更新:2025/04/30、2025/05/04 訂正と補足

土曽川橋りょうへの要対策土活用についての説明会(4月24日、26日)について

(1) JR東海は、県内のトンネル工事で要対策土が出てくることは予想していたが、確実な対策を工事計画の中に含めなかった。

(2) 特に、中央アルプストンネル松川工区からは要対策土は出ないと予測して仮置き場を準備せずに掘削を始めたところ、約3000㎥が発生し、トンネルの掘削が中断。松川工区の要対策土は緊急避難的に専門の処理業者のところに持ち込んで「適切に処置」できてしまった。

 (1)、(2)が含まれていなければ、環境の保全という観点で、「経緯の説明」としては不十分。

 大鹿村内や豊丘村内に保管している要対策土について、公共事業に使う行き場が見つからないので、人の住む地域の真ん中にあるのに、中間駅工事に要対策土を「活用」したいと主張。環境の観点からいえば、極めて非常識。

 残土に含まれるヒ素がどんな化合物なのかについて説明がされてない。

 全線286㎞の86%がトンネルとなる計画で、要対策土の対策が考えてなかったことは、先端技術といわれる超電導リニアにしては杜撰すぎる(※1)。

 JR東海は、土曽川橋りょうへの要対策土活用についての説明会を、4月24日夜に上郷公民館、25日夜と26日午後2時から座光寺地区の麻績の館・人形劇ホールで、行いました。

 24日の説明会では、「日頃お付き合いしているメディアに限っています」との理由で『赤旗』の記者を会場に入れないという、なんかなぁということもありました。共産党の飯田下伊那地区委員会がこのことについて抗議しました。最近では、万博会場でメタンガス発生の危険性について報道したにことで、万博協会が『赤旗』の取材を拒否しています。リニアも大阪万博なみにヤバイことがあるのかもしれませんね。

 長野県が1月27日にJR東海に送付した助言は、次のようにいっています(※2)。

ク 橋脚基礎部において要対策土を使用するに至った経緯、使用する要対策土に含まれる物質の種類や濃度、及び要対策土の運搬車両の運行計画台数を環境保全計画書に追記すること。
コ 当助言を踏まえた環境保全計画書の変更部分をはじめ、新たに見直した計画や対策の内容について、飯田市及び地域住民に丁寧に説明すること。

 2024年9月27日の長野県環境影響評価技術委員会(以下、技術委員会)で委員が、最初の計画では要対策土を使う予定でなかったのに、なぜ使うようになったのか説明を求めています。JR東海は次のように答えています。(以下は「会議録」のp15~16による)

 委員は、「事業者側のできれば使いたいという判断」だが:

と指摘。

 JR東海は、その上に中央新幹線を走らせるのだから、構造物についても責任を持って管理していくので、その一環で要対策土を詰めた橋脚についても管理していくと。また、「いつまで」かとか「地震が起きたとき」のことについては「自治体、あるいは地元の方と相談しながらそこは決めていきたい」と答えています。

 答えになっていませんね。自治体や地元住民が折れればそれですんじゃうという話であって、JR東海には環境を考えるという気持ちがありません。

 このやりとりの次に委員長は次のようにいってます。

…そもそも要対策土を使うことが前提で始まっていますけれども、ここに掘った土があるわけですね。それを他に持っていって、さらに遠くにある大鹿村から要対策土をここまで持ってくるという、二度手間と言うとおかしいですが、なぜそんなことをやるのかと。
 ここで要対策土を使わなくてもいいはずですよね。最初仰ったように、自社用地と仰いますけれども、周りには民家がたくさんございますね。さらに水が流れている場所ですので、これはもう影響がありませんとは誰も言えないはずです。なぜそういう ところに要対策土を使うのか、全く理解できないです。
 いかに自社用地だから勝手にやっていいでしょうと仰られても、これは周りに民家があるわけですから、それはいくら何でも環境影響評価としては、我々は納得できないということだと思いますけれども、それについてはいかがですか。
 なぜ、わざわざここにある土を他に持っていって、要対策土を持ってくるのか。その理由がよく分かりません。

 JR東海は:

 ここも繰り返しにはなってしまうのですが、要対策土は、トンネルを掘っていくと出てくる、いわゆる自然由来の重金属ということになります。それは、いずれにしてもどこかに活用していくというところを考えていかないといけない。その中で、まずはよそ様の土地というよりは、自社の用地で活用できるところがないかといったときに、こういった場所があって比較的安全な構造物の中に封じ込めができるというところで、安全性も含めて専門家に御相談をし、ある程度施工の中でも安全対策もやっていかれるという中で今回計画したというものでございます。

 委員長は:

 そもそも、土砂の移動については、例えば大事な植物・動物がいてそこで工事を行う場合は、そこの土を使うのが基本です。つまり、そこに他から土を持ってくると、例えば植物の種が入っていたりすると、外来性の動植物が入ってきますよね。だから それはやめましょうというのが基本です。
 それは動植物の問題ですが、これはまさに人が住んでいる場所ですよね。そこに、それは危険ですよということが言われている土にもかかわらず、要対策土を持ってくるというのは、環境保全的には考えにくい行為と言わざるを得ないんですけれども。
ですので、今言ったことを何遍繰り返されても、まさに基本から言えば、許されないのではないかと私は思うのですが。

 委員や委員長の指摘は、明確でわかりやすいのに、JR東海の説明はなんかぐじゅぐじゅしています。

 JR東海は、トンネルを掘れば要対策土は出てくるものだといっているんですから、ケーソン基礎の空洞に詰め込めそうだと今頃になって気がつくっていうのがなかなか理解しにくい話です。

 で、2024年11月14日の技術委員会で、この点ついて、JR東海は再度説明したのですが、委員は納得できなかったというのが、助言の「ク」と「コ」に現れています。

中央アルプストンネル松川工区の要対策土は「適切に処置」できてしまった

 11月14日の会議録によると、委員会に対する最初の説明の中で、要対策土の発生状況について次のように説明しています。

 JR東海は、松川工区からでたものについては、ヒ素が基準値を超えていたので適切に処置をしたと説明しています(※3)。ただし、土曽川橋りょう工事の問題に関しての口頭による説明ではなくて、同じ日にあった「令和5年度における環境調査の結果等について【長野県】」の説明の中です。処置の具体的な内容については説明はなかったようですが、そういうものを処理できる施設で一番近いのは岐阜県可児市にあるダイセキ環境ソリューションなので、そこへもっていったのではないかと思います。飯田下伊那にはそういう施設はありません。

 11月14日の技術委員会では、松川工区からでた要対策土について、「適切に処置」したといっていることは間違いないです。他の場所の要対策土も「適切に処置」すれば良いはずで、何も自社用地や公共事業での活用を模索する必要はないはずです。

 4月24日から26日の説明会では、JR東海は松川工区から要対策土が出たこと、それを「適切に処置」したことについては説明をしませんでした。技術委員会への説明では少なくとも松川工区で約0.3㎥でたと説明しているのに。

 24日、上郷公民館で、松川工区の要対策土について説明がないよねと質問しました。JR東海は、松川工区では仮置き場がなかったので緊急避難的に汚染土壌を処分する事業者のところへ持ち込んだのだと。松川工区の話は「例外」で今回の説明の要対策土とは違うみたいな説明をしました。

 松川工区、つまり飯田市内の工区からは、要対策土は出てこないと予測していたようで、仮置き場を準備していなかった。それで、土砂ピットが満杯になってトンネルの掘削ができなくなってしまったので、あわてて、県外の施設へ運んで処置した。ところが、技術委員会では、トンネルを掘れば要対策土はでるものとか、発生量の予測ができないとか、一方でいっている。いってることがめちゃくくちゃです。現在、JR東海は、飯田線の川路駅北そばにある長細い自社用地を仮置き場にしようとしています。

 JR東海は3月26日に修正した保全計画、つまり、助言に従って、土曽川橋りょう工事で使うことになった経緯を補足しています(p58-59)。技術委員会や、それに比べると不十分な住民説明会と比べても、「経緯」という点ではすごく簡単になっています。はしょっています。伊那山地トンネルの分、そして松川工区の話は何もありません。これでは経緯の説明ではなく、助言をまじめに受け止めているとは言えない。

 なお、自社用地内で活用できる分量については予測できるのではないのかと質問をしたのですが、明確な回答はありませんでした。できるはずなのに。

 それはそれで、JR東海ならやりそうなことですが。少なくとも、1月27日の長野県の助言は、要対策土を使うに至った経緯を住民に説明するよう求めているんですから、技術委員会で行ったのと同じ内容というか、説明した「事実」については漏れなく説明すべきだったのに、松川工区の要対策土については質問が出るまでは何も説明しませんでした。

泥縄式の対策は無理に無理を重ねるリニア技術と親和性が高い

 ケーソン基礎内部から重金属類が漏れた場合には、技術委員会では遮水壁を設置するといっていたのですが、今回は「重金属類」を吸着する働きをもった「透過性地下水浄化壁」というものを地中に「構築」(※4)して、その壁は水がとおるので、とおる途中で重金属類を吸着させると説明。岡山県吉備中央町で浄水場の水からPFASが検出された問題で、浄水場の水源ダムの上流の山中にPFASの除去に使われた活性炭が放置されていたことが原因と見られています。「透過性地下水浄化壁」を未来永劫そのままにしておいて良いものなのかという問題もおきます。その土地がJR東海の鉄道用地のなかだけですむのかということもあって、そういうものがあるのであれば、その土地でなにか建設しようとすれば、結局地中にそういうものがあるので、将来その時になって何らかの対策が必要になるはず。土壌汚染対策法の適用になってくるんじゃないかと思います。

(補足) 自社用地内で「透過性地下水浄化壁」の設置はできるのかとの質問に、最近は丈の短い打ち込み装置があるので高架の下でも工事ができると説明しようとしましたが、地下水の流れる方向によっては、鉄道用地の外側に設置しなくてはならないこともあるわけですから、何を勘違いしていたのかと思いますね。

 結局、JR東海の要対策土の対応は、場当たり的に、解決を先送りしているだけです。こんな杜撰な工事計画を認可した国の責任は重いと思います。

飯田市との協定は? 飯田市、「やらせる」

 要対策土を使う場合に飯田市と協定を結ぶのかと質問した方がいました。JR東海は、環境保全計画に対策については述べたので、協定は結ぶことえは考えていないと答えました。『信毎』(24日)や『中日』(25日)の記事はこのことを書いていません。担当者がネボケテイルと思ったのかも知れません。『南信州』は25日1面で、記事本文ではふれてないのですが、見出しで「飯田市と書面確認へ」と書いています。この点について、26日の説明会終了後に会場に来ていた飯田市の担当者に確認すると、「やらせる」とのことでした。

 でも、やはり土曽川橋りょうのケーソンには使わないのが、飯田市にとっても、もちろん住民にとっても、そしてJR東海にとってもベストなのに、JR東海が考えていることは理解できません。

 そもそも、JR東海が要対策土を使うと言いださなければ、工事は早く進んだはずなのに、迷惑な工事を早く終わらせるために要対策土を使ってもらっても良いという声もあったことも事実です。

 今回、使ったとしても、まだまだ要対策土が出てくるはずですから、誰もが安心できる適切な処分場所と処分方法を十分に検討して、そこに置くべきで、それには時間は係るけれど、その間は仮置き場できちんと管理すればよいことで、要対策土の処分については、なにがなんでも開業までに決着をつける必要性はないはずです。

 工事を中止して=開業を断念して、要対策土の全量を確定してなら、処分先もそれほど多く確保することもないわけで、要対策土が出てきて困るなら、トンネルを掘らなければ良いわけです。

説明会スライドをくらべてみる

 要対策土を使うと初めて説明した2024年2月の住民説明会、11月14日の技術委員会、今年4月23日から26日の住民説明会でJR東海が使ったスライドを比べると。

 この説明会のスライドの注目点は:

 技術委員会で使ったスライドの注目点は:

 このスライドの注目点は:

 じつは、松川工区の具体的な量については、11月14日の技術委員会を傍聴してはじめて知りました。

 「ひじき」に含まれるヒ素は有機ヒ素で人が食べてもすぐに尿の中に出てしまう。海藻類に含まれる有機ヒ素は影響がなく、毒性があるのは無機ヒ素と説明する本もあります(『元素118の新知識 第2版』講談社ブルーバックス、2023年7月、p192~)。また、海水には無機ヒ素が含まれるが、海産生物には異常に高い有機ヒ素化合物が含まれるのに中毒を起こさないのは、このような有機ヒ素化合物には毒性がないことが明らかなどという本もあります(『ハンディー版 環境用語辞典』共立出版、2000年6月、p237)。ヒ素には+3価と+5価の化合物をつくりとか、+3価のAs2O3は猛毒であるとか、ヒ素化合物をセメント固化すると再溶出するおそれがあるなどと書いている本もあります(『廃棄物処分・環境安全用語辞典』丸善、2000年2月、p331)。

 つまり、安全な有機化合物の形でヒ素を含む「ひじき」を、危ないかもしれない残土中に含まれる無機のヒ素化合物といっしょくたに比較しての説明は不適切じゃないかと思います。ひじきは学校の給食で散々食べました。今も好きで食べます。ただし、去年の2月から、ちょっと心配になって控えてましたがね。だいたいひじきってそのままでちゃいますよね。

 残土に含まれるヒ素はどういう化合物として含まれるのかと質問しましたが、基準値を説明するだけで、どういった化合物であるのかは説明はありませんでした。たぶんそこまで調べていなかったのかも知れませんね。

 技術委員会ではひじきの説明をしていないのはなぜなんでしょうか…?(笑)

 がしかし、区分しなさいよと規定されているんですから、「危険」なことは間違いないはずです。


※1 山梨実験線の建設が始まったのが1990年11月。トンネル部分が長くなることが最初から分かっていたのだから、要対策土の処分方法まで開発すべきだったのにやっていなかった。廃棄物の始末を考えていなかったリニア計画は、昔の公害企業の考え方と同じで、走行方式そのものの安全性についても大丈夫なのかなと思ってしまうよ。

※2 4月27日に長野県が助言を通知したというニュースリリースのページを確認したら、肝心の助言の、別添(PDF:203KB)*別添(PDF:203KB)**、それから非常に問題のある、プレスリリース資料(PDF:423KB) の3つのファイルが「削除」された形になっています。令和7年4月組織改正等に伴うURL変更のお知らせによれば、完全に削除されたわけじゃないようですが、親ページのニュースリリースは残っているんですから、何とかしろよですね。(*と**は内容が同じなのにファイル名が違っています)

長野県の助言のキャッシュ、プレスリリース資料のキャッシュ

※3 会議録p22。ただし、JR東海の説明者のこの部分の説明は不正確。「…三つ目の03、これは小渋川非常口ですが、こちらにつきましては、土壌汚染対策法に定めるホウ素、次にいきまして08、これは松川工区でございますが、こちらについてはヒ素がそれぞれ基準値を超える土を確認しています。こちらにつきましては、それぞれ適切に処置をしたということでございます。」説明に使っているパワーポイント(資料2 中央新幹線に係る「令和5年度における環境調査の結果等について【長野県】」の概要(PDF:1,383KB)、2ページ)をみると、「適切に処理」したのは松川工区だけ。「それぞれ適切に処置をした」わけじゃない。

※4 「構築」というのは「つくって」ということだと思いますが、説明担当者が理解できても住民一般が理解しやすい言葉を使わないと丁寧な説明とは言えない。

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