更新:2025/05/13

横浜博覧会のリニア

 『Merkmal』 "リニア中央新幹線だけじゃない! 80年代、横浜で「世界初」営業運転があった! なぜ短命に? 幻の技術と夢の跡"。ちょっと気になる点があったので書き出してみました。

 そういえば、5月10日の『朝日新聞』の読者の投書欄・声に「夢のリニア いつか親子4代で」という投書がありました。投書の主は、1989年の横浜博覧会でリニアモーターカーに乗車したと書いています。

(1)世界で最初に大量の乗客を運んだ磁気浮上式鉄道はドイツのトランスラピッドTR-05型がハンブルクの国際交通博で1979年のこと(時速75㎞、全長908m、53日間で約5万人を運ぶ)。1985年につくば万博で、1987年に岡崎葵博覧会でHSST-03型が展示走行。1989年に横浜博覧会でHSST-05が「営業運転」。これらは車両の安全性と軌道の設置のしやすさを示すのですが、超電導リニアより先行した点こそが重要(参考)。

(2)1970年の大阪万博で展示された国鉄のリニアモーターカーの模型は「1/20の模型3両が全長約55mのレールを約10mm浮上した状態のまま、時速20kmで走行」(参考:パビリオンめぐり/ EXPO'70 Pavilions Tour)。この動画で模型の軌道のようすが分かります。軌道の中央の溝をたよりに方向を決めているようです。たぶん軌道側の上面と車体側の下面に磁石の同極が向き合う形で配置してあって、反発力で浮かして、軌道の下側にリニアモーターの界磁コイルがあって、車体の下側に突き出た部分が軌道の溝にはまっていて、その先に界磁コイルから力を受けるアルミ板とか永久磁石などがあったのではないかと思います。常電導の磁気浮上の原理は1935年には発表されていたのですが、そのあたりの展示があったのかどうか、昔のことなので分かりませんね。鉄球が空中に浮揚する実験のほうが目を引いたのではないかと思うのですが。

(3)JR東海は、当初、名古屋までを約5兆4千万円で建設するといっていたものが、途中で1兆5千億円増えて約7兆円になった。「当初、約7~9兆円を投じて」はおかしい。

(4)「超電導」を使うなら「常電導」のほうが良いのに「常伝導」になっている。

(5)HSST方式について、「車両下部の電磁石とレール側に設置された誘導コイルの相互作用で浮上する仕組み」と説明していますが、これは完全にマチガイ。レール側にはコイルはありません。鉄のレールに車体側の電磁石が吸い付くことで浮き上がります。軌道にはアルミの板が貼ってあって、向い合う車体側コイルによって、アルミの板のなかで起きる渦電流との相互作用で推進します。「誘導コイルの相互作用で浮上する」のは超電導リニア。超電導方式と常電導方式のメカニズムをきちんと把握してから記事にしたほうがよかったかも知れませんね。⇒ リニモの特長・浮上・推進の仕組

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HSSTの仕組み

 「横浜で『世界発』営業運転があった!」という見出し、「1980年代には神奈川県某所でその技術を活用した営業運転が実現した歴史がある…それは、わずか約半年で姿を消してしまった。日本初の営業運転が行われた磁気浮上式リニアモーターカーとは、一体どのようなものだったのか」という捉え方でHSSTを紹介して超電導リニアと比べるというのは、大げさすぎます。 。

 「スピード」を「夢」とつなげているんですが、技術的には、ゆっくり走れるほうが安全性の点では重要だと思います。実際、HSSTにしてもトランスラピッドにしても、停止状態でお客さんを載せて、まず浮上して、ゼロからだんだん加速していく仕組みなので、普通のこれまでの電車と同じです。車輪でしっかり加速しないと浮かばない超電導とは全く違います。どちらが安心か、安全か?

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