更新:2021/08/05

熱海土石流から1か月

 熱海で土石流から1か月たちました。この数日の関連記事をひろってみました。

(1)『中日』2日20面 "備える3.11から 第190回:盛り土の災害リスク 迫り来る「新しい公害」 行き場なき建設残土の果て 危険個所 住民自ら点検を"(web版)

 JR東海は、「盛土は昔から実績のある土木構造」といっています(*)。この記事によれば、盛んになったのは高度経済成長期。阪神大震災、中越地震、東日本大震災で宅地の盛り土が崩落の被害が相次ぎました(**)。建設残土の処分先でも豪雨などで被害は出ており、京大防災研究所の釜井俊孝教授(応用地質学)は『これから来る新しい公害』と呼び、全国一律に規制の網を掛ける法律が必要と指摘。法律は、この件についてはいまだに、人命よりは事業優先(財産権)なのだと思います。名大の松岡元名誉教授(土質力学、地盤工学)は「自然の谷筋に着目し、自然の水の流れを遮るものが設置されていないか、排水機能が十分確保されているかを点検することが重要だ」とし、「住民自らがチェックすることも必要」と指摘。

* 『信毎』7月22日7面 "リニア盛り土 安全確保徹底 JR東海社長 土石流踏まえ" によれば、7月21日の名古屋市内で行った記者会見で、金子社長は「盛土は昔から実績のある土木構造。…」 といっている。

** 鉄道やではかなり昔といっても当然、明治以降だと思いますが、盛土は行われています。飯田線でも各地で見られます。また崩壊などの事故も起きています。

(2)『毎日』2日 "熱海土石流 盛り土、実体は産廃 安全対策なく基準も守られず"

 この記事で重要と思うのは次の部分。

各地で発生した土砂崩れなどを巡る訴訟は、土地などの管理者や自治体に法的責任を負わせるかどうかで判断が割れている。
盛り土の造成者の法的責任はどうか。京都大大学院の潮見佳男教授(民法)は、静岡県が盛り土の高さについて原則15メートル以内との基準を定めている点に着目する。「土砂災害のリスクを想定した基準と考えられる。順守していなければ不法行為に当たる可能性がある」と指摘。繰り返し熱海市の指導を受けたとされる点にも問題があるとみる。
土地の現所有者については、民法の「工作物責任」に問われる可能性があるという。占有する土地の工作物に瑕疵(かし)があり他人に損害を与えた場合、無過失でも課される責任のことだ。

 所有している土地が沢や谷沿いで、残土が崩れて他人に被害を及ぼした場合、まず責任を問われるのは地権者ですよという意味です。また、県などが土石流対策の対象として規制がかかっている場合は、残土を置けば、対策の対象から外れるので、下流域などから対策を求められた場合は地権者がすることになる。リニアの残土に関してい言えば、こういう条件の場所であれば、地権者として同意しないというのが一番大事なことだと思います。国策的な事業であろうと、JR東海はいよいよにならないと用地を買い取るとは言いません。県が関与しているから、なんとかなるだろうは甘いと思います。災害が起きた場合、法的とは別に、地域の中で土地を所有するという点で、地域に対して責任があると思います。豊丘村の地蔵が沢では、リニアの残土の谷埋めを断念さましたが、下流域の住民の反対もあり、また、地権者のなかにそう考えた方たちがいました。長野県のリニア残土処分候補地の照会のやりかたには、トンネル残土の処分が速やかに行えるように、地権者に責任が及ぶことを曖昧にしようとする意図が見えます。

(3)『中日』2日2面 "残土の追跡システム実証 国交省 ICカードで記録管理"

(4)『信毎』2日2面 "残土追跡 システム実証 国交省 不適切な処分防止へ"

 盛り土のきちんとした安全基準があって、建設残土の処分法についてしっかりした法律があって、その上にこういうシステムをつくればより良いということは納得しやすいですが、追跡システムだけ作っても追跡しなくてよい「例外」があっては意味がないと思います。リニア建設計画で発生する前例のない大量の残土の処分先について、ほぼ全量について処分先の見込みがなく、環境大臣からの異例の意見書も提出されたのに工事を認可するような国交省が、本当にこういうことが出来るのか、本気なのかという疑問があります。

(5)『朝日』3日3面 "熱海の盛り土「人災」解明は 11年前の造成時 既に基準超過か 行政いつ認識 住民は訴訟検討"(web版)

「盛土が被害を甚大化させた」との推定を公表している(静岡)県は、メカニズムの詳細を分析中だ。指揮する難波喬司副知事は国道交通省の元技官で、「修士論文は『降雨時の斜面安定の不確実性について』だった」という専門家。…「工法が不適切だった」と指摘し、「見抜けなかった行政要因もある」とまで踏み込む難波氏の姿勢に、熱海市からは「前のめりすぎる」(市幹部)との戸惑いも漏れている。

 熱海市の土木部門の元幹部は、造成がおおむね終わった10年8月に、県と市の職員が現地を視察し基準超の「多段積み」を認識していた、が、「ただちに大崩壊して危険だという認識は持てなかった」とも説明。県庁内にも「専門技術者でなければ分からない」(幹部)との声がある と伝えています。超えたという基準は専門家が関与して決められたと思います。であれば、専門技術者でなければ分からないとは言えないはず。

 豊丘村の下平村長は住民側が盛土の水抜きの方法とか盛土の工法の技術的な部分について懸念を示すと村は技術的な問題について判断するノウハウがないので、そういうことは県や国に聞いて欲しいといいます(参考)。村のリニア対策委員会でやや踏み込んだ内容が出始めると、村は文書で事前に提出せよというようになりました。飯田下伊那は山がちな地域なのですから、そういう知識がある職員が必要なのではないかと思います。豊丘村の場合、住民より村の職員の方が知識がないということになると思います。(1)の中日の記事で、名大の松岡元名誉教授(土質力学、地盤工学)は「自然の谷筋に着目し、自然の水の流れを遮るものが設置されていないか、排水機能が十分確保されているかを点検することが重要だ」とし、「住民自らがチェックすることも必要」と指摘ではないですか。

(6)『中日』3日25面 "熱海土石流きょう1カ月 盛り土賠償請求を検討 県、市、土地所有者らに住民"

(7)『赤旗』3日14面 "盛り土めぐり賠償請求も 熱海土石流 被災者が行政対応批判"

(8)『日経』3日38面 "盛り土 賠償請求を検討 熱海土石流1カ月 被災住民、県などに"(web版 )

(9)『信毎』3日29面 "盛り土崩落 賠償請求検討 土石流きょう1カ月 被災住民が熱海市などに"

 『中日』は賠償請求の相手として見出しに「土地所有者」を入れています。他紙は行政を相手取ってという感じの見出しです。『赤旗』は土地所有者でなく「盛土の造成業者」と書いています。

(10)『日経』4日40面 "盛り土崩落リスク、認識か 起点の土地所有者 13年に県に文書 熱海土石流1カ月"

(11)『信毎』4日29面 "盛り土崩落 危険認識か 熱海土石流起点の土地所有者 「対策取る」県に文書提出"

 現在の土地所有者が、2013年に盛土の安全対策をするという内容の文書を県に提出していたことがわかったという記事。

 リニアの残土置き場について、今のところ、まず第一に土地所有者に責任が来ることは同じです。