更新:2022/04/16

土石流危険渓流の指定があった小園の谷

 阿智村上清内路の萩の平にリニア中央新幹線の中央アルプストンネル工事の斜坑口(萩の平斜坑口)が計画されています。そこから出てくる残土は斜坑口に近い、クララ沢など4カ所の谷に埋め立て処分する計画があります。

 その谷が、長野県が「土砂流出危険地区」に指定した場所だったことを『信濃毎日新聞』(『信毎』3月29日)が報道しました。この記事で初めてそういう危険な場所と知った阿智村議会が、残土処分地についての説明会や協議のなかで長野県が、「土砂流出危険地区」であることを説明しなかった点について抗議をしました。

 長野県知事は、公開している情報であり市町村が知らなかったことはないはずとコメントしていました。

参考:開き直る阿部知事、いいぞがんばれ

 なにか奇妙な話だと思いますが、残土処分の候補地について、これと似た話がありました。このごろ忘れやすいので、簡単にまとめておきます。

 豊丘村の小園というところの南の沢、牛草沢という2つの沢がリニアのトンネル残土処分の候補地になっていました。2016年の6月、下流の集落の住民の方たちが反対運動を起こした結果、JR東海は処分地として使うことを断念(*)しました。

* 『信毎』2016年6月9日 "豊丘・神稲伴野区の源道地 JR、残土処分計画断念" によれば、JR東海広報部は取材に対し、一部の地権者の理解を得ることが困難で、工期を考慮すると他の候補地を速やかに確保することが望ましく「取りやめが合理的と判断した」と説明

 豊丘村議会で、村が長野県にあげた候補地の情報を取り下げるべきという議論が行われました。議会では、そもそも情報があげてなかったのだから候補地情報の取り下げを長野県に求める必要はないという結論になったと記憶しています(*)。この質問をされた村議は長野県の飯田地方事務所にいって、候補地の情報を提供した文書について確認をしています。担当者は、そういう文書はないと答えたそうです(**)。

* 「とよおか議会だより 2016年6月議会」 の10ページ。

** 「とよおか議会だより 2016年9月議会」(PDF、13ページ) では、豊丘村の総務課長は、県が照会に使用した書式の文書はないと答えています。「議会だより」では、小園の谷(源道地)はJR東海から提案があったと村側は答えています。次の段落で紹介する文書に、「JR東海が希望している○○地区の候補地については、候補地になっている旨を地区の代表に説明している。」との記述があります。JR東海から希望があったということは、環境影響評価の段階以前に、残土の処分地を決める可能性があったということ。ところが、JR東海は、工事申請前の環境影響評価で、少なくとも長野県内については残土処分地については取り上げていないはずです。この文書の豊丘村の聞き合わせ記録の最初の「伴野原地区」(66万㎥、保安林指定在り)というのは何処なのか?

 この議会のやり取りを、何か妙な話だなと思ったので、地方事務所にいって、残土の候補地の情報提供に関する全ての文書を公開するよう請求しました。全部で約180ページの文書が出てきました。その中に、豊丘村の小園の2つの谷を候補地として情報提供したことが明らかな文書(PDFの1、4ページ目)がありました。文書のコピーを受け取りに行ったとき、たまたま、問い合わせに来た豊丘村議の応対をした職員がいたので、文書はあったんじゃないですかというと、村議さんは誤解しているといっていました。

 なお、小園の2つの谷について、今回の報道でも出てくる「土石流危険渓流」の指定があったことは、2016年当時から住民側は明らかに知っていた(*)ようですから、『信毎』の報道は、最初はいまさらという印象もありましたが、リニア推進ついては、コソコソと姑息なやり方が行政の側で一貫して行われているという印象も持ちました。

* 小園の場合は、谷埋め盛土は危険という下流の集落住民の一致した意見が最大の力だったと思いますが、住民運動の中で使われたチラシの地図に、「土石流危険渓流」の記載や砂防堰堤の記号が記されていました。これらは国土地理院の地図には記載のないものです。また、地権者の立場として、現在は県が災害対策をしてくれており、残土を置かれた場合、指定がはずされるので、県はこれまでのような対策はしなくなってしまい、なにかあった時の責任は地権者にくる。現状のまま推移した方が将来も心配がないとの話も聞きました。当時の報道では、JR東海は地権者の理解が得られず断念したようですが、今回の『信毎』の記事からすれば、「災害を防止する制度」と反するJR東海や行政側の動きがあったのではと思います。小園の場合では、住民運動はJR東海やとくに行政側の痛いところをついたのかも知れません。

 「リニアを考えようコミュニティ」の投稿(*)によると「崩壊土砂流出危険地区」などの指定のための森林管理局(林野庁)及び都道府県による調査が行われたのは、2016年~2017年頃らしいです。であれば、市町村、特に阿智村が知らなかったという話は非常に変なことですね。

* 投稿の主旨はJR東海が知らないはずはないだろうというものですが、これだけの調査を行ううえで、林野庁や都道府県が地元の自治体になにも接触せずできたものかどうか、また地元に対して極秘で行う必要があったのかどうか。