更新:2022/03/29

地震とJR東海の自信
~浮き浮きリニアのゆくさきは

 3月16日の地震で、東北新幹線の「やまびこ223号」の編成17両中の16両が脱線しました。蔵王白石駅の手前約2㎞で、地震のP波を検知して緊急停止後に脱線したようです。この地震では、新幹線の高架橋も破損したり架線の電柱が倒れたりしていました。

"南海トラフ巨大地震に備えよ ~日本の大動脈を守る"

 『週刊 東洋経済』(3月26日号、p12・13)と『週刊ダイヤモンド』(3月26日号、表紙見返しから2ページ)にJR東海の広告がのっていました。書店で『週刊 東洋経済』を立ち読みしていて見つけたのですが、パラパラめくっていて、耐震工学の福和伸夫さんの写真で見つけた記事なんですが、福和さんがインタビューに答えるという形。"南海トラフ巨大地震に備えよ ~日本の大動脈を守る「実効性あるBCP」を" という見出しがあって、ちょっと見ると通常の記事のように見えました。

耐震工学の第一人者がお墨付き?

 福和さんの写真のすぐ右に「リニア」という文字が見えたので、読んでみてビックリ。リニアは危険といっているのかと思ったら、南海トラフ地震に備えてバイパスとして「リニア中央新幹線」を早期に備えていくことも必要でしょうとか …提唱したいのはコンパクトシティです。…リニア中央新幹線の神奈川県・山梨県・長野県・岐阜県に建設予定の各駅は、そのような分散拠点にも最適です といっている。石橋克彦さんらはじめ地震学者が不適切といってるのに耐震工学の先生がリニアに肯定的なコメントをしているのです。で記事全体を見わたすとJR東海の広告でした。

 南海トラフ地震の想定震度の地図もあって、リニアルートは全線の約7割が震度6強または震度6弱の地域を通過することが分かります。特に山梨県の笛吹川付近は震度6強の地域を高架橋で通過するはず。境川PAそばのリニア実験線の残土の谷埋め盛り土(合計160万㎥)は、地震が怖くて住宅開発を中止したのですが、ここも震度6強の地域だと思います。

 この広告は「3月26日号」。3月16日の脱線事故があったので、鉄道方式の新幹線より、浮いているから安全という超電導リニアをこの機会にアピールしようとJR東海さんが考えたのかどうかは分かりません。原子炉はそこそこ細かい数字を示して地震でもこれぐらい丈夫と宣伝(*)してます。住宅メーカーの住宅の耐震性能より低いといわれてしまったりしている面もあるのですが…(**)。

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(**)

* 中部電力 > 浜岡原子力発電所 > 地震対策

** 住宅より揺れに弱い原発 - 食品と暮らしの安全

しかし、JR東海の超電導リニアの地震についての対策(*)は:

 だから、超電導リニアは、地震に強いシステム といってるだけです。

* JR東海 > 超電導リニアとは > 緊急時の対策 > 地震への対策

 余談ですが、(2)のトンネルの話は、地震ではトンネルと地山は一緒に揺れるので、トンネルが破壊されることはないという話だったんじゃないかと思います(*)。そして (1)については、「超電導リニアが地震時も 安全に走行できる仕組み」と説明しているのは、ガイドウェイの中心を走る仕組みについて説明しているだけで、速度が速いほど車体を支える力が強いというのは、減速すれば支える力が弱くなるという意味ですから、支える力が弱くなってからS波の襲来にでくわすことで、ガイドウェイに車体がぶつかるということになるんじゃないかと思います。

* 国会図書館の「レファレンス協同データベース」の「レファレンス事例詳細」に「地震のとき、地下にいると揺れが少なく安全だと聞いたが、なぜ揺れが少ないのかわかる本はあるか。」という質問への回答があります。それによれば、なんか難しい話のようではあるのですが、「理由の説明がない」という指摘もある。地上の建物は周囲から支えが無いので建物の強さでだけで揺れ方は決まるけれど、地下室やトンネルは地盤や地山と一緒に揺れるので揺れ方が少ないということではないかと思います。地震対策として家具を転倒防止金具で固定するよういわれますが、固定した家具は家と一緒に揺れるので倒れないので安心というのと同じようなことじゃないかと思います。超電導リニアで言えば、高架橋はもっと揺れるから危ないということになるのかな? なお、破砕帯や断層の部分ではトンネルが壊されることがあるし、トンネルの坑口部分が危険という指摘もあります。トンネル内で火災とかなにか緊急事態があった場合、故障などで停車した場合の避難をどうするかという問題もありますね。トンネルが長いから安全とはいえません。

 これはJR東海が印象操作しているのかも知れませんから、余談じゃないですね。

自己完結する事業はない

 それはそれとして、「耐震工学」の学者さんがリニアは地震でも安全というお墨付きを与えたことになるかどうか。福和さんは、よくBCP(事業継続計画)といいますが、企業も自治体も組織内だけに目を向けて、手の及ぶ範囲の対策しか講じないケースが目立ちます。しかし、自己完結する事業などありません。 といってます。南海トラフ地震で被災した場合のバイパスをJR東海自身で準備しようという考えは、組織内だけで自己完結させたいという考えだと思います。中央東線、中央西線、北陸新幹線もあるし、飛行機もあるので、JR東海が自社で災害時のバイパスを準備する必要はないはず。社会全体として考えるべきことです。

 なんか、JR東海さんのこの広告、詰めがあまい。

 どうも、地震について超電導リニアが強いというご自身の見解についてJR東海さんは自信がないんじゃないかなという気がします。

一番の地震対策はスピードダウン

 ことしは、東海道新幹線に「のぞみ」が登場して30年。3月23日の『中日新聞』9面。"のぞみ30年 未来の旅 安全性能重視 JR東海 新幹線鉄道事業本部長 300系開発 時速50キロアップ「涙出る思い」" という記事がのっていました。東海道新幹線を220㎞/hから270㎞/hに50キロスピードアップした300系電車の開発に関わった方の話です。もちろんJR東海の社員さんです。速さより安全性と快適性だ。日本は地震の多い国なので、揺れを検知して安全に止まれる性能を重視する と話しています。「揺れを検知して安全に止まれる性能を重視する」とは結局、つまり、最高速度はだいたい300km/h以下がよいという意味だと解釈できるんじゃないでしょうか。走行速度が遅いほど停止に必要な距離は短いのですから、揺れを検知してから停止するまでの時間を短くできるのですから。地震の多い日本で300㎞/hを超えるような速度で運行すること自体が危険なのだろうと思います。

ガイドウェイの強度は

 リニアのガイドウェイ方式は地震に強いとJR東海は説明していますが、車体を支えるガイドウェイの側壁パネルはコンクリート製の衝立のような形のものです。「衝立のような」という意味は、JR東海は自立式といっていたと思いますが、高架橋と一体構造ではなくて、高架橋の上の面に置いてボルトなどで固定した構造になっているという意味です(*)。

* 山梨県立リニア見学センター > リニアの仕組み > ガイドウェイ・地上コイルについて の「新方式」と説明されているものです。

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参考:ガイドウェイのパネルについて。 高架橋の上を走るリニアの軌道の全体的な構造は新幹線と大きな違いはありません。

 これが地震で倒れたり、壊れたりすることもあるはずです。従来の鉄の車輪とレールの場合は車輪とレールの重なりあう部分は約4㎝ですが、超電導リニアの場合は車体とガイドウエィの重なりあう部分が約1.3mもあります。従来の新幹線と違って、車体が直接にガイドウェイによって破損する可能性が高いと思います。高架橋が損傷する場合もあるでしょう。で結局、緊急停止が一番の対策になるはずです。とすれば、500㎞/hというスピード自体が危険なのです。

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地震で車体がガイドウェイに接触する可能性は?

 鉄道総合技術研究所編の『ここまで来た!リニアモーターカー』(2006年交通新聞社)の119ページ、カーブ走行時の台車と地上側の距離(すきま)の変位について書いている部分で、車体がガイドウェイの中でずれる「限度値」を4cmと示している図表があります。リニアでは車体は「磁気バネ」で支えられているので、これは速度によってバネの強さ(硬さ)は変わるはずですが、車体に加わる遠心力などの外力Fに対してバネが変形する限度が4㎝で、つまりその数値F以上(この数値も車速で変化)の外力が加わった場合には側壁と接触するという意味だと思います。地震の水平方向の加速度が車体にFの力を生じるような場合は外壁に接触すると思います。

 自立式(高架橋と一体構造ではない)の側壁パネルがどの程度の地震の水平加速度に耐えられるかという問題もあると思います。そういう数値が示されているのかどうか。

 浮いているから地震に対して強いなどと単純にはいえないと思います。高架橋自体が壊れる可能性もあると思います。浮いているとはいっても列車の重量をガイドウェイや高架橋で支えている点は従来の鉄道と同じです。

 愛知県小牧市内の研究施設にある加振実験台で地震の時の揺れ方も調べているようですが、そのデータが公開されているかどうかは分かりません(参考:『南信州』2020年 12月5日 "新幹線並みの乗り心地目指す")。

 地震のp波を検知して速度を落としながら補助車輪(ゴムタイヤ)を出すのですが、補助車輪の接触する場所は、浮上用コイルより高い位置にあります。本震のs波の大きな揺れが来た時に、ガイドウェイパネルの根元には、テコの原理で、浮上走行時より強い力が加わる可能性があると思います。ステンレス製の緊急用の車輪の位置も高い位置にありますね。これらのいろいろな要素を考えると浮いているから安心などとはとてもいえません。

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 ガイドウェイと車体の隙間は、見かけ上は約7.5~8㎝あるのですが、実際には緊急用のステンレス製のストッパー車輪がいつも3.5cm飛び出しているので4㎝程度しかありません。「山梨リニア見学センター」や「リニア鉄道館」の実物の試験車両が展示してあるので、ご自分の目で確かめることもできます。

 前のほうで紹介した、超電導リニアの地震対策では、「超電導リニアの車両はU字型のガイドウェイに囲まれた内側を約10cm浮上して非接触で走行」するから安全といっているんですが、JR東海さんのHPに「4㎝」という数字が出ていませんよ。やっぱり、超電導リニアが地震に強いという説明についてJR東海さんは自信がないんじゃないかなという気がします。

 武蔵野大学の阿部修治教授が阪神大震災以後におきた大地震の揺れ方で超電リニアがどんな反応をするのか予測しています。

「磁気浮上列車の地震動応答」

 東日本大地震(2011年3月)、中越沖地震(2007年7月)、中越地震(2004年10月)、兵庫県南部地震(阪神大震災、1995年1月)のような規模の地震の振動で40mm(ストッパー車輪が側壁に接触する)変位(中心線からずれる)可能性があるようです。兵庫県南部地震のデータを使ったシミュレーションでは80㎜を超える可能性もあるようです。

 列車がガイドウェイに接触した場合に、ガイドウェイが耐えられるかという問題があることは確かです。

 新幹線と同じ程度の地震対策であるならリニアを時速500㎞/hで走らせるのは大変に危険です。浮いて走っているから地震でも安心という説明を受け入れてしまうのは、リニアを見据えて、浮き浮きと、心が浮ついているからだと思います。特に政治家の皆さんが、地震の問題以外の問題点についても浮ついた判断を重ねて来たから、建設を始めたけれど、思わぬところで足元を救われるようなことがあちこちで起こって2027年の開業などはとても無理、中止も視野に入ってくるということになったのだと思います。

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