更新:2024/04/16

トンネル上部の住民の権利について

 「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」が飯田市に対して2月25日に提出した要望書について、午前10時より飯田市から回答書が手渡され約2時間質疑応答が行われました。詳細は、「住民の会」が報告すると思います。

 同席させていただいて、ちょっと気になった点は、風越山トンネル上部の地権者に対する「起工承諾」についての回答です。

 掘削を始める前に土地所有者の許可を得るのか得ないのかという、普通に考えてごく当たり前の問題なんですが、JR東海は、何度指摘しても許可を得る得ないという点についてまったく回答をしていないのです。許可を得ないとすれば違法なのですが、JR東海の態度について飯田市はどう考えるかという質問です。

 JR東海は「個別に訪問し、丁寧に説明すると聞いております」というのが答えの前半。後半に2015年(平成27年)3月の衆議院国土交通委員会における「土地の所有権を有する者の権利の行使につき利益の在する限度で当該土地の上下に及ぶというように解される。個別の土地の使用態様に応じて判断されることとなる」という政府答弁を紹介しました。

民法は、207条で「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」とされ、制限する法令は鉱業法や温泉井戸の掘削に関係するものだけです。政府答弁について日付が明記してないのですが、これは2015年3月20日の第189回国会・衆議院国土交通委員会での共産党の本村議員の質問に対する答弁の一部です。「個別の土地の使用態様に応じて判断される」とは現在の自公政府の解釈であって、土地の使用態様について定めた法律規則があるわけでない(あるとすればその法令を示すはずですから)ので、このような政府答弁自体がおかしいのですが、それを回答の一部として引用するのは、現在の自公政府の見解を踏襲しているんですが、飯田市としての法令の解釈として適切とは言えません。

 保証するしないという話ではなく。工事の前に「掘らせてくださいネ」というJR東海のお願いに対して、地権者が「いいですよ」という内容のたぶん分量としてはA4で1枚程度の文書をつくるというだけの話なんですが、なんでこんな簡単な話に小難しい回答をするのか。文書にしなくても説明して口頭で了解をもらえばよいでは、こういうう場合は通らないと思いますよ。後で、「黙って掘ったじゃないか」といわれたらどうするのという話で、刑法では不動産侵奪罪というのがありますね。

 ともかく、政府も飯田市もこぞってJR東海の横着なやり方について間違っていないと弁護しているのは明らかです。これじゃ、飯田市はJR東海の下請けと呼ばれても仕方ないですね。

 3大都市圏の一定の地域については大深度法は、40mより深い部分については事前に工事の承諾や保証をせずにトンネルが掘れるとしているんですが、この法律の成立に関連して中心的に働いた野沢太三氏は、次のようにいっています。

(山岳トンネルについては)入り口部分については買収するが、あとは(地権者が)承諾するだけで良いという方法、「起工承諾」で済ませるというやり方を当時の鉄道省と農林省が打ち合わせをし…公共的な仕事であるなら地主から「起工承諾」をもらうだけで買収や補償などを行わず工事ができる"ルール"として一般化する(p189、『新幹線の軌跡と展望』三省堂書店、2010年7月)

 ここまでは、田舎の話。

都会では地下にあまり深いところがないという点に加え、土地の所有者が所有権や部分的な利用券などを含めた様々な権利を主張し、また補償なども要求するため、どうしてもハンコを押さなければならない事態が生じてしまう。…難しい地主になるとなかなか了解が得られず、時には何年にもわたって仕事が止まってしまったり…そこで、地上に影響のない深さ、大深度で土地の利用が損なわれない計画で、公共目的の地下利用であれば無償で使えるようにしようという発想が出て来たのである

 と。

 つまり、野沢氏も田舎での「起工承諾」は "ルール" だといっているのです。そして、大深度法が適用された場合であっても地上の権利者の地下についての所有権は消滅しないというのも自公政府の見解です。だから、JR東海は、風越山トンネル上部の土地所有者のすべてから「起工承諾」をもらう必要(法的な義務)があって、それをやるやらないを明確に言えないというのは奇妙奇天烈な話です。

 田舎では、「起工承諾」は必要ないというのは、JR東海の独特の考えのように思え、そんな言い分を通そうとするなら、都市部であろうと、大深度法の適用を申請する必要はないはず。都市部では住民や地主の権利意識が強いので大深度法の適用を申請するけれど、田舎の人たちは、人が良いので、権利意識が薄いので、「起工承諾」は必要ないということじゃないか。それは地方の住民を差別していることにならないか。このようなJR東海の説明の仕方は認可にあたって国交大臣が、丁寧な説明をして住民の理解を得るようにという支持にしたがっているとはいえないです。

 そいう田舎を差別するJR東海に対して立ち向かった川勝知事は立派といえますが、JR東海の行状を弁護しようとする国と飯田市はなんなんだと。

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