで調査しながら掘るので掘れるといっているように思えるのですが、静岡県はトンネル以外の部分、大井川の減水とか生態系への影響について事前にきちんと調べることを求めています。つまり、「掘れることと掘ってもよいこととは別問題」だし、「作ってしまった後のことまで予測し,保全に努められる技術でなければ本当の技術とはいえない時代にいると考えるべき」とは、トンネル自体のことだけでなく周囲の環境への影響についても考えるべきだということ。後半は環境影響評価書に対する環境大臣の意見の一節そのもの、「技術の発展の歴史を俯瞰すれば、環境の保全を内部化しない技術に未来はない」(※)。

※ "中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見"

 JR東海がCルートに決めた動機として飛騨トンネルの開通があった(※1)と言いわれます。ところで、飛騨トンネルは大量の湧水をつかって水力発電をしているそうです(※)。昔から利用されていた籾糠山の水資源に影響があったのかなかったのかはわかりません。

※ 『日経』2010年12月14日 "中日本高速、飛騨トンネルの湧き水で水力発電"

 この水力発電について、NEXCO中日本は「環境に配慮した取り組み」といっています。トンネルを掘るのにつかったエネルギー、管理するための電力や、よくわからない籾糠山の水資源への影響などについて考えると本当に「環境に配慮した取り組み」といえるのか。最初から水力発電もできると考えていたわけじゃないと思います。「環境に配慮した取り組み」なんて胸を張っていえるのかどうか。

※ NEXCO中日本 > "環境に配慮した取り組み ~飛騨トンネルの湧き水を利用した水力発電の導入~"

 リニアの「技術」の本体について、つけくわえると、時速500㎞で走るという同じ目的のトランスラピッド(上海のリニアモーターカー)は、より小回りがきいて、電力消費も少なく、運行上や乗客の利便性も高いものが、20年も30年もまえに完成していたことも無視できないと思います。超電導リニアは本体の技術がいまだに未完成。